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寒い国から来た鬼類  作者: Niino
第1章 鬼類、劣等感を知る
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2 この物語の世界観1 〜鬼界の始まり〜

 さて、雨道春風、シュンカは若干ナーバスになっているようだね。入学、新学期といったものは一部の者たちにとっては晴れがましく気分が浮き立つものだが、一部の者たちにとっては憂鬱で気の滅入るイベントだ。特にシュンカように大人しく内向的で、ごく限られた友人たちと、限られたコミュニティで過ごしてきた者にとってはね。

 ましてやこれはただの入学、進学といったものではない。鬼士院の錬成所への留学なわけだよ。シュンカのブルーな気分を本当に理解するためには、まず鬼族、鬼士院について知る必要があると思う。

 西暦785年のことである。時の都、長岡京の夜空に箒星が流れた。都の夜空を赤く染めながら長い尾を引く流れ星に都人は息を呑んだ。箒星は虹色の巨大な孔雀のようにゆっくりと夜空を舞い、都はさながら夕暮れのように紅く染め上げられたということだ。

 当時の記録によれば箒星は都の北東からやってきて小一時間程都の空を舞い、優雅に尾を揺らめかせながら、時には蛇行するような動きを見せ、都の外れに落ちた。

 スピードを落としたり、曲がったりする隕石などあるわけもないが、現在では、この伝承は全くもって正確で、この箒星は単なる宇宙からの落下物ではなく、操縦された乗り物、宇宙船だと考えられている。隕石の中に意思を持った乗組員がいて、隕石の軌道や速度をコントロールしていたんだ。

 この日以來、都におかしな者が現れ始めた。どうおかしいかって?例えば突然病が治ってしまったとか、禿頭に髪が生えてきたとか、若返ってしまったとか。病が癒え、容貌が若々しくなり、体つきまで変わってしまった者たちが、まるで春の芽吹のように現れたんだ。これが鬼族の誕生というわけ。

 数億年の旅の果てに地球に辿り着いた箒星は、長岡京の地で役割を終え、中に乗っていた生物は船外に飛び出し、自分たちの宿主に相応しい個体を選んで寄宿した。(鬼族のたちは鬼宿という字をあてるが)箒星が運んでいたのは鬼虫と呼ばれる共生細菌だったのだ。

 鬼族たちは長岡京で異能をを発揮し始め、彼らを恐れた朝廷は早良親王の呪いを言い訳に平城京に移り、鬼族たちに長岡京の守護を命じた。早良親王の鎮魂のため、落下した隕石の上に建立された慰霊塔はいつしか巨大な五重の塔となり鬼族たちの聖地となっていった。これが鬼士院の始まりだ。

 鬼族は共生細菌「鬼虫」の放つ鬼力を使ってその地位を揺るぎないものにしていった。時の権力とつかず離れず。金と特権を自分たちのものにしていった。ある意味簡単だったに違いない。なぜなら鬼力は命そのものだったから。鬼族たちは権力者が喉から手が出るほど欲しい物を与えることができたんだ。

 今では鬼士院は自治区になっている。鬼門の人間ではない、鬼族が言うところの里の者が院内にある鬼族の修練機関、鬼道錬成館に入るのは「留学」ということになるわけだ。

 鬼族たちはその身に鬼虫を宿すものには寛容で、鬼力保有者であれば里出身であっても学費も寮費も免除だ。シュンカのようにごく平凡なサラリーマン家庭出身者にとってはありがたい制度だが、鬼族たちは里人を一段低く見るきらいがある。特に名鬼門と言われる名家出身の者にその傾向が強い。

 今後三年間、自分がそのような完全アウェーの環境で過ごさなくてはならないことを考えると、シュンカは自然とため息ををついてしまうというわけだ。



 

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