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出発

────8年後、春


僕は8年前とおなじ馬車の停車場にいた。

18歳になったラルフは身長170㎝と男性にしては少し小柄で顔だちも同い年と比べると幼さが目立ち、まだ少年といえるような外見に成長していた。


「じゃあ行ってくるよ。父さん、母さん」

「ラルフ、やはりもう少しゆっくりしていったらどうだ?」

「そうよ、帰ってきたばっかりじゃないの」


両親が引き留めるのも無理はない。僕は3年ぶり3日前に町に帰ってきたばかりだった。色々聞きたいこともあるだろうし、3年ぶりに息子とゆっくり過ごしたいだろう。

僕も王都に向かう馬車が出発したばかりでしばらくは町にいることになりそうだと思っていた。しかし、昨日たまたま商人が町に泊まっているのを聞き、行き先が王都ということもあり一緒に乗せて行ってもらえることになったのだ。


「ごめんね。父さん、母さん。でも1日も早く王都に行きたいんだ」


僕はこの3日間3年間で溜まったユートとアンジュの近況報告の手紙を読んでいた。2人とも学園を卒業した後この2年で冒険者ランクをCまで上げて今やBランクのパーティーに所属しているらしい。これを読むと元気にしているんだという安堵と2人との間にできた差に焦りを感じた。


「まったく、言い出したら聞かないのは変わっていないな」

「本当ね。旅から帰ってきて少しは大人っぽくなったと思ったけど、そういうところは変わってないのね」

「また時間を作って帰ってくるよ」


「出発しますよ」と声がかかる。今行きますと返してもう一度両親に向き直った。


「気を付けて行っておいで」

「無理はしないように」


2人と抱擁を交わして。僕は馬車に乗った。


「いってきます!」


馬車が走り出す。僕は父と母に手を振り2人が見えなくなると座りなおした。


「優しそうなご両親だね」


隣に座るまるで晴れ渡る空のような青色の髪をショートにした少女はセシリー・スプリング。16歳で天職は『格闘家』己の肉体を武器に戦う近接系の天職だ。半年前くらいに冒険者になった駆け出しの冒険者らしい。今回は商人の護衛のクエストで来ている。


「はい、とても優しい自慢の両親です」


僕の答えをニコニコと聞いている。セシリーは快活な性格で一緒にいるとこちらまで元気がもらえるような子だった。


「ラルフくん、あっ! ラルフくんって呼んでもいい?」

「はい、構いませんよ」

「やった! ラルフくんは王都に何しに行くの?」

「冒険者になりたくて、冒険者協会に登録をしに行くんです」

「へぇ~。じゃあ登録したら私たちの後輩だね」

「そうですね。よろしくお願いします、先輩」

「先輩って言ったって、たった半年だろ」


もう一人の冒険者が口を挟む。彼はジェイク・フレッカー。天職は『重騎士』騎士の派生の中でも特に防御に重きを置いた天職だ。あまり口数は多くなく冷静なイメージを受ける。セシリーと同じく16歳らしいのだがもう少し上に見える。


「半年でも先輩は先輩ですー。ねえねえ! そういえばラルフくんの天職って何なの?」

「あー……」


そのうち聞かれるとは思っていたけど思ったより早かったな。

言葉につまった僕を見てジェイクがセシリーをたしなめる。


「知り合って間もない奴に、いきなり天職を聞くな。失礼だろう」

「えーいいじゃん。私たちは教えたんだからさー」

「俺たちは仕事だから説明しただけだろう」

「いいんです、いいんです。どう説明しようか迷っただけなんで」


そのまま言い争いに発展しそうだったので慌てて止める。


「なんというか、僕の天職は特殊で説明しにくいというか、説明しても信じてもらえるかわからないというか……」

「大丈夫、大丈夫。どんな天職でも信じるよ」

「おまえ、そんな軽く」

「あはは……」


僕は天職が空欄になっていることを話した。スキルは習得できること以外詳しい説明は省いた。


「天職が空欄……」

「おい、思ってた以上にとんでもない話が出たぞ。どうすんだ」


2人ともさすがに戸惑っている。いきなりこんなこと話されても信じられないよな。


「信じる。信じるよ」

「え?」

「私が信じるって言ったんだしね」

「……おまえ、考えることを放棄しただろ」


信じれない、冗談だろうと言われると思っていたため、驚いてしまった。まさか信じてもらえるとは。

ジェイクの言った通りの可能性もあるけど。


「信じてくれるんですか?」

「だって本当のことなんでしょ?」

「それはそうですが……」

「じゃあ信じるよ」


つい視線をジェイクに向けるとため息をついた。


「こういうやつなんだ」

「はあ」

「まあ、俺も嘘ではないと思うよ。こんな嘘つくメリットがないし、天職を隠したいんだったらもっとまともな嘘をつくだろうしな」


ごもっともである。


「でも、この話は軽々しく言わないほうがいいだろうな。俺たちみたいな奴ばかりじゃないからな」

「そうですね。気を付けます」


たしかにそうだ。世の中いい人ばかりじゃない。旅の間にも痛感したことだ。いい出会いというのはそれほど多くはない。

その後も会話をしながらゆっくりと馬車は進んだ。


「今日はここらで野宿するぞ」


日が陰り始めたときにジェイクが言った。


「フレディさん、お疲れ様です」

「いえ、皆さんも人が乗る用の馬車ではないのでお疲れでしょう」

「これくらいなんともないです」

「私もだいじょうぶ!」

「フレディさんは休んでてください。野宿の準備は俺たちがしますから。セシリー、木の枝を拾ってきてくれ」

「はーい」


セシリーが森の中に消える。


「じゃあ、お言葉に甘えようかな」


フレディさんはよっこらしょと言って馬車の近くに座る。


「ジェイク、もしよろしければお手伝いしましょうか?」

「いいのか?」

「はい、酒場の息子ですから料理も少しはできます」

「それは助かる。じゃあセシリーの拾ってきた枝に火をつけるから。料理を任せていいか?」

「はい」

「道中の食料はフレディさんに聞いてくれ」

「ただいまー!」


セシリーが木の枝を拾って戻ってきた。たくさんの木の枝を抱えている。


「おい、乾いてない枝ばかりじゃないか。火付け用の魔道具はそんなに火力がないからこれだと火がつけられないぞ」

「だって、ここら辺の枝みんなこんな感じなんだもん。しかたないでしょー」


どうやら木の枝が湿気っていて火がつけられないようだ。


「少し貸してくれますか?」

「? はい」


木の枝を受け取る。


走査(スキャン)


スキルを発動し、木の枝の状態を確認する。

少し湿気っているだけのようだ。


「これなら……」


木の枝を他の枝のところに戻す。


「少し離れて下さい」

「? ああ」


2人が離れたのを確認しスキルを使う。


(エアロ)


風魔法で木の枝の水分をとり、乾燥させる。十分に乾燥したら焚火の形に組んで


(ファイア)


乾燥した木の枝はパチパチと燃え始めた。


「火がつきましたよ」


振り向くと2人が固まっていた。


「ラルフ、今何をしたんだ?」

「え? 風魔法で水分を飛ばして、火魔法で火をつけたんですけど、なにかまずかったですか?」

「風魔法で乾燥させるってかなり難しいんじゃなかったっけ?」

「ああ、それに火魔法も最低限の火力で火をつけていた。出力を下げるのは上げるのより難しいんだぞ」

「そうなんですか? 魔力のコントロールをちゃんとすればそこまで難しくないですよ?」


なんてことないと言ってのけるラルフに言葉を失った2人をおいてラルフは料理の準備を始める。

フレディさんに食材の場所を聞き馬車で食材を確認する。


「野菜類がメインで肉は干し肉だけか。どうせならおいしいものを作りたいな」


野菜をいくつか見繕って調味料と一緒に持って馬車を出る。ジェイクたちに少し待っていてくれと言って森の中に入る。


「道中見かけたからここら辺にいると思うんだけど。」【探査(サーチ)


探査(サーチ)】のスキルを使って獲物を探す。


「お、いたいた。」


手ごろな石を3個拾う。


【遠視】【暗視】


遠くを見るスキルと暗い中でもよく見えるスキルを併用して獲物の姿を確認する。


【集中】【投擲】


集中力を高めるスキルと物を投げるときに命中率などにプラスの補正がかかるスキルを使って立て続けに3個の石を投げる。狙いたがわず木にとまっていた鳥の頭に命中する。気絶した鳥は木から落下した。落ちた鳥を回収すると首を落としてとどめを刺す。液体を操作できるスキル【流体操作】で血抜きをして戻った。


戻ってきたラルフの持っている3羽の鳥を見て待っていた3人はまた驚いた顔をしている。何か言いたそうな3人にもう少し待っててくださいと馬車の陰でササっと解体を済ませる。


「【解体】のスキルがあるとやっぱり早いな。最初は苦労したっけ」


3人のところに戻ったラルフは野菜と鳥を一口大に切り沸かした鍋に入れる。具材が柔らかくなってきたら調味料で味を調えて完成だ。


「お待たせしました。鳥と野菜のスープです。


3人ともありがとうと言って受け取る。


「「「「いただきます」」」」

「「「!!」」」


流されるままスープを口にした3人は目を見開く。


「「「うまい!!」」」

「それはよかったです」


ラルフも一口すすり上出来だななんてつぶやいている。


「馬車にあった食材でなんでこんな味が出せるんだ?」

「【料理】のスキルがあるからですかね」

「君は『料理人』だったのかい?」

「違いますよ。実家の手伝いをしていたので習得したんです」

「それよりあの鳥はなんだったんだ? どうやって捕まえた?」

「森の中を探して、石をぶつけて気絶させました」

「それにしては早くなかったか?」

「そういうスキルを持ってるんです」

「持ってきた鳥の血抜きがしてあったと思うんだけどあれは? 時間が絶対に足りないと思うんだけど」

「そういうスキルが以下略」


質問は終わりみたいだ。事細かに説明してもいいが、多数のカテゴリーのスキルを持っているというのはあまり知られないほうがいいだろう。手遅れな気もするが。

一通り質問して落ち着いたのかみんな黙々とスープを口に運んでいる。時折、うまいや美味しいとつぶやくのを聞いてラルフは満足げに微笑んでいた。


夕食後は焚火の周りでかるく話をした。セシリー達がこの半年に受けたクエストの話やフレディが仕事をしに行った地方の特産品の話などとても興味をそそられる話ばかりだった。


「そろそろ寝ようか」

「そうだね。見張りはいつも通り2時間交代でいい?」

「そうだな。先に俺がやろう。おまえは先に休め」

「わかった。時間になったら起こしてね」

「僕も見張りをやりましょうか?」

「いや、さすがに頼めないな。こちらも報酬をもらっているんでな」

「そっか。寝る前に軽く歩いてきてもいいかな」

「かまわないが、あまり遠くに行くなよ」

「わかった。いってくるね」


歩いてくると言って3人のもとを離れたラルフは少し離れたところで地面に何かを書いていた。


「魔物除けと疲労回復……でいいかな」


ラルフが書いていたのはスキル【結界】の結界を構築するのに必要な魔法陣だった。

同じようにもう2か所に魔法陣を書くとみんなのもとに戻った。

ラルフが張った結界は魔物が近寄らないようにする効果と結界の中にいる者に疲労回復の効果を付与するものだった。

こうしておけば魔物も寄ってこないし、短い睡眠でも疲れがとれるだろう。結界の効果も完全というわけじゃないから見張りはどっちにしろ必要だが、余計な戦闘がなければ少しは体も休まるだろう。

ラルフは馬車の元に戻ると毛布にくるまって横になった。

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