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17・女王再び


 フェルゼン領を視察した数日後。


「邪魔するぞ」


 通常業務に戻ったウィリアム様の執務室へ、再び女王陛下がやってきていた。

 相も変わらず、威厳たっぷりで存在感のあるお方だ。


「視察はどうだった?」


 陛下はウィリアム様のいる執務机の前まで、つかつかとヒールの音を鳴らしながら進んでいく。


「どうって、報告書にあげた通りだけど」


 確かに、ウィリアム様は視察から戻ってきてすぐに領地視察の報告書を作成していた。

 ウィリアム様が作成した報告書には、私も目を通した覚えがある。

 

 端的に答えたウィリアム様に、陛下は何故かもどかしそうだった。ウィリアム様の執務机を指でトントンとじれったそうに叩いている。


「そうではなく、もっとこう、なんかあるだろう? 普段とは異なる場所で芽生えるロマンスというかなんというか……」

 

「なんの話」


 ――うん。一体なんの話?


 陛下の要領を得ない言葉に、ウィリアム様は怪訝そうな様子で眉根を寄せている。

 こればかりは私もウィリアム様の反応に完全同意だ。

 我々は領地の視察に向かったはずで、陛下はそれに対する感想を求めていたはずだ。それなのにロマンス云々(うんぬん)とは、一体なんの話をしているのだろう。


 ウィリアム様の反応に、陛下はエリオットの方へ首だけで振り返った。

 視線が若干厳しい……。

 

「エリオット、首尾(しゅび)は。詳しく」


「はっ! 今すぐに!」


 エリオットは視線を受けると速やかに席を立ち上がり、陛下の元へと駆け寄った。

 以前同様、二人は顔を近づけるとひそひそと話し始める。

 

 

「俺途中ではぐれてしまって! 何も出来てません!」

「……想像がついたわ。大方(おおかた)はしゃいで、お前だけはぐれでもしたんだろう?」

「さっすが陛下! その通りです! でも、おふたりとも、前よりさらに仲良くなられた気がしますよ!」



 ――二人とも、何を話しているんだろう……。


 私とウィリアム様は顔を見合わせるばかりだ。

 ウィリアム様は席を立ち上がると、未だ話し込んでいる陛下とエリオットを放置して、私の席の方へやってきた。

 

「ねぇ、ソフィリア。あの二人、最近特に変なんだけど、何か知ってる?」


 どうやらウィリアム様も私と同様、不審に感じているようだった。

 問われても、私に理由がわかるわけもない。

 私は困り顔で静かに首を横に振った。

 

「私にも分かりません」


「そうだよね。俺だけじゃないみたいでよかった」


 ウィリアム様はほっと安堵(あんど)したように息を吐く。

 それを見て、私は改めてウィリアム様との関係の変化を感じていた。


 ――ここに来たばかりの頃よりも、やっぱりウィリアム様と仲良くなれた気がする。


 以前よりも気軽に話しかけてくれるようになったし、感情を見せてくれるようになった気がする。

 その変化を私は実感し始めていた。


「で、今日はどうしたの」


 ウィリアム様が声をかけると、陛下はエリオットと内緒話をするのを中断して「おお、そうだった」と両手を打ち合わせた。

 

「今日はソフィリアに渡すものがあってきたのだよ」


 陛下は一転、後ろの席にいた私の方へ振り返る。


「私に?」


 突然話を向けられて、驚いた私は目を瞬かせてしまう。

 陛下は(ふところ)から一通の手紙を取り出すと、私へ向けて差し出した。


「わらわの茶会への特別招待状だ」


「あ、ありがとうございます……?」


 よく分からないが、陛下から直々に招待していただけるなんてありがたいことだ。

 差し出された白い封筒を受け取る。

 見れば、ご丁寧に王家の紋章が刻まれた封蝋まで押されている。


「必ず着飾ってくるのだよ。期待しておるぞ!」


 陛下はパチリとウインクをすると、軽やかな足取りで執務室を去っていった。

 嵐のような方だ……。

 

「ええー! ソフィリア様良かったじゃないですかー! 陛下とのお茶会は楽しいですよー!」


 エリオットは手紙を握ったままの私の手元を覗き込んで、楽しそうに言った。

 その口ぶりは、まるで招待されたことがあるようだ。

 

「エリオットも呼ばれたことがあるの?」

 

「ええ、殿下の定期報告を兼ねてたまに! お菓子がいっぱい食べられて幸せなんですよね」


 エリオットは、うっとりとした様子で茶会のことを語る。主に、どのお菓子がおすすめかの情報であるが。

 

 ――エリオット、陛下に餌付けされている気がする……。


 ウィリアム様はというと、いつの間にやら自分の席へ戻っていた。

 ぱちりと視線が合う。ウィリアム様は私を見て軽く目元を細めてくれた。

 その表情の変化にどきりとしてしまう。


 ――最近、たまにだけど笑ってくれるようになった気がする。


 ウィリアム様の優しい笑みに私の鼓動が少しだけ早まるのは、きっとまだウィリアム様の微笑みに慣れていないからに違いない。


「行ってらっしゃい」


「は、はい……」

 

 こうして私は、陛下の茶会へ招かれることになったのである。


 

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