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三題噺もどき2

光に

作者: 狐彪

三題噺もどき―さんびゃくよんじゅうなな。

 


「……」

 さすがにこの時間は少し寒い。

 ときおり吹く風に、反射的に身が震える。

 そこまで寒くもないだろうと思って、ラフな格好で出てきたのがよくなかった。

 起きてそのままのパジャマだからなぁ……薄着で当たり前。

 ではないのかもしれないが。

「……」

 家の中は厚着をするまででもないので、半そでにハーフパンツだ。靴もただのつっかけだし、寒いのは当たり前か。

 言ったように寝起きなので、靴下は履いていないし。

 そもそも、あの靴下とかいうやつはあまり好きではないので、外出時以外は裸足なのだ。

「……」

 どこかで寝るときは足を温めた方がいいと聞いたが……寝ている時に窮屈に思うのはあまり頂けない。

 だからパジャマもラフなのだ。

 そんな恰好で外に出るなと止められかねない。

「……」

 まぁ、ここには自分いがいないから、平気だろう。

 家の中の人も私以外は就寝中だ。

 いや、そろそろ起き出しているかもしれない。

 というか、玄関を閉めるときに思っていたよりも大きな音を出してしまったので、起きたかもしれない。

「……」

 でもあんな音で起きる人たちではないから、心配はいらないとも思うが。

「……」

 羨ましいことに、みんなして睡眠が深いのだ。

 毎日よく眠れるらしい。

 残念ながらその中に入れない身なので。

 たまにこうして、朝起きては、抜け出してここに来る。

 ―ここに来ようと思う時は、大抵寝不足状態だったりもする。

「……」

 これは田舎というか、海の近くに住む人の特権だろうなと見るたびに思う。

 まだ陽が昇りきらない時間。

 まだ人々が眠りについている頃。

 さて今から起きてみようかと試み始める頃かもしれない。

 夜仕事の人は今から寝るのかな。

「……」

 目の間には静かに広がる海。

 心地よい音が鼓膜を叩く。

 少しだけ砂に埋まった足先がざらりとしたものに触れる。

 光は今から顔を出そうとしているのに、雲に覆われている。

「……」

 レースのようにかかった雲は、美しいその光を直視しなくても済むようにと、生き物たちへの気遣いをしているようだ。

 それとも、それを見る資格はないと言いたいのかもしれない。

 ―私のような人間に。

「……」

 美しいはずのその視界に広がるこの景色に。

 何も思わず。

 何を覚えることもなく。

「……」

 ただそこに、海がある。

 ただそこに、光がある。

 ただそこから、波の音が聞こえる。

 ―ただそれだけのことだなぁとしか思っていない。

「……」

 そんな奴に。

 濁った眼をしたようなそんな奴に。

 あの光を見る視覚すらないと言うのかもしれない。

 雲のレースでおおわれたあの光を。あの姿を。

 ―私は神々しいなんて思わないけど。それは眩しいから隠してほしいとすら思う。


「ゎ――」


 そんなことを思った瞬間に、突風に襲われた。

 ならば見るなと目潰してもされている気分だ。

 ご期待通りに、突然の風に眼を閉じた。

 視界が一瞬の闇に襲われる。

「――」

 その程度のことで。

 ふいに不安に襲われる。

「――」

 いつもこうだ。

 ここに来ようと思った時は。

 何がどうしてなのか分からないけど。

 不安ばかりが残っていて。

 自分でもどうしようもない緊張に襲われて。

 目の前が、先が、何も見えなくなってしまう。

「――」

 そのうち。

 いっそ。

 ここで。

 ―なんて思ってしまう。


「――ぁ」


 だけどいつも、ふいにここにきて。

 雲のレースの隙間から刺す光に眼を奪われて。

 少しでも光を与えようとしてくれているようで。

 ここに居るからと言ってくれているようで。

「――」

 海を照らそうと藻掻く、美しい薄明光線に、目を奪われて。

 その細く美しい光に、魅せられて。

 この景色を汚すような、素直に受け入れられないような。

 そんな存在で居たくないと思って。

「――」

 こみ上げるような。

 言葉に仕切れないような。

 やっぱりよくわからない思いを忘れないうちに。

「――よし」





 お題:薄明光線・突風・レース

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