プロローグ
「真琴!遅刻するよ」
「はーい!」
私は1階から聞こえてくる母親の声に、慌てて身支度を整える。全身鏡の前に立ち、制服の乱れとリボンを直し、櫛で長い髪を後ろに束ねる。私の栗毛は生まれつきウェーブがかかっており、束ねていないと広がってしまうのが日頃からの悩み。友達はそれがいいのに、って言うけど、私はストレートの髪で生まれたかった。
まぁ、無いものねだりなんだけどね。
私は髪を結び終えると1階に降りていく。
1階に降り立つと、リビングの方から美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。
リビングの扉を開けると、パンと目玉焼きとウインナー、コーヒーと、朝食セットが並べられてあった。
両親は既に席につき、私を待っていた。
「おはよう、いただきます」
私は空いた席に座り、決まったセリフを零すと、パンにバターを塗って口に頬張ったところで、ある視線に気づく。
私は振り返ると、壁際のソファーに座った人物と目があった。
その人物はにこやかに手を振ってきた。
サラサラショートヘアーで、私よりも10センチ高い長身、パッと見男の子とも思わせるボーイッシュな容姿。制服さえ着ていなければ、女の子とは思わないだろう。スカートの下にジャージ履いているけれども……。
「……ほはよう、明菜」
口をもごもごさせて、私は言った。
朝食に目が行ってたから、全然気づかなかった。
どうやら、私を家まで迎えに来てたらしい。
「ほら、明菜ちゃん待ってるよ、急いで食べないと」
「うん」
母親に言われ、美味しく味わう暇もなく、コーヒーで流し込むように朝食を終えた私は、明菜と一緒に家を出るのだった。
「ここまで迎えに来なくても良いのに、むしろ私が迎えに行くべきじゃ……」
私は学校に行く道すがら、歩きながら明菜に苦笑いを浮かべて言った。明菜の家は私の家と学校との間にあるため、明菜は学校とは逆方向に向かって私の家に来る事になる。
「良いの!あたしが迎えに行きたいから行ってるんだから!あたしの可愛いまこに変な虫がついたら困るじゃん」
「変な虫って……」
明菜は爽やかな表情でそう言った後、私を後ろからギュッと抱きしめて、顔を私の栗毛に埋める。
明菜の手がさりげなく私の膨らみに触れてるところ、実は変態なのかもしれない。
明菜の家を通り過ぎ、通学路で唯一通る公園の横をも通り過ぎようとした途端、何か違和感を感じて私は立ち止まり、公園を見た。
明菜も私の様子に気づいて立ち止まり、私の視線を追う。
「どうしたの?」
視線の先には何も無く、明菜は困惑したように問いかけてきた。
「ううん、なんでもない」
私は気のせいだと思い、歩き出そうと1歩足を踏み出した途端、背筋が凍るような感覚に襲われた。
(みつけた)
強風が2人を包み込み、私は強風と共にそんな言葉を聞いたような気がした。
もう一度公園を見ると、先程まで無かったもの、黒い空間がこの世界を飲み込もうとするかの如く、風を吸い上げている。
私と明菜は身を寄せ合い、風に抗おうとした。
「なにこれ?!」
明菜は驚きの声をあげる。私は声が出ないほど、恐怖を感じていた。唯一、明菜の温もりだけが、私の意識を繋ぎ止めていた。
私が動けずにいると、やがて黒い空間は私たちのところに移動してきた。
「やめて!!」
私は叫ぶが、黒い空間が消えることはなく、追い討ちをかけるかのように、空間の中から黒い手が無数に伸びて来て、2人を掴み、そのまま黒い空間の中へ引きずり込んで行った。
この物語は、色んな登場人物との繋がり、結びつき、絆を少しず明らかにして、ドキドキしたり、時には涙を流したり、読者様の心を動かせるような描写が出来たら良いなと思います。
間違いも多々あると思いますが、暖かく見守って頂けると嬉しいです!