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寒い国から来た鬼類  作者: 弐乃
第1章 鬼類、劣等感を知る
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12 放課後、屋上で

 放課後。香ばしいコロッケの香り。ユウトにミムラ、キンジョウと僕の4人は明陽軒の前にいた。

「今日は僕らが奢るよ」

 ユウトの言葉に甘えてごちそうしていただくことにした。ミムラがお財布を握りしめて明陽軒の店先でいつものように揚げ物を作っているおばさんのところへ駆けていく。しばらくして白い紙に挟まれたコロッケを持ったミムラが戻ってくる。

「お店の奢りだって」

 おばさん気を使ってくれたらしい。

「ありがとうございます」

 みんな口々にお礼を言って、おばさんにむかって腰を折る。練成館生はとても礼儀正しいんだ。ミムラは明るい笑顔をユウトに向ける。

「面白いね。奢ろうと思ったのに奢られちっゃた、なんか嬉しいね、こういうの」

「うん。奢るのも奢られるのも嬉しい」

「そうさ。鬼界はこうやって回ってるのさ」

 キンジョウが言うには、今でこそ鬼族面でのさばっているが、元々は社会から恐れられ遠ざけられた圧倒的少数の立場であった鬼人たちである。相互扶助の意識がとても高いのだという。

「袖引く者を助けよ。されば天もお前を助けるーさ」

 ユウトがどこか落ち着いて座れるところがいいと言うので「寮に入る?」と聞くとちよっと困った顔になった。そこで寮の中ではなく屋上に上がることにする。鬼士院は狭い。限られた土地を有効活用するため建物と人がひしめき合っている。星雲塔の周りはちょっとした広場になっているが、少し遠いし日や時間によっては鬼人と観光客で一杯だったりする。そこで鬼士院の中で暮らす人たちはちょっとした憩いの場として屋上を利用する。屋上にデッキチェアを並べて日光浴したり、バーバキューをしたり、家庭菜園を作ったり。

 おばさんに断ってから4人で寮に入る。急な階段をタタタとリズミカルに上って4階へ。談話室でトビーさんが雑誌を読んでいた。

「トビーさん、屋上使わせてもらいます」

 声をかけるとトビーさんは鬼道マガジン4月号から顔を上げ、ちょっと意味不明なほど愛想の良い笑顔を見せた。

「お帰りシュンカ。これ、みんなで食べるといい」

 トビーさんがおやつの乗ったザルを差し出す。石焼き芋だ。

「いいんですか?みんなのおやつをいただいちゃって」

「いい。芋はまだ台所にある。これも持っていけ」

 バターと蜂蜜のはいった器を載せたお盆を指さして、意味ありげに僕の目を見据える。僕の後ろにいるユウトとミムラを見て、満足そうに目で頷く。その調子で二人のことを探れー ということらしい。そういうつもりで寮に誘ったわけではないのだか。

「あざっす」

 後でキンジョウが頭を下げる。ユウトとミムラもお礼を言った。

「まぁゆっくりしていってくれ」

 トビーさんが優しい先輩的な笑顔で言う。正直あまり似合わない。僕は焼き芋のザルをキンジョウに渡し、自分はバターと蜂蜜の盆を持って屋上に上がる。

 屋上には丸テーブルが1つと椅子が3つ。野ざらしだから若干汚れている。あとはおばさんが育てている花のプランターや植木鉢がたくさん。

「みんな適当に座ってよ」

 みんなに椅子を勧めて僕は隅に置かれていたビール瓶ケースを二つ重ねてそこに座る。

「おーい」

 後からトビーさんの声。

「これ、おばさんが持ってけって」

 プラスチックの盆の上にコップが4つ。トビーさんから盆を受け取る。ソーダ水だ。

「わっ、炭酸?!ソーダ?!」

 ミムラが嬉しそうに声を上げる。ユウトは僕らを見て言い訳するように、

「僕らがいたところ、凄く田舎でね。ソーダなんて飲んだことないんだよ」

「まぁ冷めないうちに食うか」

 キンジョウの言葉にみんな頷いてコロッケを齧る。美味い。ただのジャガイモを潰して油で揚げただけなのになぜにこんなに美味いのか。

 みんなあっという間にコロッケを片付け焼き芋に取りかかる。まだ人肌程度に温かい焼き芋を2つに折って皮を剥く。まずはそのままかぶりつく。

「わぁ甘〜い」

 ミムラがブリブリと顔を振りながら拳を固めてジャンプする。キンジョウが「何だよ、大袈裟だなぁ」と笑う。

「ひょっとして焼き芋も初めて?」

 ユウトとミムラが同時に首を振る。

「前にいた学校でね、秋にみんなで芋掘りをするんだ。で、立派に育ったやつは食料庫に保存するんだけど、小さいものを集めて畑で焼き芋にするんだ」

「そう。ジャガイモとサツマイモ、両方だよ?」

 なんか微笑ましい話だ。とにかくユウトとミムラが同じ学校に通っていたのは間違いない。

「ねぇ、これ、かけてみていい?」

 ミムラが堪えきれないという表情でバターと蜂蜜の器を見つめる。僕が「もちろん」と答えると同時にミムラはスプーンにたっぷり蜂蜜をからめて焼き芋の上へ。金色の糸を垂らすように焼き芋にかける。はむっーと焼き芋を一口。ミムラの眼が二回りほど大きくなる。

「おいひいっっ!」

 ミムラがタタタッと足踏みしながらブンブン頭を振る。大袈裟だが作為を感じない。本当に美味しさに感動しているらしい。ミムラはバターと蜂蜜を交互に食べながらメタルロックのライブ会場のように頭を振り続け、あっという間に焼き芋を食べ終え、ユウトの分を半分もらっている。

「そんなに好きなら家でも作れるよ」

「本当っ?!」

 サツマイモを八百屋で買ってきてアルミフォイルで包んでオーブントースターで焼けばいいと教える。キンジョウがサツマイモにも色んな種類があってそれぞれ味か違うんだと言うと、ミムラは宝石やドレスの話をするかのようなうっとりした表情を見せた。甘い物が大好きなんだろう。なんにせよミムラと打ち解けるきっかけができて良かった。

「で、何?相談て」

 キンジョウが蜂蜜でベタつく口元を袖でゴシゴシやりながら尋ねる。

「うん、それなんだけどー」

 ユウトは少し言いづらそうにミムラを見た。ミムラも困った顔をしている。

「どう言ったらいいのかー その、シュンカはアルバイトしたいって言ったよね?」

「うん、まぁ」

 ユウトがチラとミムラに目配せしてから言った。

「アルバイトしない?」

 単刀直入な問いかけに少し戸惑う僕。

「バイトって、どんなバイト?」

 ユウトも困った顔になる。自分でもどう説明すべきか悩んでいるようだ。

「僕らもバイトみたいなことをしてて。そのバイトを手伝って欲しいんだ」

 一瞬の沈黙。ユウトがサラリと言った。

「探し物。人とか物のね。僕らも始めたばかりなんだけど、人探しのほうが多いかなぁ」

 僕とキンジョウは思わず顔を見合わせる。人探しのバイト?

「ほら、僕ら外の世界のこと何にも知らないから。仕事の依頼がきてもどう取りかかっていいのかも分からなくて」

 仕事の依頼だって?いったいどんなバイトなんだ?そもそもユウトと、ミムラが言う外の世界って何なんだろう。二人はどこから来たのだろう。キンジョウも同じ事が頭に浮かんだようだった。

「なぁ、聞いていいか?」

「なんだい?」

 キンジョウは椅子の上で胡座をかいた。背筋を伸ばして真面目な表情になる。

「二人はどこから来たんだ?寒い国ってどこのことなんだ?」

 ユウトとミムラが視線を交わす。ユウトが静かに言った。

「エデン」

 エデン?どこなんだろう。ふと横のキンジョウを見ると明らかに彼の顔色が変わっている。

「僕らはエデンから来たんだよ。僕とミムラはエデンから来た鬼類なんだ」

 ユウトとミムラは静かに僕らを見つめている。「ただいま帰りました」という寮生の声が風に乗って屋上まで届いてきた。

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