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約束

それから忙しい日々が始まった。

父の言った通り隣町の道場で様々な武術を学んだ。最初は全部教えてくれという僕にふざけているのかと怒っていた師匠も毎日通ううちに真剣に教えてくれるようになった。めちゃくちゃスパルタだけど。

魔法は母に教えてもらっている。各属性の魔法の知識に、魔力制御の重要性、イメージ力、発想力のトレーニング……膨大な魔法の情報を丁寧に教えてくれる。母が冒険者だったころの経験を交えて話してくれるからとても分かりやすかった。

いろんな天職を知りたいと思い、町にいるいろんな人に話を聞いた。時には仕事の様子を見学したり、体験したりもした。町に冒険者が来たときは話を聞きに行ったりもした。

ユートの10歳の誕生日。ユートは『剣士』の天職を授かった。ユートもさすがに不安だったらしくとても安堵した表情をしていた。少し羨ましかったけど、自分の進む道はもう既に決めていたので、素直に「おめでとう」の言葉が出た。

翌日、約束していたパーティーを開いて盛り上がった。あの日は今までで一番楽しかったかもしれない。


月日が過ぎて春が来た。今日はユートとアンジュが学園のある王都に出発する日。

空が澄み渡った気持ちのいい快晴だ。門出には絶好の日だろう。

町のはずれにある馬車の停車場に僕は2人の見送りに来ていた。

周りではこの1年間で天職を授かった子たちが家族との別れをしている。それを横目に見ながら2人を探す。


「おーい!ラルフ!」


少しすると僕を呼ぶユートの声が聞こえた。そちらに目を向けるとユートとアンジュがこちらに歩いてくるのが見えた。


「来てくれたんだな」

「当たり前だろ。大事な友達のめでたい日なんだから」

「……本当に学園に行かないんだね」


アンジュが少し寂しそうな顔で言う。本当は3人一緒に行きたかったんだろう。僕も気持ちは同じだ。でも、僕の決心は変わらない。


「うん。僕は学園には行かない。しばらくお別れだね」

「そうだね……」


学園のある王都までは馬車で7日はかかる。学園には5日を超える休みはないらしい。卒業までは帰ってこられない。

学園は6年制。僕は5年後に旅に出る予定だ。そしてその旅はどれくらいかかるかもわからない。


「次に会うときは冒険者になった時だね」

「そうだな」

「ねぇ、やっぱり冒険者を目指すの?ラルフが頑張っているのはわかってる。でも……」


アンジュが言いよどむ。この数か月僕が大変そうにしているのを見て心配してくれているんだろう。

鍛錬で生傷は絶えないし、ふらふらになってベッドに倒れこむような日も少なくない。心配するなとは言えない状況だ。

ユートもなにか思うところがあるようでジッとこちらを見ている。僕が進もうとしている道がどれだけ険しいものなのかなんとなく察しているんだろう。

確かに『料理人』や他の職業系の学園にいってその仕事で暮らしていく道もある。きっとその方が楽なんだろう。


「僕は冒険者になるよ」


自分が決めた道をはっきり口にする。


「どんなに辛くても、どんなに苦しくても、僕は冒険者になる」


改めて自分の覚悟を確かめるように。


「ここまで言うんだ、俺たちが何を言おうと無駄みたいだな。」

「……はぁ。そうみたいだね。ラルフはこうと決めたら絶対に曲げないもんね」


2人は諦めたように言う。心配してもらってるのに悪いと思うけど曲げることはできない。


「悪いね」

「謝んなよ。応援してるぜ」

「……私も応援してる。でも無理しすぎないでね」

「ありがとう」


まだアンジュは心配そうに見つめてくる。


「アンジュ。大丈夫だよ」

「何を根拠にそう言うのよ」

「僕にはこいつがあるからね」


そういって首元からチェーンに通した2つのリングを出して掲げる。


「僕の道はこのお守りが照らしてくれるんでしょ? だったら何も心配することはないよ」

「……ふふっ。なにそれそんなの根拠にならないでしょ」

「ならないかな?」

「ちょっと貸して」


アンジュの表情が少し和らぐ。アンジュはリングを受け取ると両手で包み込むように持ち、祈るように目を閉じた。


「この先のどんな困難からもラルフを守ってくれますように」


目を開けたアンジュは僕に満面の笑みを向ける。


「はい、返すね。肌身離さず持ってて。きっと守ってくれるから」

「うん。大事に持ってるね」


「おーい、おふたりさん。俺のこと忘れてませんか?」


笑みを交わす2人に耐え切れなくなったユートが声をかける。アンジュが勢いよく僕から離れてうつむく。髪の間から見える耳が真っ赤になっている。


「お熱いことで…いてぇ!!」


アンジュが思い切りユートの足を踏んだ。


「おいアンジュ!」

「ふんっ!」

「あははは」


こんなやり取りもしばらくできなくなると思うと今更ながら寂しさを感じる。


「王都行の馬車にお乗りの皆様。出発時間になります。まだお乗りでない方はお急ぎください」


馬車の御者が大声で案内をする。


「時間だな。そろそろ行くか」

「うん、行こう」

「じゃあまたね」

「うん、またね」

「またな」


2人は馬車に向かって歩き出す。次に会うのは何年後になるだろうか。

2人が足を止める。


「?」


2人は同時に振り返った。


「王都で待ってるからな」

「王都で待ってるからね」


振り返った2人は目じりに涙を光らせ、そう言った。その瞬間、様々な感情とともに涙がこみ上げてくる。

2人はそんな僕を笑顔で見ている。


「うん、待っていて。絶対に僕もいくから!」


僕は涙をぬぐい笑顔でそう返した。2人は満足そうに笑って馬車に向かっていく。僕は馬車が出発してもその姿が見えなくなるまで見ていた。


この春、僕らは別れた。でも新しい約束を交わした。それは再会の約束。

約束を果たすためにやるべきことをやろう。決意を新たにラルフは力強く歩き出す。

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