天職なしと家族
「ちょっと待ってくださいよ! 僕の天職がないってどういうことですか!?」
ラルフは大慌てで神父様に詰め寄る。
「私にも初めてのことなのでよくわからないのです。本来ならば儀式が終わった後にこの本に君の天職が記されているはずなのですが。この通り、何も書かれていないのです」
神父様は本を広げてこちらに見せる。そのページを食い入るように見るが、神父様の言う通りそこには何も書かれていなかった。
「儀式が失敗したとか?」
「いえ、儀式は問題なく終了しました」
「誕生日が実は明日とか?」
「そうすると魔法陣がそもそも反応しません」
「ならなんで……」
「わかりません。少なくとも私の知る限りではこんなこと起こったのは初めてです」
思いついた理由を片っ端から言ってみるも神父様にすべて否定される。
天職がないなんてどうして、これからどうすればいいのかなど、いろいろな疑問が頭の中をぐるぐる駆け巡る。
頭を抱えて黙り込んでしまったラルフの肩に手を置き、神父様は優しく言う。
「ラルフくん、一度落ち着いて。今日は帰りなさい。過去に同じことがなかったか私も調べてみるから」
「……はい、そうします」
力なくうなずき教会の出口に向かう。出口の前で振り返り、神父様に会釈をすると帰路に就いた。
神父はラルフを見送り改めて本を確認する。先程見た通り何も書かれていない。
「こんなことが起ころうとは……」
この後のことを考えながらページをめくる。次のページには本来ステータスとスキルが書かれている。こちらも何も書いていないのだろう。
「?」
しかしそこに書かれていた内容は神父の想像とは違った。
「これは……どういうことでしょうか?」
さらなる不可解なことにしばらく教会の中央で考え込むことになった。
ラルフは来た道を戻ろうとして、ふと立ち止まる。少し考えて、来た道とは違う道に向かった。来た道を戻ると来るときにお祝いの言葉をかけてくれた人たちにまた会うかもしれない。いまのラルフは彼らに笑顔を返せる自信がなかった。
ゆっくりと人の少ない道を遠回りしながら家に向かう。その足取りは重い。父と母に何と言おうか、お祝いの準備をしてくれている2人を悲しませてしまうのは嫌だった。
ゴーンゴーン
12時の鐘が鳴る。お昼ご飯の時間だというのに全く空腹を感じない。ゆっくりとしかし確実に歩いてとうとう家についてしまった。ドアの前で開けるのを躊躇していると内側からドアが開かれる。そこには母が立っていた。
「ラルフ、お帰りなさい。どうかしたの?」
父と母の前では無理にでも笑顔でいようと考えていたラルフだが、母の優しい声を聞いた瞬間ボロボロと涙があふれてしまった。一瞬驚いた顔をした母だが、すぐに泣きじゃくるラルフを抱きしめる。そして何も言わずに背中をさすってくれた。泣き声を聞きつけたのか父もでてくる。父も驚いたようだが、2人に中に入るように促した。促されるままリビングに来たラルフはしばらく泣いていたが次第に落ち着いてくる。そのタイミングで父が飲み物を持ってきてくれる。
「落ち着いたかい?」
コクリと頷き、飲み物を一口飲む。
「ありがとう」
「なにがあったのか話せる?」
「……はい」
少し躊躇したが天職の儀式のこと、その結果自分に天職がなかったことを話した。
2人は驚いた様子だったが話し終わるまで黙って静かに聞いてくれた。
「天職がないか……」
「ごめんなさい」
「あら、どうして謝るの?」
「え……だって……」
言いよどむラルフ。すると母はいつもと変わらない調子で言った。
「ラルフが悪いことをしたわけじゃないでしょう?」
「でも天職がないなんて変だよ」
「確かに聞いたことはないわ。でもそれが悪いことかどうかなんてわからないじゃない」
「そうだな。もしかしたらラルフが最初なだけでこれから同じ人が出てくるかもしれないし」
父も母も天職がないことなんて何でもない風に言ってくれる。その優しさがうれしくて自然と笑顔になったいた。
ぐぅ~~~~~
緊張が解けたのかお腹がなった。すると体が空腹なことを思い出したかのようにお腹がすいてくる。
「ふふふ、そうね。お昼ご飯がまだだものぬ。すぐ準備するわ。ちょっと待っててね」
「今日は母さんがお前の好物をいっぱい作ってくれたんだ、楽しみにしておけよ」
「うん! とっても楽しみ!」
その後、鶏肉の入ったシチュー、エビフライ、食後のプリンまで好物尽くしの昼食を楽しんだ。