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天職授与の儀

家に帰ると荷物を置いて、シャワーで軽く汗を流して、儀式用の服を母に手伝ってもらって身に着ける。

そうこうしているうちに儀式の時間まで20分位になっている。教会はラルフの家から10分位のところにあるのでそろそろ出かけた方がいいだろう。


「そろそろ行ってくるね」

「はい、いってらっしゃい。走ったりしてはだめよ?」

「わかってるよ。いってきます」


玄関を出て鍛錬をする林とは逆方向に向かう。季節は秋。街路樹はキレイに色づき落ち葉が絨毯の様に広がっている。ラルフはその中を朝とは違いゆっくりとした足取りで歩いていく。本当は今にも走り出したいのだが出かける前に母に釘を刺されている。着崩れても自分だけじゃ直せないから我慢、我慢。

道行く人はこの格好をみて天職授与の儀式に行くのが分かるのでお祝いの言葉をかけてくれる。それに返事をしながら歩くと教会が見えてきた。

この町の教会はそれほど大きくない。派手すぎずボロすぎず、しかし神聖な雰囲気が漂っている。母によるとどの町もだいたいこんな感じなのだそうだ。ただ王都の教会は比べ物にならないくらい大きく立派なのだという。いつか王都に行った時は見てみたいものだ。


教会に入ると神父様が待っていた。背が高いが肩幅もがっちりしているのだが不思議と威圧感のない人だ。


「時間通りだね。ラルフくん」

「こんにちは、神父様。今日はよろしくお願いします」

「はい、こんにちは。こちらこそよろしくね」


神父様はラルフを教会の中央に連れて行くと儀式の説明を始めた。


「儀式といっても、ラルフくんは難しいことをする必要はないんだ」

「そうなんですか?」

「ああ、この地面に描かれた魔法陣の中心に立って手を合わせて祈るだけでいい。祈りの言葉は私が捧げるからね」

「魔法陣……」


しげしげと床に描かれた魔法陣を眺めていると神父様が説明してくれた。


「この魔法陣は、神様の世界との門の意味があるんだ。我々の祈りを聞き届けてくださった神様が少しだけ門を開けて天職を授けてくれるんだよ」

「へぇ~じゃあその門をくぐれば神様の世界に行けるの?」

「簡単には無理だろうね。人1人通れるだけ開けるのにどれだけの魔力が必要か想像もつかない」


そろそろ時間だと言って神父様は準備を始める。ラルフも神様に失礼のないように身だしなみをもう1度確認する。その様子を神父様は微笑まし気にみていた。


「ではラルフくん、祈りを」


ラルフは手を合わせて祈り始めた。神父様の祈りの言葉が教会に響き渡る。言葉が進むと周りの雰囲気が変わり始める。目をつむっているのに明るくなっているのを感じる。優しい温かさ包み込まれる感覚があった。次第にその感覚が強くなっていく、そうするとだんだん弱くなっていきやがて消えた。


「もう目を開けてもいいよ」


神父様にそう促されゆっくりと瞼を上げる。


「今この本に君の天職が記されました。確認してみましょう」


ゆっくりと本が開かれる。


「?」


神父様が怪訝な顔をする。


「どうかしましたか?」

「いや……しかし、こんなことが」


神父様はすこし考えこむと真面目な顔でラルフに向き直った。


「ラルフくん、よく聞きなさい」

「はい。」


あまりに真剣な声にゴクリと唾を飲み込む。


「きみの天職はありません」

「はい?」


いわれた意味が分からず反射で聞き返してしまった。

今なんていった?


「もう一度いいます。きみの天職はありません」

「………」


もう一度同じ言葉。言われたことを頭の中で繰り返して、よく理解して……ラルフは叫んだ。


「えぇーーーーーーーーーーーーーー!?」


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