オチ
あの事件が起こってから二日後、僕は一日ぶりの部室に来ていた。昨日は宮下先輩が学校を休んだので活動はしなかった。
建付けの悪い扉を開ける。
宮下先輩が席に座って外の景色を眺めていた。
「こんちわー。宮下先輩」
「やあ、鈴木」
大丈夫でしたか? と言うと、ああ、返して僕を見る。
「宮下先輩、あの上着はどうしたんですか?」
「棄てたよ、気持ち悪い」
そうですか、と言い、僕は自分の椅子に腰を下ろす。
ネットやテレビなどではよく見る事だったが、やっぱり自分自身が経験するというのは違う。思い出すだけで今でも背中に虫が這うような感覚に陥る。
でも、一番の被害者は宮下先輩だろう。いつも通りに振舞っているがやっぱり少しテンションが低い。
「そう言えば、橋本先輩はどうしたんですか?」
「図書委員の仕事だ」
「ああ、なるほど」
ちなみに藤田はもう学校には居ない。
最後の最後まで「こいつらの出まかせだ!」とか「いきなり殴られたんだ!」とか言っていたがすべて無視され直ぐに警察に連絡されていた。
前から、セクハラ行為ギリギリの事をされたとクレームがあったらしい。
それにしても宮下先輩を狙うってなあ、中学生、いや、服装や髪形によっては小学生にも見える宮下先輩だ。宮下先輩には悪いがそういう趣味があるのだろうか。
窓の外を眺める宮下先輩を見る。
やっぱり元気ないなあ。
「先輩」
「ん? なんだ」
「甘い物、好きですよね」
「ああ、それなりには」
宮下先輩は首を傾げる。ボブカットの髪がふわりと揺れる。
「駅前にケーキ屋出来たの知ってます?」
「ああ、知ってるが」
「あそこ、ケーキの食べ放題やってるんですよ。今から橋本先輩も誘って行きましょう。僕が奢りますから」
「え、でも、後輩に奢らすなんて……」
「今さらでしょう? いつもジュース集りに来るじゃないですか。それに僕バイトしてるので手持ちはそこそこあるんですよ」
鈴木ぃ……と宮下先輩は泣きそうになる。
この人の弱ってるところ初めて見たなあ、と思いながら席を立つ。
「行きますよ。先輩」
「あ、待ってくれよ」
先輩はトテトテと走ってついてくる。
「ていうかこの学校、バイト禁止じゃなかったか?」
「ばれなきゃいいでしょ」
僕と宮下先輩は、仕事が……と言う橋本先輩を引きずってケーキ屋に向かった。
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「そういえば、今回の事件は懐中電灯が人魂の正体ってことになってますけど、松原先輩の話じゃあ光がゆらゆら揺らていたって言ってましたよね」
「ん? カーテンに光が当たっただけだろう?」
ケーキを口に詰め込みながら宮下先輩。本当に子供みたいだ。
「でも、部室にカーテンなんてなかったような」
橋本先輩は珈琲と一緒にゆっくりとケーキを口に運んでいる。
「そう、カーテンが無いんですようちの部室……」
「んん? じゃあ何で光が揺れていたんだ?」
「え?」
「え?」
「え?」
僕たちは一斉に鳥肌が立った。




