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「俺、ユウジさんが好きです。俺と付き合ってください」
まっすぐに俺のことを見つめるダイチ。
ついこの間まで学生服を着ていたような彼からの、それこそまっすぐすぎるアプローチに俺は苦笑いした。
俺は48歳で、ダイチはこの間誕生日を迎えたから21歳。そう、それでもまだ21歳だ。
どう考えてもおかしいとしか思えない。
まだ若く、これからいくらでも出会いのある彼が、俺のようなおっさんを好きになるなんて。
(やっぱり前世の影響とかがあるんだろうか)
黒木の俺への執着心がそのまま彼に受け継がれたとしか思えないほどの一途さ。
彼が黒木の生まれ変わりかどうかの確信はない。
でも、俺に対するこの執着は、もう、そうとしか思えない。
――それが俺には心苦しかった。
「はいはい。ありがとう。ダイチくん」
動揺をごまかすように、俺は足元でぐるぐる回りキャンキャンと自己主張するロッシュを抱き上げた。
「ユウジさん……! 冗談とかじゃなく、俺本気なんですって。……それとも他に好きな人がいるんですか」
「ハハッ、いないって」
「じゃあ……!」
「でも俺にはロッシュがいるし、いまさら誰かと親密なお付き合いとかって、もう面倒な年齢なんだよ」
「……でも俺はユウジさんが好きなんで」
「俺は君の気持ちに答えるつもりはないよ」
「それでもいいです。ただ俺が好きなだけです」
眩しいまでのこのまっすぐさが、余計に俺の心に罪の意識を抱かせる。
完全に黒木の呪いだよ。本当にごめんよダイチ。
「……そんな顔しないでください。俺、ユウジさんに無理やりとか、そんなこと考えてませんから」
いやーダイチはいい子だよ、本当に。
黒木は俺を無理やり襲おうとしたけどね。そういうところはアプデされてんのな。俺が無理やりは嫌だって言ったからか?
――ただ、俺だってダイチのことは嫌いじゃない。
背が高くて顔はイケメンだし、スポーツをやっているからか、手足は長くてガッチリと体格もいい。なにより優しいし、若いのに気がきく。
まだ幾分の幼さが顔に残るとはいえ、男としての魅力はバッチリだし、年の割に落ち着きある性格も含め、俺好みではあることは間違いない。
でも、やっぱり黒木という魂の影響力によって俺を好きであろう、この28歳も年下の子に性的な愛情を向けるのは、やっぱり大人として間違っていると思うんだよな。
やっぱまずいよ。
それにダイチのご両親、俺と年齢近いかもって思うと、さらにキツイ……。
◇
「――黒木に俺のこと諦めさせることできねーかな」
「はぁ? つか、なんなのその話。マジなわけ?」
佐藤が居酒屋の向かいの席で、ビール片手に訝しげな顔をした。
付き合いの長い佐藤には、これまでダイチのことを話してはいたが、黒木がらみのことは全く言っていなかった。
事故の日に黒木に助けられたことは夢で片付けていたし、死んだ友達が実は俺のことが好きで〜みたいな恥ずかしい妄想話、普通誰にも言えるはずない。
でもさすがにここまでくると相談するにも全部言うしかないと、俺も腹をくくった。
そして相談した結果が、これだよ。
「えーお前、そんなスピ? オカルト? 系だったっけー? お前のこともっと現実主義的な男だと思ってたんだけど……。うわー、俺マジで今後の付き合い考えるわ」
わざとらしく、ドン引いてあたかも嫌悪したような表情をする佐藤。
「お前な。その言い方はさすがに傷つく。だから言いたくなかったんだよ。俺だって最初はただの夢だと思ってたよ。でもそうとしか思えないんだって」
「まあ確かに。28歳も年下で、顔もよくてスタイルもいい。お菓子も作れてさらには性格もいい子が、俺たちみたいなオッサンを好きになるなんか考えられねーよな。俺でもそんな都合のいい展開、何か罠があるんじゃないかって疑うわ」
まあ罠だとわかってても、俺は一発ヤッちゃうけどな! と、この間若いキャバ嬢との不倫がバレて、奥さんとの離婚騒動に発展した佐藤は、反省する様子もなくおちゃらけながらビールを煽った。
「んで、確認するけどさ。黒木のことはまあ置いといて、ユウジはその子のことどう思ってんだよ。ただ迷惑なだけなのか?」
「あー……」
そこなんだよね。問題なのは。迷惑なんかじゃないってことが大きな問題。
「俺としては、このままいい関係でいたいっていうかさ……」
「変にごまかすなよ。はっきり言ってみろ。好きなのか嫌いなのか」
「……好きになりかけてる、ところはある」
「なりかけてる? って、はっきりしねーなぁ」
「そりゃ、ストレートに好きだって言ってもらえて、俺も嬉しいよ。そりゃ俺だってクラッとくるさ。でもなぁ。やっぱ黒木のことを考えると……」
「やっぱ黒木が出てくるのか」
「彼はすごくいい子なんだよ。これまで出会ったヤツの中で、群を抜いて本当にな。だから余計に困るんだ。将来有望な子がこんなおっさんを好きだとかさ。しかも前世がどうとか、そういうところに縛られてると思うと、ものすごく胸が痛い」
「……」
佐藤は聞いているのか聞いていないのか分からない感じでふーんと口の中で呟くと、残りのビールを一気に飲み干し、「すんませーん」と注文のために店員を呼んだ。