王都近郊の戦い その二
ラルフは爆発音がした方に向かって森の中を走る。
その方向はアヤメが拠点にしている森の方角だった。
森を抜ける。
煙が上がっているのを確認した。
(やっぱりアヤメさんの拠点の方角ですね。でも煙が上がっているのは森の外?)
アヤメの拠点で戦闘が行われたのであれば森の中から煙が上がっていなければおかしい。
つまりは、アヤメが森の外で捜索している軍人か冒険者と遭遇したということだ。
(大人しく……できなかったんでしょうね……)
この後はアヤメを連れてこっそり王都に戻って黒幕のところで冤罪晴らして、という予定だったのだがこうなってしまっては戦闘は避けられないだろう。
ラルフはため息をつくと気持ちを切り替える。
他の軍人や冒険者も合図のあった地点を目がけて集まってきている。
(少し急ぎますか)
【脚力強化】
グンッとラルフの速度が上がる。
【脚力強化】はステータスの強化ではなく「脚力」そのものを強化するスキル。
走る、跳ぶ、蹴るなど、脚を使う動作全てを強化してくれる。
強力なスキルではあるが効果時間が短いこと、再使用までの時間がそれなりに長いことが弱点である。
ラルフは一直線に戦闘が行われているであろう場所を目指して走った。
近づくにつれて戦闘の様子が目視で確認できるようになる。
戦っているのは軍人の一団とやはりアヤメだった。
十数人の軍人相手に一歩も引かないどころか押している。
(どう介入しましょうか)
もう少しで戦闘が行われている範囲に入る。
ラルフは戦闘の様子を見ながら少しスピードを落とす。
飛び込むタイミングを計っているとアヤメが軍人達から距離を取った。
(今だ!)
軍人が追撃しようとアヤメに迫る。
【ファイアウォール】
ラルフは軍人とアヤメの間に炎の壁を作り出す。
「うわ!」
「なんだ!?」
軍人達の足が止まる。
アヤメも驚いた様子でこちらを見る。
そんな様子は気にもとめずラルフはアヤメの前に滑り込むとアヤメに斬りかかった。
「森の中へ」
「!」
ラルフは小声で短く指示をする。
アヤメもコクリと小さくうなづいた。
ラルフに押される形で2人は森の中に入った。
【ライトアブソーブ】
ラルフはある程度森の中に入ると来た方向に向けて魔法を展開する。
【ライトアブソーブ】は闇属性の魔法で、周囲の光を吸収する魔法だ。
明るいところではまるで意味の無い魔法だが森の中などの薄暗い場所で使えば先が見通せないほどの暗闇を作り出すことが出来る。
【サンダーアロー】
ラルフはさらに雷の魔法を適当に来た方向へ無数に放つ。
軍人達への牽制のためだ。暗闇の中から魔法が飛んでくれば警戒するだろう。
威力は当たっても少し痛い程度に抑えてあるから怪我もしないはずだ。
【ファイアウォール】もあるので少しは時間が稼げるだろう。
「さて、手短にいきますよ」
「……ラルフ……だよな?」
「? ああ、そうですよ」
言いながらフードをとる。
この外套には【認識阻害】を付与してあるのでアヤメはラルフだと認識できていなかったのだ。
「【認識阻害】か」
「万が一失敗した時のための保険ですよ」
「失敗したら見捨てると?」
「違いますよ。逃げるにしても顔が知られてない方がいいでしょう?」
「……そういう奴だったね」
アヤメは少し呆れた様子だ。
アヤメは皮肉た冗談で言ったわけではないのだ。そうするのが当たり前と思って言った。
それなのにラルフは当たり前の様に失敗したら一緒に逃げてくれるという。本当にお人好しだ。
「そんなことより、これからの事です」
「ああ、どうすんだ?」
「王都へ向かいます」
「それで?」
「王都の軍警察本部そこに今回の黒幕がいるはずです」
「じゃあ、そこら辺にいる冒険者や軍人をぶっ倒して突破するんだな」
「……本来はこっそりと王都に行く予定だったんですけどね」
ジトッとした目でラルフはアヤメを見る。
「ははは、悪かったよ。だって……」
「周囲が騒がしくなってきたから様子を見に来てみたら、殺気だった様子で軍人やら冒険者やらが大勢で自分を探していて、我慢できなくて仕掛けてしまった、と?」
「ご名答。あたしのことよくわかってるじゃん」
「はあ……」
やってしまったものは仕方ないとラルフは意識を切り替える。
「どれくらいの戦力なんだ?」
「朝に確認した感じだとおおよそ200人といったところですね」
「200!? たったそれだけ!?」
「驚くのも無理は……たった?」
「その10倍はいると思ってたんだけど。随分とあたしのことを舐めているみたいだね」
「2000人いないと釣り合わないと? とんでもない自信ですね」
「当然!」
「……本当にとんでもない自信ですね」
ラルフはあまりに無茶苦茶過ぎて笑えてきた。
朝200人と戦うことを考えて緊張していた自分が馬鹿みたいだと。
「じゃあ、200人なんてさっさと突破して王都に向かいますよ」
「おう! 蹴散らしてやるよ!」
さっきから会話の合間に魔法を撃って牽制していたがジリジリと包囲網を狭め始めている。
「どう出ますか?」
「決まってんだろ?」
アヤメはニッと笑うとまっすぐ来た方向に走り出す。
ラルフもほぼ同時に同じ方向に向かった。アヤメがなんと言うのかなんとなく予想できていたのだ。
森を抜ける。目の前には大勢の軍人に冒険者。
「正面突破だ!」
「でしょうね!」
捜索隊はいきなり森から飛び出してきた2人に面食らった様子だったが、すぐに動き出す。
「魔法隊、放て!」
準備させていた魔法を一斉に放つ。
無数の魔法が捜索隊の後方から飛んで来る。
障壁系の魔法で対処すると足を止めないといけない。
ラルフは別のスキルを発動した。
【魔力波】
ラルフから魔力が広範囲に放出される。
放たれた【魔力波】に魔法が触れた瞬間、魔法が崩壊した。
「な!?」
【魔力波】は魔力をぶつけて魔法のバランス、制御を乱し、無効化する対魔法スキルだ。
ラルフはそれに【範囲拡大】【出力強化】を付与して放ったのだ。
今までは魔法に対する付与しかできなかったが、「スキルにもできるのでは?」と考えて試行錯誤した結果、一部スキルにも上乗付与が可能になっていた。
無数の魔法が一瞬にして無効化され動揺する捜索隊に2人は肉薄する。
「くっ、かまうな! 人数で押しつぶせ!!」
指揮官と思わしき軍人の声に捜索隊は武器を構えて迎撃する。
ラルフは前進しながら腰だめに拳を構える。
乗せるのは風属性の魔法【風の一撃】。圧縮した空気を撃ち出して相手を吹き飛ばす魔法だ。
それを捜索隊の間合いに入る直前に前方へ放つ。
攻撃態勢に入っていた捜索隊が予想外の一撃を食らって宙を舞う。ラルフはその一撃で十数人を吹き飛ばした。
「は?」
捜索隊は何が起こったのかわからなかった。
ふっ飛ばされた者はラルフが拳を振り抜いた次の瞬間に宙を舞っていた。
攻撃の範囲外の先頭にいた者はいきなり目の前を走っていた仲間が消えてラルフが目の前にいた。
後方にいた指揮官は十数人が宙に舞うのをその目で見ていた。
そうこうしているうちにラルフにより次の一撃が放たれる。同じ様に十数人がその攻撃に巻き込まれて宙を舞った。
ラルフは捜索隊が思考を停止しているのなど構わずに前進を続ける。
両手に【風の一撃】宿し、交互に放つ。放ったら再度、魔法を拳に宿す。その繰り返しだ。
あっという間に集まっていた捜索隊の約半分、100名程度の包囲網を食い破った。
アヤメはこの間何もしていない。する必要がなかったのだ。
「はははははは! こりゃあ爽快だね!!」
アヤメは愉快げに笑う。派手に捜索隊を吹き飛ばしたのがお気に召したようだ。
そんなアヤメにラルフは声をかける。
「気に入っていただいたようでなによりです。それはそうとアヤメさんにお願いが」
「なんだい?」
「この戦闘では死者はもちろん、重症者も出さないようにしてください」
「それはまたなんでだい?」
「今回のことが終わった後、余計な遺恨を残さないためです。恨みはかわない方がいいでしょう?」
「そりゃそうだけど、殺しに来ている相手に難しいこと言ってくれる」
「できないんですか?」
煽るような口調で言ってみる。
「安い挑発だね。でも乗ってやろうじゃないか」
「ありがとうございます」
そこで会話は打ち切る。
前方から集まりきっていなかった捜索隊の軍人と冒険者が向かってきている。
全部で3組。すでにこちらに気づいているのか臨戦態勢で向かってくる。
「一組は魔法で無力化します。その後、アヤメさんは右の一団を、僕が左の相手をします」
「了解!」
アヤメは返事と共に右に向かって走る。
捕縛の対象であるアヤメが右に走ったので捜索隊全員の意識がそちらに向く。
その隙にラルフは一組に向けて魔法を放つ。
【落雷】
相手の頭上に雷を発生させて落とす魔法だ。
意識が完全にアヤメにいっていたので反応が遅れた捜索隊の面々は落雷に打たれて倒れる。
全員ではないが意識を失っている。意識を保っている人も体がしびれてしばらくは動けないはずだ。
一組を魔法で無力化したせいで残ったもう一組の意識がこちらを向く。
アヤメは右側の一組と交戦を開始している。
ラルフも残った一組に向かった。
残った一組は軍人の一団だった。
彼らは先程の魔法から魔法系の天職だと判断して一気に距離を詰めてくる。
魔法系の天職は接近戦が弱いのは常識。彼らの対応は当然と言える。
相手がラルフではなかったらの話だが。
ラルフは接近してくる軍人たちに自分から距離を詰める。
【跳躍】
水平方向への跳躍。
このスキルは「高く」跳ぶためのスキルだと思われているが(実際ラルフもそう思っていた)実は跳躍という行動なら水平方向でも効果を発揮するスキルである。
【跳躍】の効果で一気に距離を詰める。
先頭にいた軍人の盾に着地し、そこから一団の中央へ飛び込む。
唖然として動きが一瞬固まった一団の真ん中で魔法を解き放つ。
【放電】
自身の周囲に電撃を放つ魔法。軍人の一団はなすすべもなく倒れ伏した。
アヤメの方を見るとすでに倒し終えたのか悠々としている。
「行きましょう。そこの丘を超えれば西門が見えるはずです」
【探査】には後方から追いかけてくる捜索隊が確認できる。あまりのんびりとはしていられない。
「ん?」
【探査】にありえないものが引っかかる。後方ではなく前方、ラルフたちの進行方向に無数の反応。
ラルフは丘を登る速度を上げた。
まもなく丘の上に到着する。
「うそでしょ……」
開けた視界に飛び込んできたのは西門の前に駐留する1000人を超える軍の大部隊だった。




