駆け上がる
初めは宮下先輩が先頭になり、走っていたが運動能力の差もあり僕が先頭になっていた。
一階から二階に上がる階段を一段飛ばしで駆け上がる。そこで足を止めた。
先輩たちが追い付いてくる。
「ここからは足音を出すな」
そう囁いた宮下先輩を先頭に三階まで上った。
僕らの部室前。
三人は耳を澄ます。
中からガサガサと布がこすれる音がしている。僕らは顔を見合わせ頷き合う。
宮下先輩が扉に手を掛ける。ふう、と小さく静かに息を吐き――
勢いよく扉を開けた。
「誰だああ!」
室内は懐中電灯のオレンジ色の光で照らされている。懐中電灯一つなので隅の方は薄暗くなっている。中で蹲っていた影がビクリと跳ねる。
藤田だった。
その手には何かが握られている。よく見てみると上着だった。
どこかで見たことあるなあ、と宮下先輩を見ると目を見開き、口を開け、硬直していた。「あ、あ、あ、」と声が漏れている。
「どうかしましたか? せんぱ――」
その瞬間、藤田が動いた。
上着を投げ捨て、走る。僕を無理矢理突き飛ばし、教室の外に出ようとする。
宮下先輩が叫んだ。
「止めろ!」
しかし僕は突き飛ばされ、床に倒れている。立ち上がろうとした瞬間、次は橋本先輩が叫んだ。
「縛」
藤田が気を付けの姿勢になり、盛大に床に倒れこむ。その際に鼻を強く打ったのか、ぶう、と声を出して動かなくなった。
まあ、橋本先輩が拘束しているから動きたくても動けないけれど。
やっと起き上がった僕は座り込んでいる宮下先輩に駆け寄った。
「どうしたんですか? 大丈夫ですか?」
宮下先輩が教室の中に向かって指差す。
その指を追い、視線を向けると藤田の投げ捨てた上着があった。僕はやっと思い出す。
あの上着は――――
「上着……私の……」
□□□□
伸びている藤田を橋本先輩と僕で部室に運びこみ、教室に転がっていたビニールテープで足と手を拘束させる。
宮下先輩は自分の椅子に座り、俯いている。上着は投げ出されたままだ。
この人、こういうことに耐性ないからなあ。立ち直るのに時間がかかるかもしれない。まさか、人魂の正体が変態だなんて思わないもんなあ。
橋本先輩が言う。
「まさか、こんな変態が近くにいたなんて……気持ち悪いです……」
いや、あなたも十分変態なんですが……
「変態なら節度を守ってほしいですね、私が触られるときは、私も気持ちがいいし、相手も楽しいというウィンウィンの関係を保ってるのに……」
変態って言う自覚あったのか。ウィンウィンって……あなた財布を抜き取ってましたよね、別に痴漢をする奴が可哀想だとは思わないけれど。
「……うう、う……」
藤田が唸り、薄く目を開けた。




