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寒い国から来た鬼類  作者: 弐乃
第1章 鬼類、劣等感を知る
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20 エデン卒業生は語る 〜ユウトの告白〜

 僕はユウト。エデン卒業生のユウトです。本当の名前は結城真人だそうです。卒業前の卒業準備訓練の時にエデンの先生から教えられました。

 この名前がお父さんお母さんがつけてくれたものなのか、あるいはエデンの先生が決めたものなのか、それは教えてもらえませんでした。鬼士院の中にある京鬼士院出張所に行けば、今の住所、つまり鬼士院の中にある星ヶ丘アパートメントの住所で京都長岡京市民としての住民票も発行してくれるそうです。

 でも、自分でも全く感情移入が、自分が結城真人だって実感がありません。やっぱりユウトなんです。自分が結城真人だって心から思えないんです。

 エデンのこと、話さないといけないんですよね?いえ、しゃべりたくないわけではないんです。卒業準備訓練の時にも先生たちから言われていました。それこそもう飽きるくらいエデンのことを聞かれるだろうって。聞かれたら知っていることは何を喋ってもいいって。

 うーん、そうだな。どこから話せばいいか。僕はエデンでの記憶しかないんです。物心ついたときにはもうエデンにいて、そこでみんなと暮らしていて。はい。ミムラも一緒です。小さい時から一緒でした。

 うーん‥ そうですね。その方が話しやすいです。とうぞ、何でも聞いてください。

 はい。たくさんいました。人数は‥ 分からないです。普段は会わない生徒もいましたから。敷地がすごく広くて、校舎も、僕らが暮らす家も3つずつありました。いえ、先生は教えてくれませんでしたけど、生徒はみんな3つあることを知ってました。知ってはいるんですけど他の家には行ってはいけないことになってて。遠くから他の校舎を見たことはあります。双眼鏡で。遠くから見ただけで近づけませんでした。敷地の外れには鉄条網でしたっけ?あれが敷かれてて。鉄条網の柵があって外に出られないようになっているんです。

 はい。滅多にないですけど、たまに鉄条網を超えて逃げようとする生徒がいました。最後には捕まります。僕らの手には時計が、連絡用の時計が嵌められてて。頑丈で外せないんです。お風呂も寝るときも付けたままです。成長してバンドを緩めてもらうとき以外は外せません。この時計のせいで僕らがどこにいるか、走ってるのか、寝てるのか分かるんです。ですから必ず捕まります。僕も鉄条網の近くに行ったことがあるんですけど、すぐに先生がやってきてー バイクです。先生たちはバギーカーやバイクに乗れますから。

 いえ。あります。電波が届かない場所がいくつがありました。そこに入ると時計の表示が消えるんです。僕たちがよく行ったのは森の奥にあるドラム缶です。ミムラと一緒に中に入って色々話すんです。先生たちの前で言えないような話を。

 今になって思うんですけど、多分先生たちも知ってたのかもせれません。ガス抜きって言うんでしょう?上手い表現ですよね。

 え?!いや、そんなことはー ミムラとは家族とか兄妹みたいなものでー し、したことないですよ、そんなの。えっ?!いやぁー あのー そんなこと聞かないとダメなんですか?こ、困るな。やめてくださいよ。ふぅ。

 最近よくこうなるんです。赤くなったり、ドキドキしたり。かと思うと急に腹が立ったり。薬のせいだと思います。いえ、逆です。卒業準備訓練でも説明があったんですが、エデンでは食事に薬が混ぜられていたんだそうです。僕らが集団生活をストレスなく送れるように。心が穏やかになるんだそうです。

 えぇと、家族はー 生徒は51人いました。僕らの家だけで。小さな子供から僕らぐらいの年齢までバラバラです。時々小さな赤ん坊が増えたり、2、3歳くらいの子が増えたりはありました。それはありません。正確に言うと記憶にはありません。卒業したのは僕とミムラとニューロの3人ですけど。でも多分いたでしょうね、転校生も。卒業生も他にもいるんだと思います。だって僕らが卒業したくらいですから。

 ニューロは違います。彼女はサイキックです。えぇ、エデンには鬼人とサイキックの両方がいました。鬼類は僕ら二人だったのかな。分かりません。人か鬼か鬼類かなんて気にしたこともなかったし。でも思い返してみれば確かに。僕ら二人は鬼人とは違うのかなって感じていたように思います。練習も他のみんなと別の時があったし、なんとなく感覚で?肌で感じるというか。

 それは先生がいったんです。ユウトにミムラ、それからニューロは卒業だって。それまでは姿は見たことあっても話したこと無かったのに、急にニューロの方から話しかけてきて、僕ら友達になったんです。多分ニューロも薬を止められてたんでしょうね。顔つきとかも明るいというか、笑顔が増えてましたから。

 教えてもらったわけじゃないけど多分予知能力だと思います。最初にニューロが言ったんですよ。みんなで本を読んでいたら急に、まるで大人みたいな、普段と違うしゃべり方になって。お前たちはもうすぐここを出ていくのだ。エデンを去るときが来たのだって。そのすぐあとです。先生たちが部屋に入ってきて。知らない、初めて見る先生もいて。僕とミムラ、ニューロ以外の子供たちに薬を嗅がせて眠らせたんです。その後みんなに注射をしてまわってました。全部忘れちゃう薬なんでしょうね、きっと。

 その時、ただ茫然としてる僕らに先生が言ったんです。お前たちは卒業だって。卒業準備訓練のために今から別の家に移るって。

 僕たちは自分の部屋に戻って、荷物をまとめて、バギーに乗ったらすぐに眠ってしまいました。起きたらそこは知らない家の中で。みんなと一緒に住んでた部屋よりは小さいけど、一階に大きな部屋が2つ、2階に小さめの部屋が3つありました。ここで暮らしながら卒業準備訓練を受けたんです。いえ、いませんでした。ニューロは別の場所で受けたんだと思います。

 はい、それはありました。武道は小さい頃から教わってました。卒業準備訓練では銃の使い方とかですね。え、シュンカは銃撃ったことないんだ?ふぅん、そんなものなの?普通。ここで初めて外の世界の雑誌や本、テレビやラジオを知りました。食べ物も、スナック菓子や甘いものなんかもここで初めて食べたんです。エデンの家ではたまに干し葡萄の入ったパウンドケーキとか甘いお餅が出てくるくらいでしたから、外の世界のお菓子を初めて食べたときはびっくりしました。

 卒業準備訓練も終わりかけの頃です。夜、寝る前に僕らは温めたココアをいただくんです。先生方はお酒を飲みます。一人の先生はタバコを吸うこともありました。そうやってリラックスしながらテレビで夜のニュースを見るんです。

 その時に言われました。ちょうどテレビで若者の貧困についてのニュースが流れていたんです。先生の一人が、外の世界に出たらお前たちも働かないとなって言ったんです。鬼士院に入って勉強するって言われてたのでちょっと驚きました。

 先生は、外の世界に慣れていないお前たちが仕事をしながら勉強するのは大変だろうって。だが心配することはない。エデンがお前たちにアルバイトを紹介するって。

 僕たちは二人で生きていかなきゃならないし。僕らができることは限られてますから。はい、そうです。人探しと物探し。

 人探しの場合は探すだけでは終わりません。探して、そして倒す。悪い鬼をやっつけるんです。それが僕らのアルバイトです。


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