僕とお姉さん
少年
年齢は8歳くらい
黒髪黒目
知ってる事はテレビや本で見た物なので知識に偏りがある
お姉さん
年齢は見た目17歳くらい
茶髪で茶色の瞳
髪型は若干長めのショートボブっぽい感じ
自分は吸血鬼だと言い張るちょっとやばい人
「おかあさん、ご飯は?」
「適当に買って来なさいよそんなもん、ほら金。」
……おかあさんはいつもこうだ
ご飯どころか掃除や洗濯だってしない
してたのは僕が7歳くらいのころまでで、僕が出来るようになったと知った途端急に家事をするのをやめたのだ
お父さんは居ない
僕が3歳頃の時に家を出てってしまったらしい
原因は分からないが、それがショックで家事をするのを辞めてしまったということを、酔った母に聞いたことがある
曰く
「あんたはもう自分で出来るんだから、自分のことは自分でやりなさい」
体良く家事を押し付けただけだろう
じゃなかったらおかあさんの分まで洗濯したりなんてしない
「はぁ……」
溜息を漏らす
時刻は午後7時くらいだろうか
徒歩10分のコンビニまで行くのが毎回辛い
それでも行かないと自分が空腹で動けなくなってしまうのだから仕方ない
視界にコンビニの明るい光が映る
さっさと買ってさっさと帰ろう
まだ食器も洗って無いし宿題だってあるのだ
「いらっしゃいませー」
僕はコンビニ入店し、ひょいひょいと商品を取って適当にカゴに入れていく
すると、紙パックのトマトジュースが置いてあったのでそれも買い物カゴに入れる
こんな食生活をしていたら体調を崩してしまうかもしれない
そうしないため少しでも栄養バランスを整えたいのだが、僕は野菜ジュースが苦手だ
苦手な野菜の中でも唯一食べれるトマトのジュースを毎回買って飲むことにしているが、正直あってもなくても変わらない気がする
適当に選び終えた今日の晩ご飯と明日の朝ご飯をレジに持っていく
エビグラタンやスパゲティが次々と会計されていく
「864円になります」
「あ、4円あります」
「かしこまりました、140円のお返しになります。ありがとうございましたー」
これであとは帰るだけだ
……これが僕の日常
学校に行って、家事をして、ご飯をここで買って、そして帰って宿題をして寝る。つまらない日常
何かとびっきりの非日常が欲しい、そして僕をこんなつまらない所から連れ出して欲しい
そんな下らない事を考えていると、後ろを誰か通った気がして少し振り返ってみる
「……誰もいない」
気のせいか、きっと猫か何かだろう
出来るだけ街灯の光に当たりながら住宅街を進んでいく
その時後ろから
コツ、コツ、コツ
と、遠くから靴のかかとが地面を叩く音がした
帰り道が一緒なんだろう、と思って無視することにする
コツ、コツ、コツ、コツ
徐々に音が近づいてくる
少し不安になった僕は、一応逃げる準備をしながら後ろを振り向く
こんな夜道、心配して損は無いだろう
そして、僕の視線の先にいる人物は、僕が気付いたことに気付くとこちらに話しかけてくる
「こんばんは。突然だけど、私に血を吸われる気は無い?」
「……おねえさんは、どちらさまですか?」
「見て分からない?吸血鬼よ吸血鬼!ほら、映画とかでよくドラキュラとか居るでしょう?あれよ!」
見て分からない?と言われても
肩まで伸ばした茶髪と茶色の瞳、そして頭に付けられたコウモリ型の髪飾り
服は近くの高校の制服だろうか
「はぁ……僕映画観ないので、失礼します」
こんな人関わらないのが1番だ
どう見ても普通の高校生だし、きっとかわいそうな人なんだろう。おかあさんが言ってた気がする
「ちょちょ、ちょっと待ってよ!」
「すいません、急いでいるので」
早歩きで帰ろうとするが、急に服の後ろを掴まれて強制的に停止してしまう
「……はなしてくれませんか」
「まぁまぁ、話だけでも聞いて言ってよ!損はさせないから!」
お腹が空いて早くご飯を食べたいので、既に損していると思うのだが
話だけ聞いて断って帰ろう
もしかしたら母がいつも騙されそうになっているせーるす?の人かもしれない
いや、見るからに高校生だしそれはないか
「いい?私が吸うのは血だけどね?それでも吸うのはごく少量だし、吸われた人はそのあと体がスッキリするって言って評判なんだよ?……友達にしか試してないけど」
「なんか言いました?」
「いえなにも!」
聞けば聞くほど胡散臭い
この人から解放されるにはどうすればいいだろう
……そうだ
「お姉さん吸血鬼なんですよね?」
「そうそう!やっと信じた?」
「じゃあこれあげるので離してください」
そう言ってレジ袋の中からトマトジュースを手渡す
「わぁ!トマトジュース!」
意外に気に入っている、やはり吸血鬼はトマトジュースが好きなのだろうか
「お気に召したなら何よりです、では」
僕の服を掴んでいる手を無理やり引き剥がし、今度は全力ダッシュで逃げる
「あっちょっ待っ……」
何か言っているが聞かなかったことにしよう
明日も会うかもしれない、次コンビニに行く時は道を変えよう
家に着いた僕は、レジ袋の中から明日の朝ご飯を取り出して冷蔵庫の中にしまう
グラタンとお茶を2階の自室に持って行く、晩御飯を食べてから宿題をしようかな
自室のドアを開ける
「あっ!やっと来たぁ!さっきは急に走り出すからびっくりし」
バタン!
扉を閉めると同時に、廊下に立てかけてあったモップをドアと壁のあいだに倒す
こうすれば中からではドアは開かないはずだ
「……1階で食べよう」
今の時間母は外にお酒を飲みに行ってるはずだ
きっと帰るのは朝になるだろうから1階で食べても文句を言う人は居ないだろう
居間に続くドアを開けると
「なんで急にドア閉めるのさ!人の話は最後までちゃんと聞けってお母さんに教えてもらわなかったの!?あっでもトマトジュースありがとね!」
なんで居るんだ
「……僕のおかあさんはほうにんしゅぎ、らしいので。お礼を言うくらいなら出てってください」
口をへの字に曲げて答える
「君、無愛想ってよく言われない?」
「ぶあいそうってなんですか?」
「あー……えっと、そっけないとかそういうこと、かな?」
難しくてよく分からない
「すみません、わかんないです」
「うむぅ……!ま、まぁ私がしたいのはそういう話じゃなくて!」
そっちから始めた話だろう
というか人の家に勝手に入っといてよくこんな堂々と出来るなこの人
「どういう話ですか?」
「さっきも言ったじゃん!血を吸わせてくれない?って話!」
ちょっと焦ったように話すお姉さん
さっき断ったはずだが、と思ったがそういえばはぐらかしただけで断ってはいなかった
適当に理由つけて断ろう
「すみま」
「今なら私に出来ることなら1回だけ何でもやってあげちゃう権利も付けます!」
すみません、と言おうとしたのだが防がれてしまった
だがよく聞いてみると中々におかしい条件を突きつけてきた
ここまで来ると彼女が吸血鬼だと信じ込んでしまいそうだ
「……おねえさんはどうして、そんなに僕に執着するんですか?」
「どうしてってそりゃあ……美味しそうだからかな?あとは……」
なぜ疑問形なのだろうかこの人は
やはり帰ってもらおうか
「君がスゴく寂しそうにしてたから、とか」
今までの雰囲気とは違う、大人っぽい表情で言うお姉さん
ビクッ、と僕の体が一瞬震える
深呼吸して、震えそうになる声を押さえつけて喋る
「じゃあ……」
この人になら、少しくらい騙されてもいいかもしれない
「じゃあ、おねえさんは勉強が出来ますか?」
「……へ?」
何を驚いているのだこの人は
「おねえさんが『出来ることなら』って言うからきいてるんじゃないですか、勉強はできるんですか?」
「えっと……そりゃあ人並みには出来るよ?一応良い高校通ってるからね!」
「じゃあ宿題手伝ってください」
「宿題ね、そんなの簡単……って、そんなのでいいの!?ホントに!?」
「夏休みの宿題がかなり残っていてこのままだと間に合わなさそうなんです、というかなんでおねえさんが驚いてるんですか?」
「いや、もっと〇〇〇とか〇〇〇〇とか」
「すいません、何言ってるかわからないです」
「へー……君くらいの年頃の子ってそういうことばっか考えてるもんだと思ってたよ、失敬失敬」
僕を標準的なものさしで図らないで欲しい
というか早く返事が欲しい
「それで、やるんですか?やらないんですか?」
「やりますやります!この吸血鬼たる私にかかれば宿題なんてひとひねりよ!」
吸血鬼は関係ないと思う
「僕は宿題の準備をするので、おねえさんはそこの冷蔵庫から飲み物出しといてください」
食器棚からコップを2つ出してテーブルの上に置き、2階へ向かう
すると何故か僕の部屋のドアは開かないようにしたままだった
あの人どこから僕の部屋に入ってどこから1階に来たのだろうか
モップを起こして部屋の中に入る
勉強机の上から宿題と筆箱を取って1階に戻ろうとすると、窓が少し空いているのが見えたので閉めに行く
「まさか窓から入ったのかな……」
不思議に思いながら1階に行く
おねえさんはちゃんとソファーに座って待っていた
この人の事だから色々ちょっかいを出していそうだったのだが
ちょっと見直した
「おまたせしました」
「あ!ねえ見て見てこれ!そこに転がってたおもちゃなんだけど、これボタン押すと光って音が出るの!」
前言撤回
やっぱりダメだこの人は
用を済ませたら帰ってもらおう
「それはそこら辺に置いといて下さい、というかそんなことしてないで早く手伝って下さい」
「ちょっとそっけないぞ少年〜」
なるほど、これがそっけないということか
少し勉強になった
「そっけなくていいです」
「ちぇっ!それで、どこら辺手伝えばいいの?」
「いえ、この辺りが分からないので教えて欲しいと思いまして」
「ほうほうなるほどね、今まではこういう問題どうしてたの?」
「次の日に先生に教えて貰いに行ってます、お母さんは教えてくれないので」
「ふーん、まぁお姉さんに任せなさいよ!まずここはこうするでしょ?」
「こういうことですか?」
「半分合ってる!そんでここをこうしたらこの答えになって……」
「じゃあここはこんな感じですかね?……」
徐々に時間が経っていく
この人は僕が触れてほしくない所はあまり追求しないし、話し方の端々に僕への気遣いを感じる
変だけどいい人なのかもしれない
30ページはあった宿題が残り少なくなって来た頃
「ここら辺で大丈夫です、ありがとうございました」
「お疲れ様!それじゃあさっそく約束のブツを……」
「本当に僕の血要るんですか?」
「ここまで来ていらないなんて言うと思う?」
そんなの僕が分かるわけない
どうやらお姉さんは本気のようなので、授業で使う裁縫箱から針を持ってくる
それを自分の人差し指に刺そうとすると
「ちょちょ待ってよ!」
「なんですか?」
「なんで自分の指に針刺そうとしてるの!?」
「いるんでしょう?血」
今更何を言うんだろうかこの人は
「分かってないなぁ、吸血鬼っていうのは首筋にカプっといくもんでしょ?」
「針で刺すより痛そうなんでやです」
「そんなこと言わずに!痛いのは最初だけだから!」
なぜか危険な香りがする言い方だ、ちょっと控えてくれないだろうか
「というか君のお願い聞いてあげたんだから、こっちに従って貰うからね!」
そんなドヤ顔で言わないで欲しい
こんなことならやっぱり追い出しておけばよかった
しかし話を受けてしまったのは僕だ、受け入れるしかないだろう
「……しょうがないので早く済ませてください」
「も、もちろん!あとは全部任せてくれていいから!」
こちらに近付いてくるお姉さん
ちょっと顔がだらしなくなってきている
あ、服からいい匂いがする
「ふ、ふへへ……」
「気持ち悪いです」
「ご、ごめん!じゃあ……頂きます」
顔が近付いてくる
ちょっと恥ずかしくなってきてしまったので目が合わないように目を閉じる
首筋にチクッと痛みが走る
だがその後はとくに何も感じなかった
息をすると肺が不思議な匂いで満たされる
それがお姉さんの匂いだと分かると、気恥ずかしくなって息をするのをためらってしまう
そして血を吸われる事によるものなのか、思考がどんどん鈍っていって、最後の方になると自分が何を考えているのか分からなくなってくる
「もう大丈夫、ごちそうさま」
その一言で僕はハッとして周りを見渡す
「終わったん……ですか?」
お風呂に入ったあとのように体がホコホコして、頭も若干ボーッとする
お姉さんが言っていたスッキリするというのはこれのことだろうか
だとしたらとんだ詐欺だ
「終わったよ、やっぱり私の目に狂いは無かったね」
口の端から垂れる赤い液体をペロリと舌で舐めとって話すお姉さん
その姿は妙に様になっていて、見ていると不思議と胸がじとじとしてくる
「痛いの最初だけだったでしょ?」
と、優しく微笑みながら話す
なぜこの人の表情は時々大人っぽく見えるのだろうか
左の首筋を見るとたしかに2つの赤い点がポツンとあった
これや、今の身体の異常を見て確信した
不思議と僕の中から疑いは無くなっていた
あぁ……この人は吸血鬼なんだ、と
「少しチクッとするだけでしたね」
今の僕の中の気持ちを悟られたくなくて、平坦な声を意識して話す
「でしょ!?やっぱり私吸血鬼のプロなのかもしれないね〜!」
気付けばいつものお姉さんに戻っていた
それはそれとして吸血鬼のプロってなんだろう
「吸血鬼のプロってなんですか?」
「エッ!?……いやそのあれだよ!血を吸うのが上手い人の事……とか?」
「疑問形で言わないでください」
というかそんな事はどうでもいいのだ
「おねえさんはこのあとどうするんですか?」
今までの行動からこの人はしばらくここに居座る可能性が高い
もしそうなら強制的に追い出すまでだ
どうやって追い出すかをプランBまで考えていると
「ん〜……とりあえず今日は帰ろうかな、もう11時回っちゃうしね」
おっと、その必要は無かったらしい
ちょっと拍子抜けしてしまった
「……帰るんですか?」
「えっ!?なになに!少年は私に帰って欲しくないの!?いやー仕方ないなー君がそこまで言うなら本当に仕方ないなぁ!じゃあまた勉強の面倒を見てあげるから血を吸わせて欲し」
「いえ、もし居座るならどうやって追い出そうか考えていたので拍子抜けしただけです。お帰りはあちらです」
「いな……くそ!やはり私にデレたわけじゃなかったか、不覚!」
でれ?時々よくわからないことを言う人だ
吸血鬼だし仕方ないか
「……冬休みの時、またお願いしていいですか?」
「この年頃の子なんてどうすれば懐いてくれるのかなぁ、こういう時に限って晶は学校休みっぱなしだし他に頼れる知り合いはいないし……へ!?ごめん聞いてなかった!もっかいだけ!」
「だから……冬休み時にまたお願いしていいですか、って聞いてるんです」
「……い、いいの?」
「いいも何もこちらからお願いしてるのですが」
「う、うんうん!お姉さんに任せてよ!……ふへへ」
……やっぱりやめようかな
「あと、これあげます」
実は2パック買っておいたトマトジュースを冷蔵庫から出して手渡す
「トマトジュース!!少年!君は最高だよ!」
ニヤついた顔がパッと花が咲いたような笑顔に変わり喜ぶお姉さん
表情がコロコロ変わるのを見ているとちょっと笑いが込み上げてくる
「くふっ……それじゃあおねえさん、また今度」
少し笑いながら言ってしまったが、この人なら大丈夫だろう
「ッ…………!」
お姉さんが突然固まってしまった
「おねえさん?」
「……はっ!な、何でもない!」
「はぁ、ならいいんですけど」
「じゃ、じゃあね!また今度!」
急いで靴を履いて出ていってしまうお姉さん
……そういえば、今僕はお姉さんのことを心配したのだろうか
もしそうならちょっと悔しいかもしれない
次来た時には仕返しをしてやろう、ちょっと理不尽だけど
少年
ちょっとお姉さんに気を許してきたような気がする
でもそれを気取られるとめんどくさくなるのであくまで冷静に接する
お姉さん
普段は普通の高校に通っている
最近晶という友達が休みっぱなしで連絡すらないのが悩み
少年には弟のように接して懐かせたいと思っているが、実際そうは行かない
吸血鬼っぽさを感じるのが頭の髪飾りだけ
少年には最初、大人の女性っぽく接したが、少年に翻弄されるにつれボロが出て行く