いじめられっ子の僕が、勇者と魔王と悪役令嬢の四人で交換日記をした結果
深夜。自分の部屋。
小学生の頃から使っている学習机が、急に眩しい光を放ち目を覚ました。僕は慌ててベッド上の棚? 本とか、目覚まし時計とか置いておけるスペースのところ。あそこから置いてあったメガネをひっつかみ、暫く硬直して動けないでいた。
光っているのは机の上。少し背筋を伸ばし覗き見れば、あったのは一冊のノート。ノートはすでに開いた状態で置かれていた。
・・・
◇月3■日 記入者:日本人(学生)
あいうえお かきくけこ
エクストラ人(勇者)>こんにちは
エクストラ人(勇者)>この書物は日本人(学生)の魔法ですか?
エクストラ人(勇者)>こんにちは
エクストラ人(勇者)>こんにちはー! 無視すんな
◇月3■日 記入者:エクストラ人(勇者)
昨日、急に光る書物が目の前に落ちてきた。今書いているこの書物だ。地面に落ちた書物は勝手にページが開かれ、上記に書いてある文字が俺の目の前で一文字ずつ書かれていった。
暫く様子をみてから試しに自分で文字を書いてみたら、書くそばからエクストラ人(勇者)みたいに文字が変わって驚いた。
というわけで、エクストラ王国で勇者をやっているラウンだ。この書物、置きざりにしてもいつの間にか手元に戻ってくんだけど、ほんと何だよ!
せめて光らないようにしてくれ!
魔王(魔王)>ワシも目が痛い。なんだこれは寝れん
エクストラ人(勇者)>魔王
日本人(学生)>魔王
ルーエル人(悪役令嬢)>魔王
エクストラ人(勇者)>て、めっちゃ人いるじゃねーか
ルーエル人(悪役令嬢)>悪役令嬢ってなんですの
日本人(学生)>なにこれ。昨日のは、夢じゃなかったんだ
エクストラ人(勇者)>あ、昨日の日本人(学生) 昨日はよくも無視したな
魔王(魔王)>警戒もするだろう。落ち着け
エクストラ人(勇者)>落ち着けるか! とにかくこれは何で、お前らは誰な
◇月3■日 記入者:ルーエル人(悪役令嬢)
昨日はあれから一切記入が出来なくなりました。この書物にはルールや制約が存在し、その内の一つが、追加記入は十行までということかしら?
では、まずは名乗らせていただきます。わたくしはルーエル王国、リニャーニ公爵家のミッシェル・アルコリウス・リニャーニと申します。
次に皆様に確認したいことがございますので、手短にお答えくださいませ。
一つ、日本人(学生)様。この不思議な書物はあなたの仕業でしょうか
二つ、わたくしが知る限り、エクストラ王国や日本という国に覚えがありません。また、日本なるものが国でない場合、ルーエル王国はご存知でしょうか
三つ、勇者や魔王って、創作内の架空の存在じゃありませんの!?
以上。手短にお答えいただきたく存じます。
ラウン(勇者)>俺も、ルーエル王国も日本も魔王も知らねー
ラウン(勇者)>あ! 俺の名前になってる!
ルーエル人(悪役令嬢)>無駄使いしないでくださいまし!
魔王(魔王)>ワシはワシだ。魔王だ
ラウン(勇者)>おい! あれから一時間経ったぞ! それだけかよ!
ラウン(勇者)>二時間!!!!!
魔王(魔王)>ワシ名前ない
ラウン(勇者)>日本人(学生)!!
・・・
勢いよくノートを閉じ僕は布団へと潜り込んだ。パラパラとノートが捲られる音がし、カーテンを閉め切っているはずの室内が異様に明るい。
(怖い、怖い、怖い)
僕もさっきはコメントを書こうと思ったんだ。本名は怖いから、ゲームでつかってる嘘の名前を。だけど何度書いても嘘の情報は反映されず、本名を……あのノートには本当のことしか書いちゃいけないんだと思うと怖くなった。
それから三日。
僕はあのノートを見て見ぬふりした。奇妙なノートは勇者さんの言う通り捨てることも、手放すことも出来ずいつの間にか戻ってくる。だから記入はせず三人のやり取りを眺めていた。
それで分かったことは、記入者である四人は、全員別の世界に存在しているのではってこと。ノートのルールは悪役令嬢さんが言った通り、追加のコメントは十行まで。ノートに書き込んだ時点で勝手に翻訳される。そして記入者は順番にめぐり、記入者が書くことを放棄した場合、一日経ってから自動的に次の人へと変更される。
それから個々人の情報も、あの三人は積極的に交換をしていた。
最初に話しかけてきた勇者さんは、二十歳になったばかりの男性。精霊? の加護が凄いらしくて、人間を襲う魔獣という生き物をやっつけるお仕事の人らしい。けれど魔族やら、魔王とかは存在しておらず、魔法は威力こそ上下があるけれど、多くの人が扱えると書いてあった。
次に悪役令嬢さん。彼女はなんと王子様の婚約者だったらしい! けど、乞食(って悪役令嬢さんが言ってた)みたいに身分が低い人に婚約者を奪われてしまったようだ。
悪役令嬢さんの世界も魔族や魔王は存在しておらず、一部の魔法使いであれば魔法が使えるみたい。悪役令嬢さんもその一部の魔法が使える凄い人で、そのことは周りには隠していて、いざというときに使うのだとか。
最後に魔王さん。彼? はとにかく魔王で、魔界という場所に住んでおり、今は地上に住む人間と戦争をしている最中なのだとか。魔王さんの世界の魔法基準は悪役令嬢さんと似たような感じで、ただ魔王である魔王さんはものすごく色々な魔法が使える超超すげーヒト、いや魔王みたいだ。
(それに比べて、僕は……)
ノートをぱらりと捲りながら俯く。
開いたページで魔王さんが僕の心配をしてくれていた。
・・・
◇月3■日 記入者:日本人(学生)
地球という星の、日本という国で産まれました。中学二年生(14歳)の括里平です。男です。
僕の世界には魔法などはありません。代わりに科学技術が発展してます。
僕自身はただの学生です。でも、学校には行ってなくて引きこも
最悪だ。書いたやつ消せない。読み方とかも勝手に出てる。こわ。
あと、このノートは僕も何なのか知りません。役にたてなくてすいません。
ラウン(勇者)>おっせーーーーーーーーー!!!!!!!
ミッシェル(悪役令嬢)>科学技術って何かしら?
日本人(学生)>電気、、魔法じゃなくて人間の力でエネルギーを集めるんで
ミッシェル(悪役令嬢)>魔法を使わずに? もっと詳しく
ラウン(勇者)>やめろやめろ! それは次に書け! 今はこの書物について
魔王(魔王)>光らなくする方法を探しているのだ。眩しい
日本人(学生)>一度皆で書くのを止めてみるとか? 飽きていなくなるかも
ミッシェル(悪役令嬢)>やめる? いやよ科学技術の説明を聞いてないわ!
ラウン(勇者)>いなくなるて、生き物じゃ、、生き物じゃねーよな??
魔王(魔王)>呪いの書物かな
◇月3■日 記入者:ラウン(勇者)
呪いの書物かな。じゃねーんだよ! 滅多なことを言うなよ馬鹿魔王!
だが、生き物でも、呪いのアイテムでも、その場合どっちでも何かしらの理由があると思わねえか? この書物が俺たち四人のところにある理由。目的。
――で、それを考えてたら、あることを思い出したんだ。重要なことだ。だからお前らもなにか思い出したり、心当たりがあれば隠さず言え。絶対に。
で、俺は今死にかけてると思う。もしくはすでに死んでるかも?
・・・
握っていたペンを取り落した。ペン? 羽ペン。
僕はこんな羽ペンなんてもの持っていただろうか? 疑問に喉を締め付けられている間に、ノートに文字が踊った。
・・・
魔王(魔王)>そう言えばワシも、胸を剣で刺された
ミッシェル(悪役令嬢)>、、、わたくしは投獄中で、食事の時から記憶が
ラウン(勇者)>やだー皆さん瀕死もしくは「すでに」じゃありませんかー
ラウン(勇者)>俺は体質? 魂が精霊の加護を拒否って、身体に影響でた
ラウン(勇者)>で、平。お前は?
平(学生)>、。。・・・、
平(学生)>ぼくも、じぶんで、とびおり
平(学生)>違う。僕はあの時、飛び降りてない
・・・
ぽたりとノートに雫が落ちた。ノートは濡れず、だけど何も見えない。
薄暗い自分の部屋だと思っていた場所はただの黒い空間で、周りも、自分の身体さえも何も見えない。
真っ暗闇。
音もなく、ただノートだけが宙に浮かんでいる。文字が増える。一日経っていないのに、記入者が変更される。いや、もとから一日なんて経っていなかったのかも知れない。
見てないのに、僕の目にはノートに書かれた文字が入ってくるんだ。
・・・
◇月3■日 記入者:ミッシェル(悪役令嬢)
わたくしは恐らく毒を盛られたのでしょう。用心していたつもりでしたのに。
以前、投獄されていると書きましたが、その理由はわたくしがとある女性を排除しようとしたからです。
彼女は平民にも関わらず、特例として貴族学校へ入学してきた女性でした。その女はどこで入手したのか、人の印象を僅かにですか誘導させる秘術を施したアイテムを持っていたのです。彼女が微笑めば、人として彼女を嫌悪していない限りその微笑みは女神のようにさえ思えるようですわ。
、。l,、わたくしの婚約者である王太子殿下も、その女の虜となりました。
なのでわたくしはあの女を排除すべく味方を集め、秘術が施されたアイテムをどうにか奪う、もしくは破壊出来ないかと画策しておりましたが……わたくしの落ち度です。裏切り者に気づかず、冤罪をかけられ投獄されてしまいました。
そして牢で一晩明かした夕刻でしたでしょうか。食事に出された水を、どうしても我慢できずに口にし、そこからの記憶はありません。
以上がわたくしの話ですわ。
ラウン(勇者)>水を飲むよう誘導されてそう
ミッシェル(悪役令嬢)>はっ!
平(学生)>平民一人でどうこうの話では、、他の国も絡んで、、?
ミッシェル(悪役令嬢)>はっ!
ラウン(勇者)>お嬢様も誘導され済っぽいな。やーい、ばーか
ミッシェル(悪役令嬢)>*********!
ラウン(勇者)>え、なに? 何て書いたんだよ!???
魔王(魔王)>*********だな
ラウン(勇者)>だから何て????
◇月3■日 記入者:魔王(魔王)
ワシはあれだ。ワシの国の宰相に刺された。
ラウン(勇者)>何でだよ! 人間と戦争中なのに、自国の?? 詳細!
平(学生)>あの、魔王さんに聞いていると思います。刺された理由とか
魔王(魔王)>ワシが人間と話し合おうって言ったら、嫌だって言われて刺
ミッシェル(悪役令嬢)>魔王様は人間と和平――仲直りしたいのですか?
魔王(魔王)>人間が魔界に、魔族から取れる魔石を狩りにくるのやめて欲
ラウン(勇者)>人間の業ー!! 欲深いー!!
ミッシェル(悪役令嬢)>つまりは、人間側が一方的に侵略行為を行ってい
魔王(魔王)>うん
魔王(魔王)>魔石は子供の命を救うために、どうしても必要らしい
ラウン(勇者)>はい、嘘ー。そりゃ刺したくもなるわ、こんな頭
◇月3■日 記入者:平(学生)
自分のことを話さないと、、いけませんよね。
えと、僕中学(一定年齢――約12歳~15歳――の子供が通う学校)に入学する直前に、お、、・。、。親が死んで。そしたら、家に親戚の人が一緒に住むようになって。
最初は優しい感じだったんですけど、なんか、途中から嫌味と言うか、邪魔者扱いされるようになって。学校でも、暗いとか、キモいとか殴られたり、お金を盗られたりして、いじめ られてて。
学校の帰り道に、大きな川があるんです。長い橋がかかって、その川に広場? 空き地? みたいな場所があって。昔はそこで家族でキャンプしたり、してて、けどそのキャンプの途中で、雨が降って川の水が、、、お父さんと、お母さんを
それで、そこから飛べば家族のところに行けるかなって思ってたんですけど
ラウン(勇者)>飛んだのか?
魔王(魔王)>魔石が必要か? ワシの、全部はやれんが少しくらいなら削っ
ミッシェル(悪役令嬢)>わたくしは貴方に何も言葉はかけないわ。
平(学生)>いいえ。やっぱり怖くなって、止めて帰ろうとして滑って頭を打
ラウン(勇者)>ばーかばーかばーかばーか!!!!
ミッシェル(悪役令嬢)>、、、、、、もう
ミッシェル(悪役令嬢)>では、これまでの内容から、わたくしたちはなぜこ
魔王(魔王)>ワシはまだ死んでない
ラウン(勇者)>そうだ。全部思い出した。
・・・
一瞬、視界が点滅し、気づけば真っ白な世界に立っていた。そして次の瞬間には、いつの間に居たのか。初めから居たのに、ただ気づいていなかったのか二人の美男美女と、一人……一頭? の大きな黒い獣のような人? が立っていた。
「魔王でっか!」
淡い金髪の――おそらく勇者さんが黒い人を見上げて言った。
逆に黒い人は僕を見下ろすと「小サイ。小サイ人ノ子供ヨ。ドウカ健ヤカニ」と黒いもふもふの毛皮の向こうで泣いているようだった。
「これはどういうことかしら? ラウン様? 貴方、お心当たりがありそうですが、ご説明いただけるかしら?」
紫がかった銀髪の、胸元が強調されている綺麗な女の人に、僕はそっと目を逸らした。あんな、あんなの絶対見ちゃうよ!
「悪いな。たぶんこれ、俺のせいだ――いって! 何しやがる悪役令嬢!」
「誰が悪役令嬢よ! そもそも悪役令嬢ってなによ!!」
悪役令嬢さん――と言ったら怒られそうなので、ミッシェルさん。彼女が持っていた扇子で勇者さんの顔面を引っ叩いた。とても痛そうだ。
けれど、今の状況が勇者さんのせいってどういうことだろう? 気になって横目で見ていたら勇者さんに気づかれて、困ったような微笑を向けられた。
「実は俺な、今の環境がどぉっ~しても嫌で悪魔と契約したんだよ」
は? と声に出したのは誰だったのか。
「俺は精霊の加護を受けた勇者ってことで、一年の半分を聖域で暮らさなきゃいけなくってさ。でも俺は、世界を冒険したくて強くなったのに、強くなりすぎて勇者認定されて、さらには親の血? 俺の母親がもとは精霊だったらしくてさ。そのせいで聖域の浄化装置みたいな感じで、行動範囲制限されてんだよね。で、それが嫌過ぎて、悪魔と契約して自由を手に入れようとしたら、契約した魂が精霊の血が流れる身体と拒絶反応起こして……この状況?」
この状況? とおちゃめな感じで言われても。早く弁明しないと、ミッシェルさんの扇子が今にもへし折られそうだ。
しかし魔王さんは今の説明で理解できたのか、なるほどと頷いている。なので実はモフモフ好きな僕は、勇者さんより魔王さんの方が話かけやすくて、理由を訊いてみることにした。
「あの、それは僕たちとどう関係があるのでしょうか?」
「なんで魔王に聞くんだよ。ちびっこ~お前本当に十四も歳いってんの?」
「おやめなさい。貴方の態度が横柄だから、怯えているじゃない」
「子供ニハ、優シク」
「子供……ですけど、そこまで子供じゃありません!」
小学校低学年くらいに対する感覚で、庇われている気がする。魔王さんが僕の頭を撫でようとして戸惑い、魔王さんのお手々に肉球があるのを見つけて自分から頭を寄せた。これぞWin-Winの関係というものでは?
魔王さんも「子供、小サイ、カワイイ」とご満悦な様子だ。
しばらくして、勇者さんが「もういいか」と話しを戻す。
「こっからは俺の推測なんだけど、たぶん俺の魂と契約した悪魔が融合したかなんかで、一緒になった感覚があるんだよな」
「え……、でも、それって勇者さん危険な状態なんじゃっ」
「それは別にいいんだよ。契約内容が、自由を謳歌した死後、俺の魂を悪魔に渡す。だったからさ。あ、だから先に融合してるだけかもしんねーな」
「雑な男ですわね」
「命、大事ニ」
「うっせ。で、契約実行する時に拒絶反応でたって言っただろ? その時の衝撃が結構すごくってさ、俺これは死んだかもって思ったんだよ。まだやりたいこととかあったのに、でも、どうせ死ぬなら次は絶世の美女にでも生まれ変わって自分の好きに生きたい! とか、いや待てよ。御伽話に出てくるような魔王になって世界に君臨するのも良いし、平和な国のなんの責任も無い子供も捨てがたいなって」
「ちょっとお待ちなさい」
勇者さんの言葉にミッシェルさんの目が据わった。
「もしかして……」
「たぶんそのもしかして。俺の精霊の加護的なあれこれと、アンタたちがそれぞれ死にかけてた状況とが重なって、俺の希望と合致する魂と身体を入れ替えようとした契約がアレな感じになったんだと――いって!! だから、いったぁ!! ちょ、やめ」
「でかしましたわ!!」
「へ――?」
勇者さんを扇子でボカスカ殴りながらも、ミッシェルさんは瞳を輝かせている。僕は未だ魔王さんの肉球に癒やされながら、それを眺めていた。
「わたくしたちがまだ、生きている前提でお話しいたしますが、身体の入れ替えが可能であればわたくし、魔王様になりたいですわ!」
「ワシ?」
「ええ」
「イイヨ」
「ええ!? ちょっと待て! 俺をおいて勝手に話し進めんなよ!」
僕もビックリして魔王さんを見上げる。イイヨって、そんな簡単に……。と言うか。
「僕等はまだ生きてるんですか?」
それに答えてくれたのは魔王さんで、彼はこっくり頷くと、そこで満足し黙ったので、ミッシェルさんに説明を求められ口を開く。
「道ガ、繋ガッテイル」
言われて振り返れば、病院。チューブに繋がれて、横たわる自身の姿が見えた。傍には誰もいない。ああ、嫌だ。これまでの話しが本当なら、今の僕は魂だけの存在で、なのに生きていた現実に恐怖のほうが勝るなんて。
「入レ替ワレバ、成リ代ワル」
他の人の道は僕には見えないけれど、皆、元の世界の身体は無事だと小さく呟いていた。
「ならさ。いっそ全員で入れ替わらねぇ? 自分の望む身体に」
勇者さんの提案に、僕の心臓がとくりと跳ねた。
「わたくしは、魔王様になれるのでしたら賛成ですわ」
もうあそこに帰らなくてもいい?
「なら、俺は悪役令嬢ちゃんになりたーい。そんで死んだことにして、色んな場所に行ってみたいなー」
「貴方が、わたくしの身体にぃ……」
「んだよ、そのゴミ虫を見るような目は。言っとくけど、毒のんだんなら、悪魔と契約してる俺の魂くらいでないと戻った瞬間死ぬかもなんだけどぉ?」
「考えるだけで悍ましいですわ」
「聞けよ人の話しをよ!」
どうせ、もう。家族の元に行けないのであれば。
「僕も――!」
僕もあそこじゃない、どこかへ行きたい!
でも、中身が僕なんかじゃあ、結局は同じだろうか。
「ならちびっこは俺の身体は? お前人に会うのあんまり好きじゃないんだろ? 俺の身体は大半は聖域にこもってなきゃいけないし、あと、精霊の半数はそこの魔王みたいに獣みたいな見た目」
「引きこもり生活に、モフモフパラダイス! 是非お願いします!!」
「お、おう」
「あら。一応の確認だけれども、タイラ様でも聖域の浄化作業? でしたかしら。そちらのお役目は出来ますの? もしそれが叶わない場合、彼に危険が及ぶ可能性も……」
ミッシェルさんの放った懸念に、浮かれた気持ちから現実へと引き戻される。そうだ。勇者さんは精霊の加護を受けて、聖域の浄化作業をしていらっしゃったんだ。そのための引きこもり生活で、もしそれが出来ないとなれば無一文で追い出されるかも知れない。
いいや、追い出されるだけならマシな方で、最悪詐欺師と罵られ、拷問の末にさらし首の刑に処されるかも知れないし。
「おーい。ちびっこー? 何かめちゃくちゃ深刻そうな顔してっけど、大丈夫だからなー。俺の身体に精霊の血が流れてるって言ったろ。精霊たちにはその血のおかげで認められてるだけで、中身が変わっても――いや、むしろちびっこは精霊たちに好かれそうな性格してるわ」
「え? 僕が、どうして」
「あいつ等普通の人間はあんまり好きじゃないから、俺が外に出るの嫌がるんだよね」
「引きこもり放題!」
さらには衣食住は神殿から保障されているようで、本当にいたれりつくせりだ!
そんなことで、僕、勇者さん、ミッシェルさんと三人で顔を見合わせ、魔王さんを振り返る。僕が勇者さんに。勇者さんがミッシェルさんに。ミッシェルさんが魔王さんの身体に入ることを望み、残る身体は――――。
「ワシ、人間ノ子ニナルノカ」
満面の笑みで嬉しそうだ。
「っしゃあ! なら、全員円満解決ってことでいいか? いいよな!」
「ええ。わたくしは異論ございません」
「僕もそうしたいです。お願いします」
「ワハハ! ワシ、人間ノ子! 楽シミダ!」
言い得ぬ高揚感に、胸を踊らせる。
「そう言えばミッシェルさんは、どうして魔王さんに?」
「わたくし?」
気持ちが大きくなっているのか、別れる前に話しかける。だが、やっぱり胸元に目がいってしまうので、バレバレだろうけど目を逸らす。
ミッシェルさんはそんな僕の態度は気にせず、扇子を広げて覗く目元をにんまりとつり上げた。
「だってわたくしが本当に欲しかったものが、ぼんくら王太子と結婚せずとも手に入るんですもの」
「本当に欲しかったもの?」
く、と喉を鳴らしたあと、にっ、と隠していた口元を晒しミッシェルさんは笑む。それだけで他には何も言わず、扇子を閉じて微笑んだ。けれど、皆が期待に目を輝かせているのできっと良いことなのだろう。
そうして僕等は最後の別れを告げ、新しいそれぞれの道へと進んだ。
心残りが全く無いわけではないけれど、それでも、先ゆく道を僕は歩みたいんだ。
進んだ先で、息を吹き返す。
・・・
※※※の月●の日 記入者:平(聖なる勇者)
今日は湖のほとりでユニコーンを見つけました。最初はすっごく威嚇されましたけど、帰り際にちょんとツノでつついて挨拶をしてくれました。
すっごく可愛い。ツンデレ。
それを神殿で話したら、なぜか僕のことを女性でしたかって聞かれたんですけど、もしかしてラウンさんて両性だったりしますか?
ラウン(S級冒険者)>そんなわけがあるか
ミッシェル(深淵の魔王)>ぷーくすくす。ラウン(両性)
魔王(総長)>ユニコーンとは何だ? ポップコーンの違う味か?
ラウン(S級冒険者)>んなわけあるか。角でつつくってあるだろーが
魔王(総長)>ワシ今日でお友達が三百人になったぞ。皆優しい
平(聖なる勇者)>お勤めご苦労さまです
結果→みんなハッピー!