第4話 大学受験4
「恩人、お待たせしました!」
トレーを二つ持ち、戻ってきた。テーブルに置くと、
「どうぞどうぞ、食べてください。あ、飲み物、水入れてきたんですけど大丈夫ですかね」
「大丈夫です。ありがとうございます」
食べはじめる。カツは少し冷たいが、味自体は悪くない。僕の家は「外食は栄養バランスが悪い」と言って、なかなか学食どころか外食する機会すらほとんどなかった。今日は母さんが「体調が悪い」という理由から食事代をもらってたから来てみたけど、学食ってこんな味なんだな。そう思いながら女性を見ると、「うまい」とカツを頬張っている。
「コッチの方は味が薄いのが主流って聞いてたけど、全然イケる」
「そういえば、遠方からこちらまで受験しに来られたんですね」
「そうなんすよ。ワタシの住んでるところじゃ、文芸学科とか文章に関しての専門にしてるような大学なくて。調べて一番良さそうなのがココだったんですよ。お母さんが『お前はそれじゃなくても成績に難があるから、とりあえず大卒って履歴書に書けるようにしてくれ』って。恩人はこの辺の人っすか」
「隣の県ですけど、日帰り出来る距離です。あと、恩人って呼ばれるのは恥ずかしいので、自己紹介しますね。僕は、駿河総一郎。高三です」
「同い年か! まぁ、制服着てる時点でそうか。ワタシは桂咲。花が咲くの『咲く』の字で『エミ』って読むんだ。よろしく」
「よろしくお願いします」
お互い軽く頭を下げる。
「それはそうと、試験どうだった?」
「小説を選択して、悔いなく、最後まで書ききれましたね」
「やっぱり小説書くよなぁ」
「あんな緊張感漂う密室で、制限時間ありで短編書くってなかなかないですよね」
「だよなぁ。あ、別に敬語じゃなくてもいいぞ?」
「僕は昔からこういう話し方なので、お気になさらず」
「へぇー。珍しいな」
「よく言われます」
家でも敬語じゃないと母が「汚い言葉を使うな」と怒るから、人と話すとなると同い年でも年下でも敬語が抜けないだけだ。