EP3:再会//20680417
総司令室での話を終えて、俺は鹿久保さん......鹿久保総司令に基地の案内を受けた。そのついでに妹などと会わせるらしい。
だが、案の定この基地は広かった。話によると基地は居住棟、研究所、指令所の3エリアあり、それぞれがバカでかいので、一回じゃ覚えきれるわけもなく、相当な時間がかかった。全てをまわり終えたころには既に日が傾きかけていた。
「こんなに大きいのに、情報漏洩とかないんですか?」
俺は興味本位で聞いた。
「職員には、事前に機密保持契約を結ばせてるの。違反したら日本国籍を剝奪よ」
「.......俺はまだ書類とか書いてませんけど」
「妹さんに『隔離保護の契約書』って言ったら書いてもらえたわ」
「.......妹には今度契約の重要性について勉強させます」
もう法とか全部無視してるんだなここ。これがほんとのアウトローってか。
しょうもないギャグを考えているうちに、俺はまゆの部屋の前にたどり着いた。
インターホンを鳴らすと勢い良くドアが開いて、中からまゆが出てきた
「お兄様!よかった!本当に無事だったんですね!」
先程のドアの勢いよりも早くまゆは俺に抱き着いてきた。
「まゆ!そっちこそ無事でよかった!」
そうやって話しかけるが、まゆは俺の腕にしがみついたまましばらく固まり、その後体を震えさせた。
「ぐすっ......あの時、もう二度と会えないんじゃないかって......死んじゃって......1人になっちゃうんじゃないかって......思って......」
「........大丈夫だよ。俺が約束を破ったことあったか?」
「ぐすっ.......勉強で全然寝てくれないし、なのに......朝はいつもすぐ起きてくれないし......先月もお昼ご飯のお金知らない人にあげちゃうし.......」
ごめんよ、不出来な兄で。これからはちゃんと寝るから。
「でも、最初の約束は必ず破らないから、心配するな」
俺は必死に妹を慰めてる間に、奥から人がやって来た。
「あれ?今ってタイミングよくなかったかな?」
俺はその人を知っていた。女性と見間違えるような整った顔立ち、優しさがにじみ出る声、昔とは違い、今では髪を染めているようで、少し茶色がかっていた。
「楠乃木先輩!お久しぶりです!」
その人は、3月に卒業したばかりの楠乃木先輩だった。先輩とは縁あって様々な場所でお世話になった。
「お前が運ばれたって聞いてたんだけと、元気そうで安心したよ」
「おかげさまで…えっと、そちらの方は?」
先輩の隣には、先輩より小さい銀髪の少女が立っていた。
「紹介するよ。彼女は俺の災害対抗者の代永柳だ」
「初めまして、代永柳と申します」
彼女はぺこりとお辞儀をした。とてもおとなしそうで、礼儀がいい......というか良すぎるくらいだ。表情は変わらず、背筋もまっすぐで、呼吸をしているのか分からないように硬直していた。まるで機械のようだ。
「ところで御子神、ここには一か月いるんだろ?何をするかは聞いてるか?」
「いえ特には......今は施設を案内してもらっていただけで......」
「......総司令」
「忘れてないわよ。雅司令、あんたには明日から災害対抗者との訓練に付き合ってもらう。詳細は後で送るから、とにかく今は妹さんとの再開を楽しんどきなさい」
授業で聞いたことはあった。現在の日本では、混沌とする戦況に対応するために一人の災害対抗者に一人の司令が付くのが基本で、それらを総司令がまとめることで一つの災害を鎮圧していく。国によってスタイルは違うが、日本では協調性とミクロ(戦術)を主体として災害を鎮めているのだという。
「災害対抗者って......俺は誰と組めば......?」
「昨日あんたを助けた子、名前は御前亜弥」
「どうしてあの子が俺に......?」
「彼女、今月入ったばかりなの。新人どうし、仲良くできると思ってね」
「でも、新人であの装備は......」
俺は昨日の記憶を思い出した。
彼女の背丈と同じくらいの大剣、それを軽々と振り上げた姿を。
「そういうのは資料を見てちょうだい、総司令の時間は貴重なのよ。それじゃあ、また明日ね」
「俺たちももう行くよ。明日に備えてしっかり休んでくれ」
「......はあ」
俺は疑問だらけの状態で総司令と先輩、代永を見送った。
「えっと.......」
隣にしがみついたまゆが口を開いた。
「お兄様、明日は何かあるんですか?まゆは隔離って聞いてたんですけど.......」
「.......明日の前に、今から社会の授業をしような」
雅と別れた鹿久保と楠乃木は同じ道を歩いていた。
「どうでしたか彼?凄くいいやつでしょ」
楠乃木が問いかけた
「本当ね、あんたとそっくり」
「それ、褒めてるんですよね?」
クスッと笑う楠乃木に対して、鹿久保は返す
「もちろん、あんたに似てハンサムないい男じゃない」
「口説かれても落ちません。セクハラですよ」
「あらそう。そんないい男に質問なんだけど......」
鹿久保は続ける
「昨日の怪物、見つかった?」
「......何もありません。現場も見に行ってもらいましたけど、御子神以外に狙われた人はいないし、ましてや死傷者もゼロですから」
「.......クソっ、まだまだドッペル災害はまだ謎が多いわね」
鹿久保は悪態をついて、スマホを取り出す。そこには何かの記録が表示されていた
「それは?」
「御子神まゆの検査結果」
「何であの子が?」
「ドッペルゲンガーの条件は案外緩いの。同じ顔とかならまだしも、アメリカでは二卵性双生児が、イギリスでは姉妹がトリガーになったケースがある」
「つまり、血縁関係も災害の引き金になることがあるんですね。それで結果は?」
「半分当たりで半分外れ。あの二人、腹違いなの」
「.......はい?」
「調べたけど、御子神雅の母親、旧姓で希は雅が3歳の時に離婚してた。御子神まゆの血縁上の母親はゆかって人。というか御子神ってどっかで......」
「.......そんなの聞いたことなかったですけど」
「多分知らないのよ。あれよあれ、成人した夜に酒を酌み交わしながら話すみたいな......」
「いつの時代の話してるんですか......?笑えませんよ」
「でもあの調子じゃ、薄々感づいてるんじゃないかしら?ああやって大人になっていくのよ」
「俺はそんなのまっぴらごめんです。代永さんもそう思わないか?」
「.......大人とは、具体的にはどの年齢を指すのでしょうか?」
「.......どうだろうな」
「.......どうでしょうね」
俺はまゆの部屋を出て自分の部屋に戻り、送られた資料を見ていた。
御前 亜弥、生年月日は2051年2月17日、18歳。
ファナダイトの適応指数は180......
「180ってどれぐらいなんだ?」
俺はネットで調べてみたが、やはりそんな情報は出てこなかった。諦めて次の項目に進む。
支給装備はFAT-001......
「なんか古くないか?」
某リンゴマークのスマホが年一ペースで新型が出る世の中で、001という明らかに古い型番の物はさすがにおかしい気がした。
そのあとの項目も一通り見て見たが、何が何だかさっぱり分からない。
だが最後の備考欄に何か気になる項目が付いていた。
『訓練では群を抜いて高い結果を残すものの、実戦計3回とも平均以下の成果しか挙げられなかった。これには当人の心理状況や装備の状態、戦闘スタイルが不適であると考えられる』
これは厄介だ、こういうのを俺は経験したことがある。
練習では完璧でも、実戦ではプレッシャーや情報の処理でパニックになって、思うようなプレイが出来なくなる。後は使ってるデバイスが悪かったり、使ってるキャラが自分に合ってなかったり......
「.......分かる気がする」
何故だか知らないが、勝手に共感してしまっている自分がいた。
柳「Aさん、大人ってどれぐらいの年齢を言うんでしょうか?」
隊員A「......どうなんだろうね。」
柳「Bさん、大人ってどれぐらいの年齢を......」
隊員B「わ、私はまだ大人じゃないから分かんないかな~」
柳「Bさん、大人ってど.......」
隊員Ⅽ「......今は知らなくてもいいよー。」
柳「司令、何故皆さん答えないのでしょうか?」
楠乃木「......」
隊員ズ(((柳ちゃんには大人になってほしくないから......!)))
楠乃木「ファンクラブ?」
柳「?」