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51・伯爵令嬢は王太子に愛されている②(最終話)


 陛下の話にエリオットが身を乗り出して入ってきた。

 

「執務補佐官ならば、殿下と自然に時間を過ごすことが出来ますし、ついでに俺もいるのでお二人の関係をサポート出来ますし!」


「……わらわもそう思ってエリオットにサポートを頼んだのだが、こやつ、微妙にぽんこつでなぁ……。結果的にちゃんとくっついたから良いものの」


「すみません! 心当たりしかありません!」

 

 エリオットのサポート、と言われて今までの事を思い返してみれば、確かにそれらしきことをされた覚えがあった。


 中庭で昼寝をするウィリアム様を探してきてほしいと、エリオットから頼まれたこと。

 フェルゼン領の視察でエリオットが一人だけはぐれたこと。

 エリオットの代わりに私がウィリアム様の公務・オペラ鑑賞へ同行したこと。

 ことある事に相談に乗ってくれたこと。


 どこまでがエリオットの意図的な行動なのか私には判別できない。だが、思い当たるものはどれもウィリアム様と私の距離が近づくきっかけとなったものだった。


 ――それにしても、私の周りの人たちが、こんなにも色々画策して動いていたとは知らなかったわ。

 

 陛下に平謝りするエリオットを眺めながら、私は今まで疑問に思っていたことが一気に解決していくのを感じていた。


 以前疑問に思ったことはあったのだ。

 未婚の王族には、色恋沙汰に発展させない為に基本的には同性の執務補佐官がつけられる。それなのになぜ私が――と。


 ――それがまさか、意図的だったとわね……。


 はなからくっつくける目的で執務補佐官に任命されていたのなら、もう納得でしかない。

 

「まぁ、そういうわけだ。だから、お前は胸を張ってウィリアムの隣に立ってくれ。お前に文句を言うものがいれば、わらわが受けて立とう」


「……はい。ありがとうございます、陛下」


 私はなんと心強い言葉を陛下から頂いたのだろう。ずっと私が抱いていた、ウィリアム様の隣にいていいのか、という不安が溶けて消えていく。


「それから、二人きりの時はわらわのことはお義母(かあ)様と呼ぶように! わらわは娘も欲しかったのだよ!」


 ――ひええええ……!


 陛下は嬉しそうに私の片手を握った。満面の笑みでぎゅうと握りしめてくる。憧れの陛下からのありがたいお言葉に、嬉しいやら戸惑うやらで私は困ってしまった。

 そのとき、今まで黙って話を聞いていたウィリアム様が席を立ち上がった。


「ソフィ。母さんの相手は適当でも大丈夫だから」


「え、そういうわけには……」


 陛下は一国の主で、将来的に私の義理の母になる方だ。適当に相手をするわけにはいかないだろう。

 

「行こう。ここにいたら母さんのおもちゃにされる」


 しかし、ウィリアム様は私の手を引いて立ち上がらせた。陛下に握られていた片手はするりと解けていく。


「ふふふ。いいよ、いっておいで。またなソフィリア」


「殿下ー! 暗くならないうちに戻ってきてくださいねー!」


 そんな陛下とエリオットに見送られ、私とウィリアム様は庭園から移動することになった。



 ◇◇◇◇◇◇



 ウィリアム様は黙ったまま、私の手を引いて城内を歩いていく。


 ――もしかして中庭に行こうとしているのかしら。

 

 進んでいるのは、私にとってすでに馴染みとなった道だった。大広間へ向かって、廊下を真っ直ぐに進む道。


 私の予想した通り中庭へたどり着くと、ウィリアム様はいつもの大木の下へ座り込んだ。

 大木の葉はすっかり落ちて、秋の終わりを告げようとしている。

 私はウィリアム様の隣にそっと腰を下ろした。


「ごめん、無理やり連れ出して」


「いいえ。大丈夫ですよ」


「あのままあそこにいたら、母さんにからかわれる気がして……」


 ――まぁ、確かに……。


 陛下は息子であるウィリアム様の成長が嬉しいのか、やたらとご機嫌だった。

 あのままだと、延々と私たちのことを話のネタにしてくる可能性は高かっただろう。


「……でも、嬉しかったですよ。ウィリアム様がずっと前から私のことを気にかけてくれていたってわかって!」


 すべての始まりは、ウィリアム様が私のことを気にかけてくれたからだった。

 

 あの日、ウィリアム様が私のことを気にかけ無かったら。エリオットや陛下、父の協力がなかったら。

 私とウィリアム様の今の関係は、きっとありえないものだっただろう。


「ソフィ……」

 

 私が素直な気持ちを伝えると、ウィリアム様は一瞬目を見開いた。それから幸せそうに瞳を細める。

 

「ここで君と初めて会ったあの日、俺は君の瞳から目が離せなくなったんだ」


 ウィリアム様は愛おしげな仕草で私の頬へ触れた。そのままそっと顔を引き寄せられる。

 額が触れ合う距離でウィリアム様に見つめられて、私の身体が一気に熱を持つ。


 ――……やっぱり、綺麗。


 私だって、ウィリアム様と同じだ。

 私もウィリアム様と初めて会ったあの日、澄んだセレストブルーの瞳から目を逸らせなくなったのだ。


 ――私もきっとあの日から、ウィリアム様に惹かれていたんだわ。

 

「あの日からずっと、俺は君を愛している」


「……私も、お慕いしております。ウィリアム様」


 優しい口付けを落としてくるウィリアム様の体を抱きしめたくて、私は彼に手を伸ばした。

 

 

 

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