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[Mission-002]

前回までのMission!


 超高高度からの奇襲降下作戦。

 一瞬の判断ミスが命取りとなる任務の最中、昴流はどうもヤル気が出ないでいた。

 それは過疎化した地球を思ってか、無用の長物と化した軌道エレベーターを慮ってか。

 騒がしいチームメンバーに「遊びじゃない」と注意され、思わず自嘲気味に笑みを浮かべるのであった。

[Mission-002]



 確かに難易度の高いミッションだ。敵との戦闘条件は同じ、その上で制限時間付き。緊張する気持ちも分からなくはない。それでも、可笑しさが込み上げてくる。

「そりゃ悪かった、気を付けるよ」

〈声が笑ってンぞおい!〉

 やはり俺にはお遊戯にしか見えないのだ。

 言い争っていると、左側の2番機が俺越しに3番機を指さした。

〈こちら2番機パイロット了解した。そう言うお前も煩い、任務中くらい静かにしたらどうだ?〉

 クールな女性の声が通信機から響く。パイロット(うち)の紅一点、黙っていれば美人という印象に違わず、3番機に向けて機体の親指を下に向ける。

〈こちら1番機パイロット、任務を了解した。だから何で任務中に喧嘩を売るかなお前達!〉

 またも委員長が、荒れるパイロット陣を諫める。

〈俺はいつだって真面目にやってるさ! 不真面目な奴が居るからいけないンだぜ! おい[箱入り貴族(ノーブル)]〉

「はいよ」

 綽名で呼ばれたので、面倒臭そうに返事を返す。

〈お前背後にゃ気を付けとけよ、敵が前に居るからって弾が前方からだけとは限らねぇンだぜ! いついかなる時も周囲に[警戒を怠るな(ドゥノットネグレクケーション)]だぜ!〉

 3番機が指を銃の形にして挑発してくる。

〈まったく、こういう不真面目な奴が居るから周りが迷惑するんだな〉

 それに対して2番機の挑発。

〈おい聞こえてンだぞ!? 手前ぇ今何つったぁ! あぁ?〉

〈聞こえたんじゃなかったのか?〉

〈そういう意味で言ったンじゃねぇよ! 手前ぇもだ! 戦場じゃ気を付ける事だな! ま、お前に関しちゃ今すぐ謝れば許してやらないこたぁないぜ?〉

〈悪いがそれは出来そうにないな〉

〈何でだよ〉

〈馬鹿に人の言葉は分からないだろ?〉

〈手前ぇ!?〉

 3番機が2番機に向かってスラスターを吹かし掴みかかる。俺は冷静に機体の下部スラスターを吹かして直線状から退いた。2番機も滑らかな動作で突進を避けて見せる。ちなみにこの時点で陣形はめちゃくちゃだ。

〈おいお前等陣形に戻れ!〉

 またも委員長の怒声が飛ぶ。

 何とか陣形を戻した所で、3番機ナビゲーターの緊張を孕んだ声が入り込む。

〈間もなく作戦開始高度です〉

 気が付けば、さっきに比べて海が随分と近づいて来ていた。もう成層圏まで落ちているだろう。

〈了解、総員戦闘準備!〉

 委員長の言葉に全機が装甲内から手足を展開した。1番機はリアパックからKR用のアサルトライフルを展開し構える。1番機は隊長機らしく機体左側に通信用アンテナが装備されている。

〈了解した〉

 2番機はウェストにマウントされた大型のスナイパーライフル(KR様に作られたそれはもはや砲の様な物だが)を両手に保持する。2番機は大型兵器を携帯する関係上、機体後部に推進剤タンク兼用の追加ブース―ターを装備していた。

〈了解だぜ〉

 3番機はショルダーパックからKR用サブマシンガンを2丁両手に装備する。3番機は前衛なので機体の各所に予備弾薬が装備され、腰のマウントにも予備の銃器が装備されてある。

 俺もコクピット内でパネルを操作し、火器管制を起動させ、システムにリンクさせる。

 全天周囲モニターに[FCS ONLINE]と表示される。

「了解」

 短く呟いて、機体を操作する。サイドパックからKR用アサルトライフルを取り出し、機体右手に保持させた。俺の4番機は主に後方支援と補給が主な役割だ。その為に機体の背後には機体の半分くらいの大きさのバックパック兼追加スラスターが装備されてあった。その為に機体のレスポンスは結構重い。

 戦闘モードになったことで全天周囲モニターに表示される情報も増える。作戦エリアを示すラインや、アイコン等が表示され、重要性を示したつもりなのか軌道エレベーターには黄色と黒のマスキングが施され、攻撃不可という表示が出る拘りようだ。

 他にも、その周囲に漂っている撮影用の無人ヘリ等が識別コード民間と表示され、攻撃非推奨と表示が出る。

〈報道科のヘリ来てますね〉

 3番機ナビが抑揚のない声で呟く。

〈向こうの訓練も兼ねているのでしょうね〉

 これは1番機ナビ副委員長。

〈邪魔ですわね、もっと作戦区域から離れる様に通達出来ませんの?〉

〈言っても多分聞かないわよ、向こうもスクープ撮るのに必死なんだから〉

 2番機ナビの発言に、4番機(うち)のナビ担当の観言が呆れたような口調で返答する。

〈幸い軌道エレベーターにぴったり張り付いているんだ、当初の作戦通り距離を取って戦えばいいだろう〉

 という委員長の言葉が終わると同時に。

〈敵の熱源をキャッチ、もう間もなく遭遇(エンカウント)ですわ〉

 2番機ナビの言葉と同時に、モニターに敵を意味するポインターが4つ点灯する。

〈っしゃぁ来なすったぜ!〉

 3番機が両手のサブマシンガンを嬉しそうに振り回す。

〈これより各員戦闘状況を開始とする、スラスターオン!〉

 委員長の指示に合わせて、全機が下部スラスターを垂直に吹かす。これにより降下速度にブレーキが掛かった。同時に機体間の距離を開け散開しつつ敵の迎撃する陣形を取る。直前のいつも通りのやり取りが皆の緊張を緩和したのかもしれない。一糸乱れぬ優雅な動きは、まるで一匹の生き物の様な滑らかだった。訓練の成果を存分に発揮出来たと言っていいだろう。

 しかし上手く行ったのはここまでだった。

〈そンじゃお先に行くぜ!〉

 そう通信を残して、3番機が敵陣に向かって飛び出すようにブースターを吹かした。迎撃陣形とはいったい何だったのかを考えさせるほどの見事な先走りだった。

〈あいつ死ぬわね〉

 2番機の意見には酷く同感だ。

「あいつこそミッション内容ちゃんと把握しているのかね」

 他人事のように呟いて、モニターを注視する。

 敵方は特出してきた3番機を迎撃する陣形を取ったようだ。

〈おい誰かサポートしてやれよ!〉

〈私は嫌〉

 委員長の言葉を3番機が跳ねのける。

「俺も嫌だ、っていうかもう当初の作戦は続行不可能じゃないか」

 レーダーに目を通すと、早くも3番機は交戦可能距離にまで近づいていた。

〈仕方ない、作戦を変更する。3番機を囮にして1、2、4番機で敵を囲い込む。2番機は3番機を追って先行しフォローしてやってくれ〉

〈全くしょうがないわね〉

 今度は委員長の指示を受け、3番機も陣形を離れ敵の居る方へと進んでいった。頼み事は断ったが正式な作戦としての指示ならば断わる事は出来ない。ただし通信越しの声が何処となく愉しげに聞こえたのは気の所為だろうか。

〈1番機と2番機は現高度を維持しつつ敵を包囲する〉

「了解」

 俺も委員長の指示を受け、手短に返事を返す。

 通信が途切れたことを確認して、コクピット内で呟いた。

「まぁこの程度じゃ遊びにもならないんだけどね」

 操縦桿を操作し、1番機についていく様に戦場へと推進機関を吹かせる。向こうは早くも格闘戦(ドッグファイト)を始めているようだった。

 敵は機体も数もこちらと同じ。モニターで確認する限り、カラーリングが迷彩風のペイントというくらいしか違いは無い。

 状況はこちらの強襲を敵が迎撃する形で戦闘に突入したようだ。こちらが本来行う予定の作戦を返された形になる。しかし予想よりも早く3番機が突入したことで、敵の対処が遅れ混戦状態になっていた。

〈おおう! やべぇ敵の攻撃を受けている! 誰か援護ぉ!〉

 挙句追い詰められているのだから3番機は世話が焼ける。

〈作戦を無視して突っ込むからだ、3番機何処だ?〉

 敵機の攻撃を避けながら、お返しにとばかりに攻撃を返しつつ2番機が戦況に突入した。パイロットの問いかけに専属のナビゲーターが返答する。

〈えっと3番機は……今御姉様が撃った機体ですわね〉

〈……すまない、味方を誤射した。皆いついかなる時も[警戒を怠るな(ドゥノットネグレクケーション)]だぞ〉

混戦状態な上に同型機同士の戦いだ。味方識別信号やカラーの塗り分けも、高機動を得意とするKRでは効果は薄い。誰も2番機を責める事は出来ないだろう。

〈うぉう! ヤバい高度が上がらねぇ!〉

〈3番機被弾、スラスターに異常発生、作戦可能限界高度に近づいています、上昇してください……あ、3番機戦線離脱を確認、皆さんウチのパイロットがまた墜落しました〉

 3番機ナビの言葉に、何故か周囲から拍手が起こった。

〈流石は[墜落王(エース)]! 今回は敵機落とした?〉

 2番機が楽しそうに問う。

〈あー、多少損害を与えたようですが今回は撃墜無しです〉

 3番機ナビが律儀に答える。

「じゃ負け越しだな」

 俺も周囲のノリに合わせて軽口を叩く。

〈仕方ない、俺とお前で穴を埋めるぞ。1番機と4番機突入!〉

 敵陣には2番機が残され、敵機の集中攻撃を何とかかわしている。しかし、このままではいずれ避け切れなくなるだろう。委員長は敵の包囲を諦め、残る味方機で可能な限り敵を分断し各個撃破のチャンスを作ろうと考えたようだ。

 委員長の指示に、俺は口の端を釣り上げた。

「待ってました!」



[アルカの手記-002]


「何という事だ!」

〈いかがいたしましたか姫様?〉

「マニュアルを読んでみたが、地球人が使うこの機動兵器なかなかに操縦が難しそうではないか!」

〈おお何と、今回も出番が無い事にお嘆きなのではないのですね〉

「その辺はここいらで騒いだ所でどうにかなる物でもあるまい、王者とは座して待つモノだ」

〈流石は姫様、達観してらっしゃる〉

「操縦桿を前に倒して前進と、ふむ、操縦に腕と足を使わねばならんとは厄介だな」

〈いえ姫様、機星も手足を使って操縦いたしますが……〉

「何!? そうなのか?」

〈そんな事で一体今までどうやって操縦を……は、まさか機星に操縦の代行を頼んでおりましたな!〉

「ハン、この我が配下の機星にわざわざ頼む訳があるまい! 訓練の際はボタン一つで勝手に動くようプログラムを入れただけだ」

〈そんなことをしては何時まで経っても上達しませんぞ!〉

「何を言うか、そもそも乗り込んで操縦するという事自体がナンセンスなのだ。勝手に動いてくれるならばそれに越した事はあるまい。いいかこの仕組みを組み込む事によって、我が手を下さずとも永遠に敵を倒してレアドロの回収をだな」

〈何の話をしておいでですか!?〉


[続く]

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