入部
「空気抵抗を考え、それに対応した結果がこの体と言うわけさ、だから胸も小さいんだ」
「そうですか」
「話を聞けよ」
机で本を読んでいた僕の頬に痛みが走る。
「痛!」
僕は頬を押えて宮下先輩を見る。
宮下先輩は僕を指差していた。能力を使ったのだろう。
「何するんですか! もう、むやみに能力を使ったらいけないって国に言われているでしょう」
「ばれなきゃいいんだよ、てか、話を聞けよ!」
「聞いてますよ、先輩の胸が小さいから豊胸手術を受けようかって言う話ですよね? したらいいんじゃないですか? でも、人間の価値は胸じゃないですよ、大事なのは人格、心です」
「全然違うわ!」
宮下先輩は顔を赤くし、僕の本を指差す。
途端、本が手から離れ、宙を舞って翻り、背表紙で僕のすねを打つ。
「痛った!」
その時、部室の扉が開いた。
僕と宮下先輩は同時にその方向を見る。
「失礼します、二年の橋本です」
宮下先輩が立ち上がる。
「やあ、橋本。どうしたんだ?」
「こんにちは橋本先輩」
僕は座ったまま頭を下げる。
「宮下さん、ここですか? 言っていた同好会の部室は」
「ああ、ここだよ。もしかして入ってくれるのか?」
橋本先輩は無言で肩に掛けた鞄に手を入れ、一枚の紙を出す。そしてそれを宮下先輩に渡す。
「これは?」
宮下先輩は受け取りながら聞く。
「入部届です」
僕は立ち上がり、二人に近づく。
「入ってくれるのか!」
「やりましたね先輩!」
僕は思わず手を叩く。
「はい、私、この同好会に入ります。よろしくお願いします!」
相変わらず目は隠れているが、橋本先輩は長い前髪の下で微笑んだ。
そして、橋本先輩は続けて言う。
「昨日は本当にありがとうございました」




