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18・女王のお茶会


 そうして訪れた、女王陛下とのお茶会の日。


 私はピンクブロンドの髪を下ろしてシフォンのドレスを身にまとった姿で、陛下との待ち合わせの場所へ向かって城の前庭を歩いていた。


 ――この姿になるのは、久しぶりに感じるわ。


 しばらく社交の招待はすべて断っていたために、ひらひらとしたドレスを着るのがずいぶんと久しぶりに感じられる。

 シュミット様との一件から、噂好きの貴族たちばかりが集まる社交の場へ参加するのが気まずかった、というのもあるのだが、何よりウィリアム様の元で仕事をするのが楽しかったのだ。

 

 ――待ち合わせは、昼下がりに城の庭園のガゼボだったわよね。


 陛下との待ち合わせの時間と場所は、先日渡された手紙に記されていた。


 庭、といっても殿下が昼寝をしていたあの中庭とはまったく違う場所だ。

 城の敷地内には広大な庭園もあり、ここでは年に一度ガーデンティーパーティーが開かれたりもする。中庭と違って公的な利用もされることがある場所だ。


 庭園は背の高い生垣で囲まれ、迷路のようになっている。

 生垣をぬけ、ガゼボのある付近までたどり着くと、女王陛下は既にそこにいた。

 ガゼボの下にあるガーデンチェアに優雅に腰かけ、ティーカップを傾けている。

 

「よく来てくれたな、ソフィリア」


 陛下は私の姿に気づくと、ゆったりと微笑んだ。

 私は慌てて陛下のそばへ近寄った。

 

「すみません、お待たせしてしまいましたか!」


「いいや。わらわが早く来ていただけだよ」


 陛下は少女のようにころころと笑いながら、私に向かいへ座るように促す。

 私は促されるまま、陛下の向かいに置かれた椅子へ座った。

 近くに控えていたらしい城の使用人たちによって、アフタヌーンティーの用意が整えられていく。

 ガーデンテーブルに置かれた三段のケーキスタンドには、きらきらと宝石のように輝くお菓子が並べられていた。

 スコーンにカヌレ、マカロン……。色とりどりのお菓子はどれも美味しそうだ。


「ウィリアムとはどうだ? 上手くやっておるか?」


 使用人が私用の紅茶を入れてくれる中、陛下が尋ねてきた。

 

「はい。ウィリアム様にはとても良くしていただいております」


 それは、嘘偽りのない正直な私の思いだった。

 初めは、ウィリアム様の元で上手くやっていけるか不安だった。

 ウィリアム様は対人関係への興味が薄い、という情報を事前に得ていたし、実際に対面してみても素っ気ない対応だったからだ。


 ――でも、関わってみると最初の印象と違ったわ。


 ウィリアム様は、確かに人への関心が薄い方なのだろう。

 だけれど、ウィリアム様は素直で取り繕うことの無い方でもあった。


 ――悪い方ではなかった。


 ウィリアム様は先日の視察の際、私のことを「人として好ましいと思っている」と仰ってくださった。

 私だって同じだ。

 私も、ウィリアム様のことを「人として好ましいと思っている」。


 私の返答に、陛下は安心したように口元を笑みの形に引き上げた。

 

「そうか。それなら良かった。あの子は他者を受け入れるのが苦手だからな。心配していたのだよ」


 陛下はカップに入った紅茶を眺めながら言った。

 その表情は、私たち部下の前で普段はあまり見せることのない、親としてのものだった。

 

「陛下の望まれているであろうウィリアム様の話し相手にはまだまだ遠いかとは思いますが、今後も精進して参ります」


 私が陛下を安心させるべくそう告げると、陛下は一瞬ぽかんと目を丸くして動きを止めた。


「話し相手……? あ、ああ。そういえば一応そんな名目だったな」


 ――ん?


 陛下は取り繕うように「ほほほ」と口元を隠して笑っている。

 なんだろう。今引っかかる反応があったような気がするのだけれど……。

 タイミングを逃してしまって、私が陛下に尋ねることは叶わなかった。

 


 ◇◇◇◇◇◇



 1時間ほど庭園で陛下とお茶を共にしたあと、そろそろお開きということになった。

 

「今日は楽しかったぞ。また誘うからな」


 満足そうな様子の陛下にほっとする。

 私も久々に歓談ができて楽しかった。

 

 ――紅茶もお菓子も、最高に美味しかったわ。

 

 エリオットから事前に聞いていた通り、どのお菓子もとても美味しく、結構な数を頂いてしまった。

 紅茶もおかわりを貰ったから、すっかりお腹がぱんぱんだ。

 エリオットが餌付けされる理由もわかる気がする。


「こちらこそ、ご招待頂きありがとうございました」

 

 私がそろそろお暇をしようとしたそのとき、「ああそうだ」と陛下が何かを思い出したような声をあげた。

 

「ソフィリア、帰りはこの道を必ず通るように。必ずだぞ?」


 陛下はそう言って、私が進もうとした道とは逆方向を示す。


「え、な、なぜですか?」


 ――なんだか陛下のその念押し、この間も聞いた気がするわ。

 

 庭園の出入口はいくつかあり、私が行こうとしたのは一直線に城門へ向かう道。陛下が指し示しているのは城の裏側を通る道だ。要は遠回りになる。

 時刻は夕方手前。まだ時間には余裕があるとはいえ、なぜ遠回りを指定されるのか。


「良いから良いから」


「しょ、承知いたしました」


 しかし、陛下が仰ることだ。何かあるのだろう。

 機嫌の良い陛下にわざわざ逆らう理由も思い浮かばず、私は仕方なく頷いた。

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