エピソード龍美・7
翌日、ミカからは正式にチームに加わるようしつこく勧誘されたけど、あたしは応じなかった。
ストレートに海猫の雰囲気が肌に合わないとは言えないので、
「あたしには向いてないよ、ああいうの」
で押し通した。
恐らくミカはダンからあたしを勧誘するよう命じられているのだろう。目に必死さが出ている。
ん?ミカの口から薄荷の香りが漂う。その影に隠れるようにニコチンとタールの臭い。
「ミカ、肺癌になっちゃうよ?」
あたしの言葉にミカは目を泳がせ、
「肺癌になるのは大気汚染のせい。タバコの影響はほんの少しよ」
あたしは説教口調にならないように気をつけながら言う。
「せめて香葉にしなよ」
タバコも香葉も未成年には禁止されている嗜好品だ。でも香葉ならタールやニコチンといった有害物質はほとんどない。まぁ葉の品種にもよるけど。
「あれ高いじゃん。鬼人ぶんないでよ」
ミカはムッとした様子。香葉は樹や花、スパイスなんかを混ぜたものを火で炙って香りを楽しむもの。水パイブを使用するのが主流。鬼人はタバコはやらず香葉を吸うものがほとんど。逆に里では香葉はあまり人気がない。
「ごめん。そんなつもりはないけど。タバコが肺癌の原因になるのは間違いないよ。それに未成年者が吸うのは犯罪。どっちも事実だし、ミカにとってはロクなことにならない。余計なお世話なのも事実だけどね」
あたしはそう言って立ち去ろうとする。
「待って」
ミカが呼び止める。
「何?」
ミカは少し迷っていたがやがて口をギュッと結び、
「何でもない」
と踵を返して廊下を小走りに去っていく。ミカの気持ちは分かる。ミカの表情は感情がダダ漏れ。止めて欲しい。海猫なんてやめてしまえと言って欲しいのだ。腕ずくでチームから引きずり出して欲しいのだ。
あたしはそこまでお人好しじゃないし、ミカの友達ですらない。ミカが困っているのは自業自得。自分で解決してもらうしかない。
その日の夕食の時、珍しく早く帰宅した父と食卓を囲む。中学生の弟は塾通いのため遅くなる。父と母、あたしと小学生の妹の四人だ。
リビングダイニングと言えば聞こえがいいけど、要は台所の横の居間(テレビの置いてある部屋ってことね)の真ん中に置いてある大きな座卓にご飯とお味噌汁とおかずを並べる。
普段はテレビが付けっぱなしになってるんだけど、今日はお父さんがいるから食事中のテレビはNG。
お父さんは自分でビール瓶の栓を開ける。瓶の口に嵌った王冠を栓抜きも使わずに指先でポンと開けてしまう。指先に鬼力を集めてタイミングよく王冠を弾くと、いとも簡単に王冠が外れ、苦い香りの泡が口に溢れる。
あたしはせっかく綺麗に磨いてオイルを塗った爪が傷つくのが嫌でやらないけど、弟はコーラやサイダーの瓶でこれをやる。バナナを手刀で、まるでカミソリで削ぎ落としたみたいに綺麗に切断するのも得意。(これはあたしにもできる)
里に暮らす我が家だが、父はできるだけ鬼人らしいことを教えてやりたいと考えている様子だ。
「高校に入ったら鬼道教室に通うか?」
以前そう尋ねられた時は、まだ反抗期の尻尾が残っており、
「えー、面倒臭いからヤダ」
と即答した。母もどちらかと言うと、どうせうちは里で生きていかなきゃいけないんだからと考えている。
父はビールをコップに注ぎグッと半分ほど呷る。
「ふぅ」
と満足気に息を吐き、おかずの筑前煮に箸を伸ばす。
「パパも先週は大変だったね」
と母が言う。父は「あぁ」と苦笑。
「いや、無軌道な若者グループってのは本当にかなわんよ」
と言ってあたしの顔を見る。
「龍美の学校にもいるのかい?バイカーズとかツイスターズとかいうグループが?」




