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「……嫌いじゃない。でもね」

「俺が年下だからですか? 俺がまだガキだから」

「そうだね、ダイチと俺とじゃ年が違いすぎる。さすがに30歳近く年が離れているのは……」

「俺は構いません」

「でも俺が気にする。俺とじゃ、ダイチとよりもご両親とのほうが年が近いだろ? 大事なご子息が俺みたいな男とって、ご両親が嫌な思いをするだろう」

「俺みたいな、なんて言葉使わないでください。それに両親がどうとか、そんなの関係ないです。ユウジさんは誰かと付き合うとき、いちいち親に報告するんですか? 言わないでしょう? 俺だってそうです」

「それはそうだけど……それでも人様に後ろ指さされるような交際はだめだろう」


ずーっと親にひた隠しにしているゲイの俺が、そんなこと言う資格はないんだけどね。それにここまで言われたらダイチも諦めるだろう、そう思ったけど、それでもダイチはひるまなかった。


「俺はユウジさんと付き合うことを恥だとは思わないし、誰かに後ろ指さされようと気にしない。それに――」


 ダイチは立ち上がって、俺の前に来た。そして膝をつくと、ロッシュを撫でる俺の手を取り、俺を見上げた。


「俺の両親は、小さい頃から友達もできず、外にも出ず引きこもっている俺を心配していました。母はそんな俺に、もしいつかあなたに大事な人ができたらケーキを作って一緒に食べなさいって、ケーキの焼き方を教えてくれました。美味しいケーキを焼けるあなたを嫌う人はいないからって。……これまで誰かを好きになるどころか、他人に一切興味のなかった俺が、こうしてユウジさんに出会えて、恋を知りました。ケーキはユウジさんにしか作ったことありません。――もし両親に話す日が来たとしても、きっと受け入れてくれるはずです」

「ダイチ……」


 まずい。顔がニヤける。

 こんな告白の仕方ってある!?

 しかもダイチの手作りケーキ! あれにそんな意味があったの!?


 母親が感情表現の乏しい我が子を心配して、恋愛で失敗しないようにケーキで餌付けする方法を教えたってことだよね!?


 ダイチはその通りに、せっせとケーキを作って俺に食べさせていたわけか。

 完全なる求愛行動だとは知らずに、俺ってやつは……!


 ダイチの告白に、俺はもはや陥落寸前だった。


 もうあと一押しされれば、俺はダイチの告白にうんと言うだろう。もうそれぐらいグラッときていた。そんな俺を見透かしたのか、それまで俺の膝の上で大人しくしていたロッシュが、まるで俺に目を覚ませと言わんばかりにキャンと一声大きく吠えた。


「あ……、ロッシュどうした? 2人で話をしてたから気に入らなかったのか?」


 さっきのは本気でヤバかった。ロッシュがいなかったら、危うく受け入れるところだった。


 よしよし、よくやったロッシュと心のなかで感謝しながら、ロッシュのふかふかの頭を撫でようとした。だがその手はまだダイチに握られている。俺の手を握る力が、瞬間ギュッと強くなった。


「ユウジさん」

「ダイチ、ごめん。それでも俺は君を受け入れることはできない」

「でも、ユウジさんは俺のこと嫌いじゃないんですよね。じゃあ何にそんなにこだわっているんですか? 社会的な体裁ってやつですか」

「……君、案外食い下がるね」

「俺自身も、諦めの悪い自分に驚いています」


 本当にすごい執着心。あの日、夢で会った黒木のことを思い出すな。


「じゃあ、ダイチのこと嫌いだって言ったら諦めてくれるのかい」

「今更ですよ。そんなこと言われても、俺は信じないです」


 ダイチの大きな手が、さらに強く俺の手を握り返す。

 これはもう俺がうんと言うまで離さない気だ。


 俺は深く、諦めのため息を吐いた。


「……分かった。分かったよ。じゃあ俺が何にこだわっているか、ダイチに話すよ」


 仕方ない。もうごまかすことを諦めよう。俺はロッシュを抱いたまま立ち上がり、ダイチにも立つように促すと一緒にソファへ移動した。


 そしてダイチに向き合い、「突拍子もない話なんだけど」と、話を切り出した。

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