うわああ
「なんて言うんでしょうか、汗臭いオッサンの、あのゴツゴツとした手で味わうように触られたとき、本能が拒絶すると同時に脳内麻薬がドパドパ出るんですよね、あれがもう病みつきになっちゃいまして、一度、宮下さんも試してみては?」
橋本先輩は頬を赤く染め、目が見えないので恐らくだがうっとりとした表情で痴漢のすばらしさを力説する。
「はは……私は遠慮しておくよ……はは」
「……」
僕は声も出なかった。
「まあ、触られっぱなしはなんか癪に障るので、ああやって硬直させた後、財布を抜き取って女子トイレに放置していますけれど」
「「……」」
ひょっとして今、僕たちはやばい人を勧誘してるのではなかろうか。宮下先輩は微苦笑のまま固まってるし……。
「まあ、それはそうとして、能力者が集まれる同好会ですか、興味ありますね、実は能力をお持ちのお二人にならわかってもらえると思うんですが、私、クラスに居場所が無いと言いますか……別にいじめられているわけではないんですけれどね……」
橋本先輩は俯く。
橋本先輩の言う事は痛いほどよく分かる。僕たち能力者と非能力者の間には溝があるのだ、表面上は仲良くしてくれても、週末に遊びに誘われたことは殆ど無いし、体育祭や卒業式の打ち上げに呼ばれたことは無い、日本人は他人と違うことを、執拗に嫌うのだ。
「そう、私もそうだったんだ、だから、この同好会を作ったんだ!」
いつの間にか復活していた宮下先輩は大袈裟に両手を広げる。
「それはそうとして、橋本先輩の能力ってどんなのですか?」
僕は好奇心で聞いてみる。
「知りたいですか?」
「そりゃあ、まあ、人ひとり拘束できる程の能力って珍しいですからね、気になります」
「そうだな、私も気になる、良かったら見せてくれないか、なんなら鈴木で試してくれても構わない」
宮下先輩は澄まし顔で僕を使えと言う。
「構います! 何で僕なんですか」
「鈴木は私のような、華のように繊細な乙女にそんな危ないことをさせるのか?」
華のように繊細な乙女という所には少し引っかかったが性別を盾にされては言葉が出ない。
男女差別反対!
「……わかりましたよ、やればいいんでしょ、やれば」
僕は立ち上がり、ポケットから財布を取り出して机に置く。
「橋本先輩、どうぞ」
「じゃあ、失礼しますね」
橋本先輩は胸いっぱいに空気を吸い込む。
そして。
「縛!」
そう、橋本先輩が叫んだ瞬間、背筋が伸び、両腕はロープで縛られたように腰の横で固定され、脚も同様に動かなくなる。
「うわあ、すげえ! 本当に動かない!」
「おお!」
僕と宮下先輩は同時に驚嘆の声を出す。
「まあ、強力な分色々と制限もありますけれどね」
「へえ、例えばどんッうわあああ! 宮下先輩押さないで下さい! ホントに! ホントに! 動けないんですからあ!」
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