ヒルメの狐 -Sun Fox-
天の川のささやかな光が地上を照らす、天体観測の夜。しかめっつらで拗ねながらずっと遊びに遊ぶ、人間の姿に化けた女の子の仔狐と、隣で黒い古風の剣を携えている、白い狐のお母さんがいた。
背後には雲のように薄い幽霊が彷徨い、生い茂る花には亡霊が宿るを言い伝えがあるそうだ。
藍を花を二つ乗せた静けさと、思想犯のようにブレない狐のお面に嘘を言って。と母狐は鼻歌を奏でる。
だから音楽に乗せて歌うのをやめてよ。と仔狐は母の和服の裾を引っ張るも、特に聴く耳を持たない。春を盗作された暑い夏でアイスを渡しにきた藍の亡霊、見た目的には30代男性の人間で細い縁の丸眼鏡をしている。
仔狐は喜んで受け取ると、何も考えず頬張った。母狐がお礼がてら軽く会釈すると、嬉しそうに亡霊は去っていった。
そろそろ帰ろう、と切り出したのは母狐だった。
もうアイスを食べ終えて忘れてしまった頃、手を繋いで水面に満月の映る川の隣、細道を歩いてお家への道を辿る。
「私が月の狐、貴方はお父さんに似て太陽の狐ね」
「なんでー? どっちもじゃん!」
「いつか分かるわ」
それなりに歩いたところ、無数の蛍が星々のように光っていて、空模様も相まってとても綺麗な景色だった。
明日もきっと晴れる。明後日も、明々後日も。
仔狐は明日、凪となった母をみる。
原因は誰かの悪意の代償であり、不注意でもあり、また天文学的低い無数の確率の、低いを引いてしまっただけ。必ずしも全員が寿命まで生きとし生けるとは限らないのであった。
最初は復讐を考えた。でも握った悪意を叶えても、また他の悪意が生まれるだけ。次に自分が消えようと思った。母狐の努力を無碍にするだけ。
悲しむ事もできず、やり場の無い薄まった怒りの感情を引きずり、午後の昼下がり、青と夕暮れの境界線の空を眺めながら、藍の花畑でただ一人体育座りで狐の尻尾を揺らす。
藍の花畑、花に亡霊は宿ると言い伝えのある場所で、母狐が来るのを待っていた。
急に様々な事を悟ってしまった仔狐は、どこの誰が何のために書いたか分からない、龍神のイラストが表紙にある小説を読む。
半分読んだ頃合い、藍の花達がざわめくように風が強くなってきた。そろそろ花に宿った亡霊達が天に照らされ登ってゆく。その中に一瞬、母狐の姿が見えた。手を上げて差し伸べるも、膨らんだ風船のようにどんどん天空へ。10分もしたら、今週宿っていた亡霊の皆さんは全員いなくなった。これからまたしても、藍の花は亡霊を宿すだろう。
なんとも言えない気持ちになったまま、再び自宅「白雪なんでも事務所」へ帰宅する。自分の作業机の上には凪になる前に残された、母のハガキがあった。
「月の狐が母である事、忘れてくださいね」
「……やだよ」
仔狐の名前は「日孁」だ。今、自分の名前の意味を知る。




