第41話 夜の囀り
スースーという寝息が聞こえる。
部屋はもう消灯している。
しかし、机の上は蝋燭で灯が灯されていた。
カリカリと音を立てながら、必死にメモを書いていると、スウッと白い鳥が現れた。
「ルナも早く寝た方がいいですよ」
そして私に声をかける。
「リオス……あ、そうか……リイナがそこで寝てるから……」
いつもよりにぎやかな羽ばたきの音が聞こえなかったのはそういうことか。
「夜更かしは体に触ります。」
「あら、私は元気よ?」
「お若いですね」
「私もそう思う。若いっていいわ〜」
私は本気でそう思う。
なんたって、前世ではアラサーまで行ったのだ。
やっぱりだんだんと体力が衰え元気がなくなる様というのを実感している。
だから、今転生して若い体を体験し、こんなに昔は元気だったんだなぁ…ということが実感できるのが嬉しくて仕方ない。
今のうちに若い時間というのを満喫しておこうと思う。
なんて話はずれたので話を元に戻そう。
私が必死に髪に何かを書いている私に、リオスは聞いた。
「何をしてるんですか?」
「今日のまとめ。リオスも聞いてたんじゃない?」
「黒幕は誰か……ですか。」
そう、そこには黒幕候補者と、その根拠をずらりと書き記したものが広げられていたのだ。
「ロベリアのことばかりで、黒幕のこと考えるの忘れてたわ。リイナのこと思えば一番重要なことなのにね。」
「この一週間、いいえ、今日だけでも色々ありましたから。仕方ないことだと思います。」
私はその慰めに、ハハッと笑って返した。
もう笑ってしまうほどの濃密な一週間だったからだ。
「確か3名の名前が上がってましたよね?」
「そうよ、皇女、公爵の婚約者候補、聖女候補者の3人。リオスはどう思う?」
「そうですね……セオリー通りなら、聖女候補者が無難に思います。権力者争いというのはよくあることですから。」
「そうよね……でも、キャシー嬢の家って、確か財政が逼迫してるはずなの。領地が日照り続いて、作物取れないって話を聞いたことがある。聖女を目指した理由も、自分の領地の支援目当てって話よ。」
「それが何か?」
「その状態で、一人匿ったとして養える?」
「流石に腐っても伯爵令嬢です。借金していないなら、一人くらい養えるんじゃないですか?なぜそのようなことを?」
「私、執筆中はそこまでは考えてなかったんだけど……今になると、ルナがロベリアを家に招かなかった理由がわかるのよ。」
そう、実はかなり難しいのだ、第三者を雇って匿うのって。
家に匿うなら、家族ぐるみじゃないとできない。最悪協力者が一人は必要。だって、ロベリアの面倒を見ないといけないんだもの。もちろん一日二日なら、うちも客人を面倒見る余裕はあるわ。でも……長期間匿う場合は?
金銭面も精神面もお互い参ってしまうだろう。
これは心とお金に余裕がある人じゃないとできることではないわ。
「うちもそこまで余裕があるわけではないわ。家族ぐるみでやってうちに匿う場合、よほどの成果を出さないと面倒見きれない。まだなんとか余裕がある伯爵家の家が、こんな状況なのよ?金銭面で困ってるキャシー令嬢が、わざわざロベリアを雇って匿うかしら……ただの漁夫の利を狙ってるだけな気がする。」
その人柄は、リイナを攻めている時の彼女の態度にも現れていた。
彼女はほとんどの文句は両隣の二人に任せて、自分は最後以外は静観していた。
浄化の魔法が使えて、候補者の中で実力が2番手なのであれば、もっと他の方法があっただろうに、やった方法はただ嫌味を言っただけ。
引きずり下ろされたら、そこに座ってやろうという気持ちはあるみたいだけれど、自分で引き摺り下ろそうという野望までは見えなかった。
「だから……彼女はこんなことができるとは思えない。」
「でしたら、フィリックの婚約者候補……チェルシーは?」
「私……彼女は違うと思う……。」
私が彼女ではないと思う理由は、何も人柄だけが根拠じゃない。
私の執筆した物語で……ライバルかつ黒幕が私、ルナ。
……もう一人ライバルキャラがチェルシーだけれど……
彼女は、リイナと友情が芽生えた後、リイナとフィリックの関係を知ると、フィリックへの想いとリイナの友情を天秤にかけてリイナを選んで、自分の出る幕ではないと思い、淡い恋を胸にしまい身をひくキャラなのだ……
だから、彼女だとはどうしても思えない。
「しかし、イメージだけで決めるのは危険では?」
「わかってる。でも、大事な材料だと思う。それに、作者は私よ?私、彼女はあくまでリイナの理解者としてキャラ設定したもの。彼女が黒幕になるのは、ありえない気がする。」
「すでに、あなたの意図した通りに物語が動いていない以上、その推察も浅はかな気はしますけど……まぁ、結局のところ、あなたも皆さんで取り決めた、皇女が怪しいということですか?」
「一番怪しいってだけで確定じゃないけどね。パーティーに行くのも一番目がつくからって理由だし。それに、でもその辺り気にせず匿えて、動機もあって、情報を漏洩させないセキュリティーを持ってるのは、やっぱ皇女しかいないと思うわ。」
「だったら、こんな時間まで夜更かししてまとめる必要ありました?明日のために早く寝てください。」
「わかってるわよ、でも寝たくても寝られないんだもの。それに……」
この情報が、今私の手元にある全て……これ以外は何もないのだ。
あとはパーティー当日が成功するかどうかにかかってる。
そして……これはロベリアを黒幕が囲っているという想定のもと建てられた作戦。
黒幕をうまく捕まえられても、ロベリアがいなかったら?
そう心配になってしまうのは、仕方のないことだ。
念には念を入れておきたいもの。
「リオス……ロベリアの居場所……本当にわからない?」
できれば、リイナに危険な囮なんかさせないでロベリアを見つけたい。
でも、無理なものは無理だ。
「無理です。もうあなたが執筆した物語から本筋が大幅にズレてます。僕が感知できる範囲を超えてます。」
やはり、言われることは、これまでと変わらない。
私はため息をついくと、明後日までになんとかできないか頭をフル回転させた。
そんな時、リオスがこんなことを聞いてきた。
「あたこそ、呪いについて、何か決めてなかったんですか?それを頼りに探せばいいじゃないですか」
言われてみればそうだ。
物語を描いたのも、呪いについて書いたのは自分なのだから、このシーンを書いた時に自分が何を思ったのか思い出せば、それがヒントになるではないか。
そう思って私はその当時のことを思い出す。
でも……何も思い出せない。
「そういえば……私どうやって書いたんだっけ……」
悲恋であることを強調したかっらだけで、詳しい設定はしてないのよね。
フィリックは魔女を殺せばリイナの呪いは解けると思って、ロベリアを殺しに行くんだけど、結局間に合わなくてリイナは死んでしまう。
なぜ間に合わなかったのか……そこまでは決めてなかった。
呪いを解く方法を間違えていたのか、呪いを解くのが間に合わなかったのか、それが不明のまま。
悲恋感を出そうとして、わざとそうしたのだけれど……それが自分のみに降りかかって仇となるとは……皮肉なものね。
まぁ、自分の記憶を辿って、呪いについて思い出せないものは仕方がない。
やはり、前世の記憶を思い出してチートで解決するのではなく、自力で頑張って謎を解いていこう。
呪いとか、黒幕については、今日これ以上考えるのはやめよう。
それよりも、明後日をなんとかしないと……リイナが囮にならなくて済む方法……まぁ実は思いついている。
「リオス、いっこお願いがあるの。」
「なんでしょう」
私はリオスの耳(鳥の耳がどこにあるか知らないけど)に手を当てて、お願いをするのだった。
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