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16・領地視察③


「聞きたいことって、なんですか……?」


「さっきのフェルゼン子爵の話だけど……。君も、婚約者がいたの?」


 ――やっぱりその話か。


 フェルゼン様がその話をちらりとした時、ウィリアム様からの視線を感じていたのだ。

 何となく、聞かれるかもしれないとは思っていた。


「いましたよ。つい先日破棄されましたけど」

 

 ウィリアム様に言葉を返しながら、私は違和感を抱いていた。 

 私に婚約者がいたことはウィリアム様も知っているはずではないだろうか。

 なぜならあの日、私たちは中庭で鉢合わせているのだから。

 

「俺も、婚約者がいたんだ。俺はその相手に欠片も興味を持てなかった。だから破談になった」

 

 ――んん? やっぱり何か違和感……?


「俺と同日に婚約破棄になっていた令嬢もいたけど、まさか君も婚約破棄されていたとは思わなかった。君は、どうして? 君は俺とは違うだろ?」


 ――この人、もしかして……私があの日中庭でウィリアム様と同時刻に婚約破棄されていた令嬢だって、気づいていない――?


 確信は正直まだもてない。

 だが、短い期間ながらもウィリアム様と接してきて、この王子様が人を試したり嘘をついたりするようなタチではないだろうということは理解していた。


 ――今ここでそれを追求するとややこしくなる気がする……。


 一応エリオットを待っている状況ではあるし、ここは王城内では無い。

 もう少し落ち着いて話せる場所で聞くべきだと思った。


 ――うーん……。対応に困ったわ。


 ウィリアム様があの茶会の日中庭にいたのが私だと気づいているのか居ないのかは一旦置いておこう。

 私はとりあえずウィリアム様の質問に答えることにした。

 

「私の婚約者は……。私に仕事を辞めることを求めました。私は結婚をしても仕事を続けたいから、その方とはずっと仲が悪くて」


 言いながら、私は立ち止まったままだったウィリアム様を追い越す。

 

「でも、もういいんです。私は仕事に生きるって決めましたから!」


 暗い話にはしたくなかった。これは私が選択した道でもある。

 意識して明るく笑いながら振り返ると、ウィリアム様と目が合った。

 美しい、青の瞳だ。

 澄んだ空の下だとよく映える。


「別にいいんじゃない?」


 ウィリアム様は、気取った様子もなくさらりと言ってくれる。

 短いけれど、私の生き方を肯定する言葉。

 それは、私が何よりも欲しかったものだった。


「俺は、君の仕事熱心なところ好きだよ」


「え……っ!?」


 ――好き!?


「人として、好ましく思っている」


 ウィリアム様は私の方を真っ直ぐに見据えていた。

 そこには嘘も偽りもない。


 ――この人はきっと、ただ思ったことを口にしただけだ。

 

 わかっている。

 それでも、見目麗しい美青年から好意を伝える言葉をはっきりと告げられて、動揺してしまった。

 仕事一途に生きる予定であっても、一応これでも私は年頃の乙女なのだ。

 

「ウィリアム様、その言葉は少々誤解されますよ」


 私は照れを誤魔化すように言葉を重ねた。


「どういうふうに?」

 

 ウィリアム様は、瞳に不思議そうな色を浮かべている。


「自分に気があるのかな……とか、勘違いされても仕方ないんですからね!」


 ウィリアム様は私の言葉に、少し顔をうつむけ顎に手を当てた。何かを考えるような仕草をしている。

 私はそんなウィリアム様に、「もう少し言葉には気をつけて欲しい」と続けようとしたのだが、


「気か……。確かに俺は君に気が……。関心があるのかもしれない」


「……はい!?」


 ぽつりと聞こえてきたウィリアム様のつぶやきに、私は二の句が継げなくなってしまった。

 

「変だな。今まで誰にも興味をもてなかったのに。君の瞳を見ていると、もっと君のことを知りたいと思う」


「……っ!?」


 再び顔を上げたウィリアム様と私の視線が交わる。

 その瞳は、今まで見たどんなものよりも真剣だった。


 ――どうしよう。目が、逸らせないかもしれない。


「ソフィリア」


「……っ」


 ウィリアム様が私の名前を呼んだその時――。


 

「殿下ー! ソフィリア様ー!」

 


 遠くからエリオットの叫ぶ声が聞こえてきた。

 エリオットは両脇を兵士に捕らえられているようだった。まるで捕虜のような扱いだ。

 私たちの前まで連れてこられると、エリオットはようやく腕を解放されていた。


「すみません! 俺、夢中になってしまって!」


 解放されたと同時、エリオットは勢いよく頭を下げて謝罪してくる。

 ウィリアム様はそんなエリオットの様子を見て、ふうと息を吐き出した。

 

「別にいいよ。いつもの事だろ」

 

「ソフィリア様も、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。ってあれ、顔が赤いですよ? 大丈夫ですか?」


「え!? あ、だ、大丈夫!」


 エリオットに指摘されて、私は咄嗟に自分の頬へ手を当てる。

 言われた通り、いつもよりも熱いような気がした。


 

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