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宣誓

――次の日朝


鍛錬の時にユートとアンジュにもラルフの天職の話をした。


「……というわけなんだ」


2人はしばらく沈黙していた。


「信じ難い話だけどラルフが言うんだ、本当のことなんだろうな」

「そうね。ユートが言ってきたら信じれなかったかもしれないけど、ラルフだもんね」

「おい。どういう意味だよ」

「そのままの意味でーす」

「こいつッ」


じゃれ合う2人に弛緩した空気が流れる。重くなってしまった空気を少しでも変えようとしてくれたんだろう。


「で、これからどうするんだ?」

「今まで通り冒険者を目指すよ。普通の方法では無理そうだけどね」

「そっか」

「ラルフならなれるよ。ずっとそのために努力してきたんだから」

「ありがとう。これからは今まで以上に頑張らないといけないけど絶対に諦めないよ」

「頑張れよ」

「うん」


ユートが拳を突き出す。ラルフは拳を軽く合わせた。視線を合わせてニヤッと笑う。アンジュは少し羨ましそうな顔で見ていた。


「今日はこれからどうするの?」

「これからまた教会に行って神父様にも報告してくる。神父様も心配してくれていたからね」

「そうか」

「ねぇ。来月ユートが天職を貰ったらパーティーしない?」

「お、いいねぇ。じゃあその日はパーッと騒ごうぜ」

「いいんじゃないかな。楽しそうだ」

「じゃあ来月ね!」

「俺が素晴らしい天職を貰うを盛大に祝ってもらおうじゃないか」

「非戦闘系を貰って落ち込むユートを慰める会にならないといいね」

「おまッ!アンジュ縁起の悪いこと言うなよ!」


ひとしきり3人で笑ってラルフは教会に向かった。




「こんにちわー」


教会のドアを開けると昨日と同じように神父様は立っていた。


「ラルフくん、ちょうど良かった君のところに行こうと思っていたんですよ」

「?」


神父様はまじまじと僕の顔を見た。


「その様子だと君も気づいたみたいだね」

「はい、天職のことですよね」


なんでわかったんだろうと思っていると


「昨日帰る時とは雰囲気が違いますから」


神父様は口元に手を当ててクスリと笑うとそう言った。

顔に出ていたらしい。ラルフは少し恥ずかしくなった。

僕はそれから天職のことについて話をした。


「ふむ」


神父様は僕の説明を聞き終えると少し考えていた。


「ラルフくんは冒険者を目指していましたよね?」

「はい」

「その気持ちは変わりませんか?」

「はい。誰になんと言われようと、どんなに難しかろうと諦める気はありません」

「そうですか。では1つアドバイスを。器用貧乏にならないように気をつけなさい」

「器用貧乏?」

「なまじ色々できるせいで全てが中途半端になってしまうことです。冒険者の世界は甘くありません。中途半端なスキルがいくらあろうと成功はできないでしょう。いくつかのスキルに絞って鍛えることをオススメします」


神父様は親切で言ってくれているんだろう。やはり優しい人だ。しかし、この忠告は聞けない。


「神父様、心配してくれてありがとう。でも僕は、その器用貧乏の道を行きます」

「しかし……」


正面から返される拒否に神父様が戸惑っている。


「もちろん中途半端で終わらせるつもりはありません。全てのスキルを実用可能なレベルまで引き上げて、僕は……」


一度言葉を区切り息を吸った。そして――


「僕は最強の器用貧乏になります!!」


神父様を見上げて高らかに決意を口にする。教会という場所で神様に宣誓するように。


「最強の器用貧乏……」


神父様が呆然と僕が言ったことを繰り返す。他人の口から聞くと思ったより恥ずかしかった。


「ふ……」

「神父様?」

「ふふふ…ハッハッハッハッハッハ!」


呆然としていた神父様が突然大笑いを始めた。なんかますます恥ずかしくなってくる。


「神父様〜?」

「ハハハ……いや、ごめんバカにするつもりはないんだ。」


ジトーっとした視線を送ると、神父様は涙を拭いながら謝った。


「険しい道だよ?」


神父様が問いかけてくる。さっきまで目の前で爆笑していた人とは思えない真剣な声だった。


「覚悟はできています」

「ならよろしい」


そういうと神父様は胸に手をあてて目を閉じた。


「ラルフ・オーディに神々の祝福があらんことを」


「では、頑張りなさい」

「はい! ありがとうございます!」


目を開けた神父様の言葉に、僕は力いっぱい感謝を伝えた。


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