第28話 芽生えた気持ち2
隣同士というのは楽なもので、相手が寝坊しても、インターフォンを押すだけで相手がどういう状態かがすぐわかる。
『駿河ごめん、五分待って』
「わかりました。部屋にいったん戻りますね」
そして、相手が遅れるとなると部屋にすぐ戻れる。ただ部屋に戻ると、この服装でいいのかと悩んでしまう。白地にペイズリー柄の描かれた半袖シャツ以外は、細身のパンツも、スニーカーも、ウエストバッグも黒。柄が派手だからと思って、他を無地の黒色でまとめたが、これでよかっただろうか。
「ごめん、待たせた!」
出てきた桂さんはこれまで見てきた服装とは全然雰囲気が違った。白い襟のついた紺色のノースリーブワンピース。上から薄手の白いカーディガンを羽織っている。服に合わせてか、長い黒髪を下ろし、毛先は少し巻いている。足元も少しヒールのある白いパンプスで大人びた印象だ。ぼーっと見とれていると、桂さんは不安そうにショルダーバッグの紐をぎゅっと握る。
「着ようと思ってた服だと少し暑かったから慌てて着替えたんだけど……変か?」
「いいえ、そんなことは全く」
こういう時なんて言えばいいのかわからない。直球に思ったこと、「かわいい」とか「キレイ」って言っていいのか? 「似合っている」という返答が最良だろうかとあたふたしてしまった。
「それならよかった。じゃあ、行こうぜ」
大学に向かう時と反対の上り電車に乗り込む。桂さんと上り電車に乗るのは受験の帰り以来か。あの日はもう二度と会えないかもしれなかった。こうして約束通り一緒に出かけてるとあの日の僕が知ったら喜んでくれるだろうな。
「大学に入学するまでこの路線の終点の阿部野橋駅と天王寺がおんなじ場所だって知らなかったよな」
「そうですね。ざっくりとした地域を指すときは同じらしいですが、区が違うんだそうですよ」
「なるほどなぁ。天王寺は前に乗り換えで通っただけだからさ。いろいろビルあるなぁって思いながら行けなかったから楽しみだ」
「駅前だけでもお店いろいろありますよ」
「リュック、どんなのにしようかな」
「小さいと教科書入りませんし、大きすぎるのも邪魔になりますもんね」
「そうなんだよなぁ。あと、色も悩む」
楽しそうに悩む桂さんと共に駅に到着すると、土曜日ということもあり、たくさんの人が行きかっていた。桂さんは何かを見つけて声を上げた。




