やっと
松原先輩の話を聞いた日の放課後。
僕たち三人――僕と宮下先輩と橋本先輩――は部室で珈琲を飲んでいた。
「宮下先輩、どうするんですか? 」
僕は温くなった珈琲を啜り、聞く。
「どうするったって、人間の仕業なら現行犯で捕らえるしかないだろう? いくら考えったって分からないしな……」
「今日やるんですか?」
と橋本先輩。
「ああ、こんな気持ちの悪いことは早く解決したいしな」
僕はカップを弄びながらもう一度考えてみる。
……。
…………。
……………………。
無理だね! 一、学生にこんな少ない情報で推理しろと言うのが間違ってるんだ。
僕は考えるのを止め、残った珈琲を飲み干した。
橋本先輩が聞く。
「何か作戦でもあるのでしょうか?」
「いや、無い」
宮下先輩が腕を組み、僕の無いのかよ! と言うツッコミを無視し、続ける。
「まあ、相手の正体が分からない以上、作戦なんて立てられないからな。無理矢理立てるとしたら……そうだな……当たって砕けろってことで」
……いつも通りの脳筋でいらっしゃる。
「まあ、五時半まではいつも通りこの教室で駄弁って、その後、校舎外で人魂が現れるのを待つ。これで行こう」
もし犯人を見つけたら? と言う問いは飲み込んでおいた。聞いてもどうせ無駄だから。
僕は別の話題を振ることにした、この話は楽しくない。いつも通りの雑談がしたい。
「先輩、先輩、、めちゃくちゃ話変わるんですけれど」
「ん?」
「何ですか?」
二人が同時に僕の顔を見る。二人共気持ちの悪い話は止めたいのだろう。
「僕が今日笑った話なんですけれど。僕が二時間目の後の休み時間に飲み物を買いに自販機に行ったんですよ。そしたら数学の内村先生が居たんですよ。あの喋り方が特徴的な。その先生が自販機のつり銭口の所でガサガサしてたんですよ。それで不思議に思って声を掛けたら悲しそうな顔でこう言ったんですよ」
タメを作る。
『君ねえ~、この自販機気を付けた方がいいよぉ~、つり銭足りないんだぁ~、もう、手が震えるよぉ~』
「……」
「……」
その時の先生のジェスチャーをも加えた渾身のモノマネはものの見事に滑った。
それよか、僕ってこんなキャラだったけ。
そんなこんなで時間を潰し、あっという間に五時半のチャイムが鳴った。
僕たち三人は取り敢えず、教室から出て、鍵を閉めた。
教室を出る時、丁度生徒指導の先生と鉢合わせた。藤田だ。
僕たちはさよならと挨拶をして校舎から出た。
いつも現れるのは六時頃と聞いたので、前庭の隅にあるベンチに座り、人魂が出現するのを待った。
流石に皆緊張しているのか、口数が自然と減り、終いには喋らなくなった。
沈黙が流れる。
辺りの闇と混ざって、より不安や緊張を煽る。
三十五分後。
僕たちの教室にオレンジ色の光が灯った。
僕たちは弾かれたよう立ち上がる。互いに頷き合い、走り出した。
この話に出てきた先生の話、これ、実話なんですよね。
友達と笑い転げました。あまりの衝撃にどうしても入れたくなったんです。主人公、ゴメンね。




