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日課と友人

 ラルフは軽い足取りで町の中を駆けていく。

 目指すのは鍛錬に使う町の外れの林だ。


「おお、ラルフ。今日は天職をいただく日だってな。おめでとう」

「おめでとう。もう十歳なのね。月日が経つのは早いわー」


 近所のおじさんやおばさんが口々にお祝いの言葉をくれる。

 ラルフは感謝を伝えながら目的地に向かう。


 十分もするといつも林に到着する。

 この林は街の子供達の遊び場だ。適度に開けていて、日中はみんなここで遊んでいる。

 今は朝早くなせいか誰もいない。


「2人はまだみたいだな。先に始めてようかな」


 ラルフは準備運動を始めた。怪我のないように入念にストレッチをする。

 しばらくするとこちらに向かって走ってくる足音が聞こえた。

 音のする方をに視線を向ければ二人の子供がこちらへ走ってくるのが見える。


「おはよう、ラルフ。早いな」


 少しくすんだ金髪を後ろでまとめている彼は幼馴染のユート・ビルマ。


「ユート~まってよ~」


 少し遅れてきた長い赤髪の少女はアンジュ・フェリア。

 二人とも鍛錬を一緒にしている友人だ。


「おはよう。二人とも。アンジュ大丈夫? 水いる?」

「ぜぇ、ぜぇ……お、おはよう。お水ちょうだい」

「どうぞ」


 アンジュはラルフの差し出した水を勢いよくあおる。


「ぷはぁ! 生き返った~」

「随分と息が切れてるけど、どこか悪いの?」


 アンジュはラルフとユートと同じくらいの体力があったはずだ。そのアンジュが家から走ってきたくらいでここまで息を切らすとは思えない。


「あーそれね。3日前に私、天職をもらったでしょ?」

「えっと『回復術師』だっけ。ああ、なるほど」


 ラルフはすぐに原因に思い当たる。


「そう、『回復術師』。そのステータス補正で体力や筋力にマイナス補正がかかったのよ」


 天職にはそれぞれステータス補正がかかる。例えば『戦士』などの近接戦闘が得意な天職には近接戦闘に必要なステータスにプラス補正。魔法を扱ったりするステータスにマイナス補正がかかる。


「そっか。ここ数日、鍛錬に来てなかったから知らなかったよ」

「いろいろ忙しかったのよ。学校の手続きとかいろいろ」

「そりゃご苦労様」

「他人事だと思って。でも実際に実感したのはさっきね。こんなに動けなくなるなんて思ってもなかったわ」


 アンジュはうんざりといった表情だ。


「アンジュが『回復術師』とはね。やっぱ似合わないな」

「そんなに?」

「あのお転婆っぷりは『戦士』系がお似合いだと思うぜ」

「どういう意味よ!」

「おお怖」


 ユートのからかうような物言いにアンジュが怒鳴りかえす。

 ユートはアンジュの側を離れるとラルフと肩を組んできた。


「ラルフもそう思うだろ?」

「思わないけど?」

「え」

「アンジュは誰にでも優しいし、親切だしぴったりだと思うよ。こんな可愛い子に治療して貰えたら嬉しいしね」


 平然とした顔でラルフが言うとアンジュの頬が赤く染まる。


「な、なにいってんのよ!!」


 アンジュはラルフに背を向けてしまった。


「あれ? 怒らしちゃった?」

「相変わらずだな」

「?」


 失敗したかとユートをちらっと見れば呆れ顔で肩をすくめられた。

 なんで呆れられたのか分からないという顔のラルフにユートはさらにため息をつく。


「まあいいや。そろそろはじめようぜ。」


 諦めたかのように発したユートの言葉で鍛錬が始まる。

 鍛錬といっても基礎中の基礎だ。それほど難しいことはしない。

 ラルフとユートはランニング、筋トレ、素振りなどのメニューを黙々とこなしていった。

 アンジュはその間、木陰で回復術の教本を広げて練習をしていた。

 メニューが終わりユートと休憩しているとアンジュが寄ってきた。手には小さな包みを持っている。


「ラルフ、今日誕生日でしょ? これプレゼント」

「わあ! ありがとう! 開けてもいい?」


 コクリと頷くアンジュ。

 入っていたのは指輪が2つと細いチェーンだった。指輪はそれぞれ太陽と月が彫ってある。


「これは?」

「おまもりだって。行き先を太陽と月がいつでも照らしてくれるようにっていう意味だって」

「へぇ~ありがとう、大事にするね」


 早速つけようとするが、留め具がなかなかはまらない。


「ちょっと貸してみなさい。やってあげる」


 そういうとアンジュはラルフの後ろに回って留め具をつけてあげる。


「ありがとう。アンジュ」

「どういたしまして」


 ニコニコと見上げるラルフ。アンジュが耐え切れず視線を外すとニヤニヤと笑うユートと目が合った。


「お熱いことで」


 ボフッとアンジュの顔が赤くなる。


「そういうんじゃないから!」

「じゃあ、俺からはこれだ」


 アンジュの反論を無視して抱えるくらいの箱を渡してくる。思っていたよりずっしり重い。

 開けてみると立派なナイフが入っていた。腰につけるホルスターも入っている。


「うわぁ。かっこいい」

「そうだろ、そうだろ。俺の一押しチョイスだからな。これからナイフ1本あるといろいろ便利らしいぜ」

「ありがとう。大事に使わせてもらうよ」


 ゴーンゴーン

 町の広場の鐘が鳴る。九時を知らせる鐘だ。


「そろそろ行かなきゃ」

「うん、いってらっしゃい」

「また明日な」

「また明日。いってきます!」


 ラルフは荷物をまとめて自宅に戻る道を走った。

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