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15・領地視察②


 フェルゼン領は、王都から少し離れているがそれなりに栄えている領地だ。

 農村地帯を多く持ちながら、市場は多くの人で賑わい、華やかである。


 領地内を簡単に案内をしてくれた後、フェルゼン様は「あとは皆様方でご自由にお回りください。私は屋敷に控えておりますので」といって屋敷の方へ戻って行った。


 私たちは三人で領地の視察を続けているのだが、これがなかなか大変なことになっていた。

 ……主にエリオットのせいで。


「いやー、王都とはまた違った賑わいで面白いですねぇ!」


「エリオット! 走っていかないで!」


「うひょー! この郷土料理うまそー! 俺、三人分買ってきますよ!」


 エリオットは物珍しいものを見かける度に、あっちへふらふらこっちへふらふらと駆けていく。

 私はウィリアム様の隣を歩きながら、エリオットに声をかけるので必死だった。

 一応城から護衛騎士と、フェルゼン様が仕わしてくれたフェルゼン領の兵士が私たちを守るために控えてくれているのはわかっている。

 だが、今私たちがいるのはそれなりに人の往来のある市場だ。そうあちこちエリオットに動き回られると、はぐれてしまいそうで心配になる。


「殿下、ソフィリア様! 向こうの通りで曲芸をやってるみたいですよ! 見に行きませんか!」


 しかしエリオットは私の心配はなんのその。

 すっかりはしゃぎ回っている。

 

「ああもう! エリオットったら! あんまりはしゃぐとはぐれるから!」


 そうしてそんなやり取りを何回も繰り返した末。いつの間にやらエリオットは、私たちの元へ帰ってこなくなっていた。


「……あいつ、はぐれたな」


「はぐれましたね」


 あれほど忠告したのに、言わんこっちゃない。

 私とウィリアム様は市場の片すみで、二人して額を押えた。



 ◇◇◇◇◇◇



「エリオットの()()はいつものことだから」


 ウィリアム様は自分の侍従が居なくなったにも関わらず、落ち着いた様子で言った。

 どうやらエリオットのあの調子はいつものことらしい。

 

「……それは、お疲れ様です……」


 結局、エリオットの捜索はフェルゼン領の兵士たちがしてくれることになった。

 私とウィリアム様は、市場から少し離れるように歩いていく。兵士の方がエリオットを確保したら、この先にある広場へ連れてきてくれるらしい。

 やがて、市場と農村地帯のつなぎ目に出たようで、道の脇にのどかな草原が広がるようになっていった。

 先程までの市場とは空気がまったく違う。

 さわさわと揺れる草の音が心地よい。

 普段王城付近ばかりで生活しているから、こんな自然豊かな景色はなかなか見られないのだ。


「素敵な領地ですね、ウィリアム様」


「ああ、うん。そうだな」

 

 ――視察についてこられてよかった。


 エリオットがいなくなるというハプニングはあったものの、この景色が見られたのならまぁいいかという気持ちになる。


 私が足を止めて草原を眺めているのに気づいたのか、ウィリアム様も同じように足を止めた気配がした。


「ソフィリア、聞きたいことがあるんだけど、聞いてもいい?」


「はい?」


 呼ばれてウィリアム様の方を見あげれば、ウィリアム様はじっとこちらを見つめていた。


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