時代遅れ人間(2022/6/8)
「えっそうだったんだ」
ふと、声をあげた人間。隣でのんびりとしていた少年は人間の方へ顔だけ向けて、訊ねる。
「どうしたんだ?」
「図書カードってあるでしょ」
「本屋さんで本が買えるやつ?」
「そう、それ。
今、穴があかなくなってるんだな」
「……はぁ?」
少年の釈然としない声。それを自らの発見への驚きととったのか、人間は特に意識することもなく。一枚の紙……図書カードを掲げ、表裏にひっくり返しながらまじまじと見つめていた。
「ほら。前は磁気カードだったんだけど、ここの……上に数字も書いてたりして、穴の位置である程度の残高が分かったんだよな」
「うん」
「『あれーこれいくら残ってたっけ』、『お気に入りの柄だけど穴が空くのも仕方ないよな』、『二つ目空いたけどバランス悪くてちょっとへこむなぁ』
……みたいなのが全部無くなったんだ!」
「うん」
興奮気味に話す人間だが、少年は同調も呆れ果てることもせずにただ頷くだけだった。
「しかも、直接行かなくても使えるようになったんだってね」
「ああ」
「誕生日とかに貰って嬉しくてさ、書店に行って。普段触れないジャンルの本とか、どれが良いかなーって考えてるひととき……
あれも全部無くなっちゃうのかな!」
「いや、直接行けなくなった訳じゃないだろ。使い方は変えなくてもいいし」
「た……確かに、選択肢は増えれば増えるほどいいってだけか!」
一通り話してようやく、人間も少年の冷めた態度に気付いたらしい。
「ねぇ、もっと驚いてくれてもいいと思ったんだけど」
「驚きはしないかな」
「ええ、どうして」
「俺、そもそも穴の空くやつを知らない」
今度は人間が釈然としない声をあげる番だった。
「……はぁ?」