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【BL】前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか  作者: Bee
前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
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2

 ——ゆらゆら。頭が揺れる。


 気がつくと俺は、なんだかふわふわとした心地よい布団の中でまどろんでいた。


 あーなんだかすげーたくさん寝た気がする。


 このふわふわな布団が気持ちいい。雲の上にいるみたいだ。こんな寝心地いい布団なんか、初めてだな。どこの布団なんだろ。起きたらメーカー聞いて、速攻買いに行こう。


 しばらくまどろみに身を任せた俺は、ぼんやりと目を開けた。


 周囲はやけに明るくて、あまりの眩しさに、思わず強く目を瞑る。そしてまたうっすらと目を開けると、そこは白い部屋の中で、俺はやはり白いふわふわの布団に寝かされていた。


 いや、布団か? これ? ふわふわモコモコの綿? の上に敷かれたシーツ? だけどものすごく手触りがいい。


「……なにここ」


 ぼーっと上を眺めるが、そこには天井らしきものは見えず、ただ明るい空間が広がっているだけ。白くてフワフワしていて、なんだかよくある天国っぽいイメージ。


「あれ、俺どうしたんだっけ」


 結婚式場を出て、駐車場で車に乗って、それでなんだかヤケクソになって闇雲に車を走らせて……。


「……もしかして事故った? 俺、死んだのとか。はは、まさかな」


 寝転んだまま両手を掲げて見る。別に透き通ってたりはしない。いつもと変わらない……いつもと変わらない? いやいや違う!


「おい、俺のスーツは!?」


 慌てて飛び起きて、自分の服装を確認する。


 車に乗ったとき、たしか上着は助手席に置いた……かもしれない。でもシャツやズボンは脱いでない。脱ぐはずがない。


 それなのに俺は、着ていたスーツとは真逆の、なんだか真っ白でフワフワの、外国の映画でみるパジャマのようなワンピースを着ていた。


「お、俺のスーツ!!」

「はい、残念でしたー」


 そう叫んだ瞬間、背後から声がした。


 誰もいないと思って叫んだのに、後ろに誰かいた。


「……――え?」


 さっきまで誰もいなかったよな!? いなかったよな!? と心の中は大パニックに襲われつつ文字通り恐る恐る振り返ると、そこにいたのは――。


「え……黒木?」


 そこにいたのは、なんと大学時代の友人の黒木だった。


「よっ! 久しぶり! 俺のこと覚えてた?」


 二カッと顔を全体が笑顔になったような、そんな笑顔ができるのはやっぱり黒木だ。


「え? なに? なんで? 久しぶりって、いや、ちょっと待て」

「マジで久しぶり〜! 俺、ユウジにすっげー会いたかったんだ〜」

「え、お? いや、ちょっと黒木、わっ」


 動揺している俺に構うことなく抱きついてくる黒木。こういうとこ全然変わってない。

 いや、変わってないどころじゃないって。変わるはずない。だって黒木は7年も前に――。


「黒木、ちょっと待て! お前、し、死んだよな」

「まあな」


 そう言って黒木はまた二カッと笑って俺を見た。


 黒木とは大学が同じで、3年の春にバイクの事故で死んだ。


 黒木は山岳部ですげーゴツくて、それでもデカい犬みたいに人懐こくて、先輩後輩問わずみんなに好かれてたような奴だ。それでなんでか学部の違う俺にも懐いてて、構内で俺を見かけるといつもこうして抱きついてきて。


 俺はその頃ちょうどあいつと付き合い始めた頃だったから、誤解されるのが怖くて、やめろって何度も言ってて。


「え、ちょっと、じゃあやっぱ俺って死んだのか?」


 もしここが俗に言う天国ってやつならば、俺は死んだことになる。この真っ白な空間も、フワフワな雲のようなベッドも、そうだと言われれば納得しかない。


 でも自分が死んだなんて、自覚がなさすぎる!


(えっと、あの時車に乗ってエンジンかけて、それから闇雲に走って、それから――)



「そのあとの記憶がない!!」



 どれだけ記憶の糸をたぐっても、まったくもって思い出せない。恐怖に背筋がヒュッと冷たくなる。

 だがそんなふうに取り乱す俺とは対照的に、黒木はのんきな顔で笑っている。


「まあいいじゃん。ユウジ」

「よくない!!」

「でも、ここ居心地いいぞ〜」


 黒木がボフンとフワフワの上に寝転ぶ。

 確かに、ここはとても居心地いい。気温とか湿度とか暑くもなく寒くもなくちょうどいいし、このフワフワもかつてないくらい気持ちがいい。さすが天国。


「ユウジ、ほら」

「あ、ちょ、おい!」


 黒木が戯れるように俺の腰を掴んできて、俺はフワフワの上にボスンと勢いよく倒れこんでしまった。


 フワフワッと雲の欠片が空中に舞い、雪のように舞い落ちる。でも埃のような嫌な感じではない。本物の雪のように、肌に落ちてもさらっと溶けて消えていく。


 そしてその雪の間から、ニコニコの笑顔で、片肘をついた姿勢で俺を見下ろす。ずっとここにいるくせに、山で日焼けした逞しい体も、そして若さもそのままの黒木。対して俺は。


「……黒木変わんねーな。俺、年とったろ」


 黒木が死んだのは大学3年の頃で、あれから7年経った。黒木は21歳で時を止め、俺は先週で28歳になった。


 当時の黒木はおっさんじみたやや老け顔のイメージだったが、こうしてみるとまだ幼い顔つきで、無精髭がそう見せてたんだなって、今更ながら気づいた。


「ユウジも変わらないよ。俺の知ってるユウジのまま。キレイで優しくてさ〜。俺好きだったんだ、ユウジのこと」

「……」


 照れたようにへへへと笑う黒木に、俺は何も言い返さなかった。

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