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怪談


 「別に、よくある話じゃないですか。学校の怪談なんて」

 僕は珈琲を飲み干し、言う。


 「そうですよ」

 と橋本先輩。


 宮下先輩はカップを置き、腕を組む。

 「いや、ほかの怪談話と違って、目撃談があるんだ」


 「それだけじゃあ証拠になりませんよ。単にふざけて言いふらしているだけだと思いますよ」


 「私もそうだとは思うんだが、その目撃された場所がこの部屋なんだ」

 宮下先輩は机を指でトントンと叩き、その指でカップを指差す。

 するとカップが浮き上がり、空中を漂って、僕の机のお盆に乗る。


 「へえ、この部屋で?」

 僕もカップをお盆に乗せる。


 「なんか、不気味ですね。私、オカルトとか苦手で……」


 「な、気持ち悪いだろう? 他の教室で見られたのなら聞き流したんだがな、この教室ときたら無視するわけにもいかなくて」


 「それで、僕たちで解決してやろうと?」

 僕も宮下先輩にならって腕を組む。


 「分かってるじゃないか!」

 嬉しそうに頷く先輩。

 

 「嫌と言っても無理矢理手伝わせれるんでしょう? ……協力しますよ……はあ」

 諦めて、項垂れる。ささやかな抵抗に大きく溜息を吐いておいた。


 「私もですか?」

 橋本先輩は嫌そうな顔をする。


 「出来れば頼む。橋本の能力は強力だからな」


 「ん~ん、まあ、いいですよ。借りもありますしね」


 「流石お前らだ! そうと決まれば早速目撃した奴に話を聞きに行こう」


 「協力はしますが今日は止めましょう。もう五時ですよ」

 僕は立ち上がり、橋本先輩からカップを受け取り、お盆に乗せる。

 それを教室の端にある手洗い場に持っていく。


 「そうですね、明日にしましょう宮下ちゃん?」

 

 「……そうだな、もう学校に居ないかもしれないしな、目撃した奴」

 

 僕はカップを洗い終わり、水気を拭き取り棚にしまう。

 そして、先輩達に振り返り、言った。

 「取り敢えず、今日は帰りましょう」

 

 「そうだな」

 宮下先輩はそう言い、荷物を片付けだす。

 

 

 教室を出る時、忘れ物は無いかと振り返ると宮下先輩の椅子に上着が掛かっていた。

 

 「宮下先輩、上着忘れてますよ」


 「あれは置いてるんだよ、てか、ずっと置いてたぞあれ」


 「そうでしたっけ、気づかなかったです」


 

 階段にたどり着いたとき、下の階から生徒指導の先生が戸締りの見回りに来ていた。

 若くして禿げているガタイのいい人だ。名前を藤田と言ったか。

 僕たちはさよならと言うと気をつけて帰れよと返してきた。





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