エピソード龍美・14
あたし自身、ちょっと意外なのだけれど、あたしって結構鬼道の才能があるらしい。
本来、鬼道というのは特定の武術や技術体系を表す言葉ではない。鬼力を持った者、体内に鬼虫を飼う者が、鬼力と鬼虫を統べるための知識と技術を学び、その力を世のために活かしていく。そういう鬼人の生き方を示す言葉だ。
京の都に箒星が流れ、鬼人が誕生してから千年余り。世の中は変わり、今では鬼道は道場や塾で習うものになりつつある。剣術や合気術といった武術と鬼力を組み合わせて使うことを学び、健全な心身と壮健な鬼虫を養うことが目的の、鬼人向け武道及び礼儀作法教室。
しかしながらこれはあたしの、里に暮らしている者たちの感覚だったようだ。湯窓目道場に通いだして分かったのは、鬼門の鬼人たち、特に名鬼門と呼ばれる鬼人たちは、今でも鬼道を中心にした生活を送っているということ。
鬼門の鬼人にとって、武の才覚があるというのはとても誇らしく有用なこと。その才覚で鬼士院はもちろん大和の国全体を守る。それこそが鬼人のアイデンティティだから。
そういう意味において、あたしには鬼道の才能があったらしい。簡単に言うと、あたしは剣術が上手かった。
鬼道場に通い始めた頃は、あたしのことを遠巻きに見ていた鬼人の道場生たちも、しばらくすると話しかけてくるようになった。
一番最初に話しかけてくれたのは寿々歌ちゃん。あたしよりも五つも年下で、今十二歳の小学六年生。あたしが道場に入門した時はまだ五年生だったわけだが、とても大人びた賢い子で鬼力も強い。成長期を迎えており身長も鬼力もまだまだ伸びるだろう。
五歳の頃から道場に通っている寿々歌ちゃん。歳は若くても道場では大先輩。おまけに鬼力も強いとなると、鬼門のお付き合いの常識からすると寿々歌ちゃんが格上ということになる。生まれてからずっと里暮らしのあたしはその辺の感覚が鬼門の鬼人とは少し違う。鬼門の常識や肌感覚を知るというのも道場での勉強の一つ。
初めて寿々歌ちゃんと言葉を交わしたのは、入門から半年ほど経った頃。師匠との剣の稽古で汗だくになったあたしに、
「龍美、これ使っていいよ」
と自分のタオルを差し出してくれたのだ。あたしはお礼を言って、でもタオルを取るのを躊躇する。
「いいの?あたしの汗まみれになっちゃうし」
すると寿々歌ちゃん余裕の笑み。
「いいよ。わたし汗かかないから」
確かに同じ練習をしても寿々歌ちゃんは名のごとく涼しい顔で、汗一つかいていない。
「慣れると鬼力で体温をコントロールできるよ」
あたしはもう一度お礼を言って寿々歌ちゃんにタオルを返す。
「龍美って筋がいいよね」
「え?」
意外な言葉にあたしはちょっとたじろぐ。
「剣の筋がいいなと思って。もったいないなぁ」
「?」
意味が分からずあたしがキョトンとしていると寿々歌ちゃんは年に似合わない大人びた笑みを見せて、
「武術とか芸事とか、小さい頃から始めないと一流にはなれないんだよ」
つまりはあたしが剣の稽古を始めるのが遅くて達人級までは伸びないだろうことを惜しんでくれているらしい。
お礼を言うべきかどうか迷っているあたしに寿々歌ちゃんは言った。
「先生、龍美に凄く期待してるみたいだよ」
ようやくあたしにも寿々歌ちゃんの気持ちが読めた。自分の方が先輩で、家柄もよく、鬼力も強いのに、なぜ湯窓目先生はあんたに目をかけるのかと少し嫉妬しているのだ。
「期待なんかされてないよ。この道場の希望の星は寿々歌ちゃんだもん」
半分お世辞、半分本音で言ったのだが、寿々歌ちゃんは満足したようだった。
このようにしてあたしは武闘や練気だけでなく、「鬼人さんとのお付き合い」を湯窓目道場で学んでいった。




