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寒い国から来た鬼類  作者: 弐乃
第10章 鬼類、ダンスを踊る
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エピソード龍美・9

 ミカはあたしに声をかけなくなった。チームに勧誘しても無駄だと分かったのだろう。元々学校でも親しかったわけではない。あたしとミカでは校内の生息域が全然違うのだ。

 目立つ美人で校内でも人気者、いわゆる一軍女子のミカと、どちらかというと無口で愛想の無いタイプの鬼人であるあたしでは接点が無いのも仕方がない。

 ただ、少しだけ気になるのはミカに最近少しずつ、これまでなかった色が染み込んできていること。

 まず爪と髪。校内では目立たないようにヘアカラーなどを使って誤魔化しているが、随分と明るい派手な色に染めているようだ。爪も然り。

 化粧も派手になっているようだ。匂いで分かる。スカートの丈は以前より十センチも短くなり、綺麗な足を惜しげもなく晒している。

 そして言葉遣い。しゃべるときの息の匂いも変わった。一部の同級生はそのはすっぱな口調を格好良いと感じているようだが、大抵の生徒は違和感を感じているようだ。息には以前よりも煙草臭が強くなり、時折歯の裏の黒いニコチンの染みが目につく。

 どうやらミカは深みに落ちている最中らしい。まだ落ちきっていない。落下中だ。まだまだ、まだまだ底は深い。人間落ちだしたらどこまでも落ちていける。周りに変な仲間がいるともっと深く、もっと早く、底のそのまた底まで落ちていってしまうのだ。

 警官の父親を持って良かったなと思うのはこんな時だ。ふとしたきっかけで地獄の釜の底まで落ちていく人間の話をいくらでも聞くことができるのだ。これは実にいい道徳教育になる。

 あたしは家からランニングで十五分ほどのところにある鬼道場に通い始めた。最初は自転車で通ったいたのだが道場の先生からこう言われたのだ。

「往復で三十分くらいだろ?一日三十分のランニングは君の人生を美しくしてくれるよ、鏑矢君。まず半年も経つころには君は雑誌モデルのように引き締まった身体を手に入れるだろうね。それから頑丈な肺と心臓。肌艶はピカピカになり、心肺が強くなるから結果的に胸まで大きくなる。しかもそれ全部タダでだぞ?」

 あたしは即決でランニングでの道場通いを決めた。優れた師というものは弟子をその気にさせるのが上手いものなのだ。

 鬼人にとって最初の師というのは結構重要らしい。里の公立校に通っているとそれほどでもないが、鬼人校などでは「流派はどこ?」とか「お師匠さんはどなた?」とかよく聞かれるらしい。

 名鬼門では親から子へ鬼道教育を施すことが多く、有名な鬼道場(鬼門出身者しか入れてくれない)や鬼道塾、予備門に入れるのが当たり前になっている。

 どの家の子か。師匠は誰か。流派はどこか。鬼門ではそういったことで細かくグループ分けがなされていて、グループの結びつきはないようである。緩いようでいて強固。一族の新年会、忘年会、慶弔といった集まり事から、金の貸し借りや会社の取引、婚姻など、日常生活のあらゆるところで一門一族の繋がりが活きている。

 当然ながらあたしたち里の鬼人はそこには入れてもらえない。日々の生活における人間関係も自然と里人との関係が中心になる。

 あたしの師匠は(師匠というより塾の先生に近い)里に生まれ育った鬼人だ。自然、道場生には里人が多くなる。鬼道を学ぶというより、武道と礼儀作法、健康体操を教わる場といった色合いになってくる。

 それでも師匠は師匠。あたしの知らなかった鬼道のイロハを色々と教えてくれ、あたしの鬼力を高めようとしてくれている。

 ある時師匠があたしに尋ねた。

「鏑矢君はバイクに乗れるかい?それとダンスは?鏑矢君は踊れるの?」


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