[Mission-003]
前回までのMission!
ついに敵との交戦に入ったが、早くも味方機が撃墜されてしまう(フレンドリーファイア)。しかしその程度で悲観する昴流では無かった。
むしろハンディキャップを楽しみながら敵へと反撃を始めるのであった!
[Mission-003]
ブースターを全開にして急加速を行う。回避行動中の敵に向かって、捻り込む様に急降下で強襲を行った。
敵機はこちらの接近に気付いて、姿勢を変え高度を上げる。しかし、3番機の攻撃を受けた所為か機体の上昇が遅い。そのまま上空を征してマウントだ。
「ドッグファイトの仕方を教えてやるよ」
トリガーを引き、アサルトライフルが60mm徹甲弾を秒間10発、敵機の上部にお見舞いする。敵は主要部に損傷を受けたらしく旋回しようとする挙動の途中で機体が空中分解した。
爆発は起こらない。敵はポリゴンの如く細かいパーツに分かれて虚空に溶けて消える。
〈4番機、敵機撃墜〉
〈これでイーブンだな〉
観言と委員長が通信で喜んだ声を発する。
しかしこっちは喜んでいる余裕も無い。レーダー上では敵の2機が俺の機体を挟み込むように迫ってきていた。
すかさずペダルを踏み込み、操縦桿で機体の姿勢を制御する。推力を下方に集中。スラスターを全開にするのは一瞬でいい。敵が俺の機体を捕らえ、アサルトライフルの射撃を開始する瞬間、出力を全開にして跳ね上がるように上昇する。まさに敵を踏みつける様にスラスターを吹かして、挟み撃ちをかわして見せた。単に機体を上昇させて避けるだけなら誰でも出来る。しかし十分に引き付け、噴流を浴びせつつ上昇するというのはなかなかにテクニックの居る操作だ。難易度は高いが、交差後に敵機は大きくバランスを崩すおまけも付く。
〈一機貰う〉
俺に踏まれてふらついた敵機を、2番機の狙撃が狙う。
2番機の120mm徹甲弾が、見事中心を撃ち抜き敵機を破片と化す。回避行動をとる余裕すら与えず一発で仕留めるその威力はもはや砲撃に等しい。
普通ならば反動で機体が吹っ飛ぶはずなのだが、2番機はバランスを崩す様子すら見せなかった。KR用スナイパーライフルを飛行中に撃ち、あまつさえ命中させつつ、バランスすら崩さないなんて曲芸が出来る奴を、俺はこいつ以外に知らない。
〈2番機敵機を撃墜、おめでとう〉
〈よし一気に畳み掛けるぞ〉
委員長も張り切って、戦闘域へと乗り込んでくる。
気が付けば敵の1機が俺の背後を狙っていた。スラスター機動は小回りが利くのが利点だが、挙動直後は機体制動の為に速度が落ちるというデメリットがある。その隙を突くというのは悪くない考えだ。
「相手が俺じゃなかったらな!」
操縦桿とペダルを駆使して、素早く機体を制御し敵の襲撃から逃げるようにブースターを吹かす。背後から襲い掛かる敵機を後方に見据えて、緩やかに操縦桿を引いた。機体は螺旋を描くように上昇し、敵の背後へと回り込む。急に行われたバレルロールに敵は俺を見失い、困惑している様子が見て取れる。
「映画でも観て出直して来い」
敵機はそのまま俺の射撃を受けて砕け散った。
〈4番機、もう一機撃墜〉
〈あと一機だ、こちらで追い詰める〉
〈深追いは禁物だぞ!〉
2番機と1番機が敵に迫る。
敵機は2番機の追撃を振り切るように旋回し、そこを1番機の射撃が捕らえた。
〈1番機が敵機を撃墜、敵残存数は0です。これで殲滅完了ね、ミッションクリア!〉
観言がミッションの達成を告げる。
〈作戦限界高度までまだ余裕あります、このまま待機してください、お疲れ様です〉
3番機ナビも労いの言葉を投げかける。
〈こちらの損害は3番機の撃墜と、2番機の軽微の損傷ですね、ご苦労様です〉
1番機ナビの副委員長が被害状況を軽く読み上げた所で、ナビゲーター達が安堵する様子が通信機越しに聞こえた。
本来は敵のKR部隊を蹴散らした後で、ナビゲーター達が無人兵器のシステムを奪う作業が待っているのだが、今回はKR戦だけなので状況は終了と言っていいだろう。
難易度の高いミッションであったが、味方一機の損失で達成できたのは成績としては上々ではないだろうか。
パイロット勢も機体の挙動に緊張感が抜けた様子が伺えた。しかし。
〈!? 新たな熱源反応を検知しましたわ!〉
2番機ナビの言葉と同時に、レーダー上に新たなポインターが点灯する。
ここからまだだいぶ距離は離れているが、移されるポインターの動きは明らかにKRの様な挙動を見せている。
〈どうした敵が残っていたのか?〉
委員長が撃ち漏らしを懸念する。
〈そんな確かに4機撃墜を確認したのに……〉
観言の戸惑う声が通信越しに響く。
〈数え間違えじゃないのなら……識別はどうなっている?〉
2番機は近くを通過する航空機なんじゃないかと問いかける。
〈今確認しておりますわ、これは民間? いえ、偽装……アンノウン機ですわ!〉
2番機ナビの言葉に、全員が沈黙した。
それはとても緊張を孕んだ、肌をチリ付かせるほどの静寂であった。
モニターだけは冷静に、近づいてくる赤い点滅を表示し続けている。
[アルカの手記-003]
「ふむ、ようやく主役が活躍出来たといった所だな」
〈さようでございます、しかし活躍までに時間がかかりましたな〉
「まったくだな、もっとこう開幕から無双してパパッと終わらせればよい物をもったいぶって……」
〈姫様、擁護するわけではございませぬが、同性能の機体で同数を相手にするのであればやはり圧倒的勝利は難しいかと〉
「ふむ、何故だ?」
〈判りませぬか……つまりこちらと相手の条件はほぼ同じなわけでございますな、ですので勝敗を決するのは個々の操縦技能と、そして立てられた作戦の成否、後は時の運でございます〉
「……つまり?」
〈ええっと……姫様ジャンケンで常に勝ち続ける事は難しいはずです、そういう感じでございますな〉
「なるほどな、しかしそうなると最後になんか出てきたアレはグ―なのかパーなのかチョキなのか?」
〈いえ別に例えで出しただけでして別に彼らはジャンケンで戦っているわけでは〉
「そうだ彼らは何故あっち向いてホイとやらない、あれはジャンケンに勝った者の権利では無かったのか?」
〈いえ……ですから……〉
[続く]