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40・ガーランド伯爵家はいつも賑やか


「ただいま」


「お嬢様、おかえりなさいませ」

 

 屋敷に戻ると、メイドが私を出迎えてくれた。


 あの後、ウィリアム様と談話室で他愛もない会話をしていたら、結局遅くなってしまった。

 もうすっかり時刻は夜だ。

 

 とりあえず一旦自室へ戻ろうと、私が階段を上りかけた時、私の後ろをついてきていたメイドが「あら?」と声を上げた。

 

「お嬢様、そのリボンはいかがされたのですか? 今朝つけられていたものとは違うようですが……」


 ――うっ、よく気づくわね。

 

 さすがはメイドと言うべきか。鋭い。

 今朝つけていたリボンも、今私がつけているウィリアム様からいただいたばかりのリボンも、どちらもシックな色合いで雰囲気は似ている。それなのに、よくこの一瞬で違うリボンだと気づいたものだ。


「そ、その通りだけど……」


「まさか、どなたからかの贈り物ですか?」


 否定も出来ず、気恥ずかしさを押し隠しながら肯定すると、メイドは食い気味に質問を重ねてきた。

 目がキラキラと輝いていて若干怖い。

 

「……日頃の交友関係や、お嬢様の性格から考えますと……。ずばり贈り主は、ウィリアム王太子殿下でございますね!!」


 ――鋭すぎる。


 メイドは眼鏡をかけてもいないのに、クイッとメガネのブリッジをあげるような仕草をした。まるで推理をする探偵気取りだ。


「は、はは……。さすがね……」


 私はメイドにから笑いを返しながら、逃げるように階段をのぼりきる。

 二階へたどり着くと、廊下の奥から父が歩いてきた。どうやら書斎から出てきたようだ。

 

「おお、帰ったのか。おかえり、ソフィ」


 私が「ただいま」と返事をするよりも早く、私の後ろを歩いていたはずのメイドが父へ駆け寄った。


「旦那様! お聞きください! お嬢様が王太子殿下より、リボンの贈り物を(たまわ)ったそうでございます!!」


 ――いや、目の前に本人いるから報告しないで!?


 メイドが自分のことのように喜んでくれているのは分かっているが、屋敷中に響く大声で言いふらされるのは少々……いやかなり恥ずかしい。

 

「なんだと!? でかした!」


 メイドから報告を受けた父は私の元へ大股でやってくると、上から私の頭をぐるぐると見回し「うむうむ」と満足気に頷いた。


「さすがは陛下の愛息子! なかなかセンスも良いとみた!」


「人に無関心で有名なウィリアム殿下がこんな贈り物をしてくださるなんて、お嬢様ったら相当気に入られているのですね……!」


「……っ」

 

 メイドはうっとりとした調子で語る。私はメイドの発言を聞いて、自分の頬がカッと熱くなるのを感じていた。

 何となく、ウィリアム様に抱きしめられたことを思い出してしまったのだ。


 私の反応を見てか、父が突然ぐわっと目を開いた。そのままの勢いで、がっと私の両肩を掴んでくる。


「うわ……っ」

 

「……っソフィ! もしやついに殿下と何か甘〜いラブロマンスでもあったのか!? 仕事人間だったお前にやっと春が!?」


「お父様……! 興奮してるのはわかったわ! わかったから強く揺らさないで!!」


 熊のような大男で騎士団長を勤める父は、当然ながら力が強い。そんな父に揺すられるのは、いくら加減してくれているといえどしんどいものがある。


「旦那様! わたくし、他の使用人を招集して参ります! パーティーの手配を致しますわ!」


「恥ずかしいからやめて!?」


 意気揚々と宣言したメイド、今にも駆け出していきそうだ。

 私は慌てて彼女を引き止めた。


 ――ああ、なんで我が家はこんなに騒がしいのかしら……。


 父は興奮冷めやらぬ様子だわ、メイドは舞い上がるわで、我が家はあっという間に大騒ぎになってしまった。


 どうにかパーティーを開催されるのは止めることができたが頭が痛い。だが、決して嫌な気持ちではなかった。

 

 父もこの屋敷の使用人たちも、みな私を大切に思ってくれている。だからこそ、ここまで反応を示してくれているのだと理解している。


 ――でも、たまには静かに過ごしたいわ……。


 その数日後、そんな私の日常をさらに騒がしくする出来事が起きるとは、この時はまだ想像すらしていなかった。


 


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