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04・女王陛下は命ずる①


 茶会での一件から数日後。


「陛下。しばらくお休みをいただき、ご迷惑をおかけいたしました」


 しばらくぶりに出勤した私は、王城にある女王の執務室で、上司である女王陛下に深々と頭を下げていた。


「よいよい。ソフィリア、おもてを上げよ」

 

 陛下の慈愛に満ちた声に、私はそっと視線を上げる。

 陛下は、執務机の前にゆったりと座り、全てわかっていると言わんばかりに鷹揚に頷いていた。


 ――やっぱり、いつお会いしても美しいわ。

 

 彼女は、エルエレリア王国を治める主、エリザベート・ファウスト・エルエレリア女王陛下。

 陛下の気品溢れる佇まいと自信に満ちた振る舞いは、どんな人間でも従わせてしまう魅力がある。

 私と歳の近い息子を持つ母親でもあるなんて、分かってはいても受け入れ難いほどの美貌。そして優しさと冷静さ、お茶目さを兼ね備えた陛下には、性別や国境を超えてファンが多い。

 かくいう私にとっても、エリザベート女王陛下は憧れの存在だ。


「状況は聞き及んでおる。事後処理でいろいろと大変だったのだろう? 気にするな」


 言いながら、陛下は肩にかかった金の巻き髪を指先で軽く払いあげた。


「ありがとうございます、陛下」


 お礼の言葉を口にしながらここ数日のことを思い浮かべてしまい、私は思わず遠い目をしてしまう。

 

 確かに陛下のおっしゃる通り、中庭での事件の後、ガーランド家(我が家)はそれなりに大事(おおごと)だった。


 屋敷に帰って事情を話せば、いつも穏やかなはずの父が目を釣りあげて「わしの大切な一人娘にそんな仕打ちをするとは!?」と怒り狂ったのだ。連日、騎士団長の証である大剣を片手にエディン家へ乗り込もうとする始末。

 

 私の父は、曲がりなりにもエルエレリア王国騎士団長である。私の力だけで父を引き止めることは不可能だった。毎日使用人総出で、熊のように大柄な父の体にしがみついて引き止めて、なだめて。

 事態を把握したエディン侯爵様から謝罪をしたいとの申し出があったものの(なお、申し出があったのはエディン侯爵様のみ。シュミット様は音信不通の行方不明らしい)、キレ散らかしている状態の父ではエディン侯爵様と顔を合わせたと同時に切りつけかねない。

 やっとのことで父を冷静に戻して、エディン侯爵様と話し合い、婚約破棄の手続きを終わらせた。

 エディン侯爵様が、息子のしでかしたことに責任を感じている様だったのが、せめてもの救いだ。

 

 ――正直、婚約破棄の事後処理より父の怒りの処理の方が大変ってどういうこと……。


 わざわざ私が仕事を休んだのは、もちろん婚約破棄の事後処理のためでもある。だが、父の怒りを鎮めるために休んでご機嫌を取らざるを得なかった、というのが正しい。


 ――いつもは私に甘いお父様だけど、怒ると怖いし面倒くさすぎる……。


 うちは早くに流行病で母を亡くし、父一人子一人で生きてきた。だから、一人娘である私に対して過保護気味になるのは理解出来るが、さすがに流血沙汰になるのは避けたいところだ。


「一昨日の夕暮れ、お前の父がワイン瓶片手にわらわのもとへやって来た時は驚いたわ。しかも、泣きながら愚痴をこぼし始めてのう……」


 ――お父様!?


 ほうと、溜息をつく陛下の口からこぼされたとんでもない情報に、私はぎょっと目を剥いた。

 

 一体、一国の女王陛下を相手に何をやっているのだ、うちの親は!


「も、申し訳ございません! 父がご迷惑を!」


 わたわたとする私を見て、陛下は少女のようにころころと楽しそうに笑った。

 

「よいよい。あやつは幼なじみのようなものだし……。それに、あやつとわらわの境遇は同じだからな」

 

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