~2日目~
そこで目が覚めた。
変な夢を見たもんだな。と思いながら支度をして家を出る。
学校までは歩いて20分くらいの場所なのだが、道のりの途中で津久野山の近くを通ることになる。
津久野山の近くまで来た時に軽く山を見渡してみたが、夢で見た鳥居や石階段は見当たらなかった。
やっぱり夢だったのか。
学校につき授業の準備をしていると昨日と同じ声がした。
「なぁ、津久野山の都市伝説って知ってるか?」
「津久野山って、ここから見える山のことだろ?そんな山に都市伝説なんてあるのかよ」
昨日と同じ内容だ。
不思議に思い声のする方を向くと、こちらを見つめて薄気味悪い笑顔を浮かべながら話をしていた。
驚きすぎて心臓が止まりそうになった。
机に顔を伏せ目を閉じてその声に集中していると、その声がまた話を始めた。
「その山には人の形をした神様がいるらしい。その神様を見た人は山の中を一生彷徨うことになるらしいぞ」
「都市伝説だろ?そんなの誰が信じるんだよ」
「確かにこの話を信じる人は少ないが、確かめに山に登った人はみんな行方不明になってるんだよ」
そこまで聞こえると、急に周りから音がなくなった。
慌てて顔を上げると夕日が教室に差し込んでいた。
いつの間にか寝てしまっていたのだろうか。早く帰りの支度をしなければ。
そう思っていた矢先、教室のスピーカーから音が流れる。
「シャン・・シャン・・」
鈴の音だろうか。先生の誰かが帰りを促すために流しているのだろう。
鈴の音を聞きながら教室を出ようとしたが扉が開かない。教室の扉を施錠することはできないはず。
反対側の扉も確認したがやはり開かない。
「おかしいな」
そう思うと急に寒気がしてくる。
鈴の音以外はやけに静かだ。
いつもなら学校の前の道路を車が通ると必ず音がするが、全く音がしない。
急いで窓へ向かい、外を確認するとあり得ない光景が広がっていた。
窓の外には僕の住んでいる町が広がっていた。
普段の教室から見える景色ではなかった。
これはどこから見える景色だろう。必死に町中の様子を思い返していくとと、一つ心当たりがあった。
「津久野山だ。」
それにつぶやいた瞬間、鈴の音が止んだ。
「おいで、、こっちにおいで」
スピーカーからあの時の声が流れる。
僕の感情は恐怖で埋め尽くされ、ひたすらに叫びまくった。
「誰か!誰かいないのか!」
スピーカーからはあの声が流れ続けている。
僕は恐怖に耐えられなくなり、教室の隅でうずくまった。
スピーカーの声が小さくなっていく。
「このまま消えてくれ。夢なら早く覚めてくれ」
そう願っていた矢先、今度は廊下から鈴の音聞こえてくる。
「シャン・・シャン・・」
鈴の音がどんどん近づいて、教室の前で止まった。
開かないはずの扉が開き、何者かが近づいてくる。
すぐ目の前に気配を感じる。
「見つけるまで帰さない。」
声が聞こえなくなってからどれくらい時間が経っただろう。
恐る恐る目を開いてみるとそこには誰もいない教室が広がっていた。
外を確認すると車が走っている。音も聞こえる。
今のは夢だったのだろうか。それにしては随分リアルな夢だった。
帰り道、津久野山をふと見上げてみたがそこには鳥居も階段もない。
18年間住んできて、何百回も同じ道を歩いてきたがそんなものは見たことがなかった。
なぜこんな夢を見るようになったのだろう。
家につき夕食の時間に両親に津久野山について聞いてみることにした。
父はこの町で生まれて育ってきたので、多少は伝説についても知っているものだと思った。
「ねぇ、津久野山の伝説って知ってる?」
そう聞いた瞬間、父の顔から笑顔が消えた。
「どこでその話を聞いたんだ。どこまで聞いた」
ものすごい剣幕で聞いてくる父親に驚きながらも、
「クラスの人が話しているのがチラッと聞こえてきてさ」
「そうか」
父は一言だけ呟くと、母と僕に忠告するように
「あの山の伝説の話はもうするな。」
とだけ伝え、自分の部屋に行ってしまった。
伝説のことは気になってしまったが、父が真面目な表情で言っていたのであまり深く考えないようにして眠りにつくことにした。
その日の夜中、僕は母の声で目を覚ますことなった。
「お父さんどこにいくつもり!」
寝巻きのまま玄関を出ようとする父を必死に止めている母を見て、僕も止めに入った。
父の近くに来ると、父は何かを呟いていたので耳を傾けてみた。
「行かなきゃ。探さなきゃ。」
何を言っているんだ。と思いながら父の顔を見てみると、まるで誰かに操られているかのような表情をしていた。
その顔には力が入っておらず、魂が奪われているようだった。
なんとか父を抑えて落ち着かせたが、相変わらず同じ言葉を繰り返している。
父がこうなった原因を探しに父の部屋に入ると、パソコンの明かりがついていた。
その画面には、「津久野山 都市伝説」の文字があり、父が調べた形跡があった。
パソコンの画面を見ていると目の前が暗くなり始め、意識を失ってしまった。