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イケメンはご遠慮いたします。  作者: 紫野 月
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 親愛なる母上様

 11月に入りめっきり寒くなってまいりましたが、お変わりございませんでしょうか。

 きっとあなた様の事ですから仕事と家事を見事に両立させ趣味のフラダンスでストレスを解消し、毎日元気にお過ごしのことと存じます。

 さて、突然お手紙を差し上げ驚いていらしゃると思いますが、折り入って相談がございましたので、こうしてペンをとらせていただきました。

 大変申し訳ないのですが、そちらに帰ってニートになっても宜しいでしょうか?



 宜しいわけないですね。はい、失礼しました。

 私、千葉 美鈴は今とっても追い詰められております。

 脳内で母親宛にわけのわからん手紙仕様の独り言言っちゃうくらいメンタルがヤバイことになってます。

 本気で会社辞めて、アパート引き払って、実家に戻って引きこもりたい気分です。

 私の職場での立ち位置が微妙から辛いにレベルアップしちゃったんです。

 皆さんまるで私が存在していないかのように振る舞うんです。会話はおろか挨拶すら返してもらえません。いるのにいないふりをされるなんて、なんだか幽霊になった気分です。そう、ゴースト社員にされちゃいました。

 この立ち位置、今日で5日目ですが、そろそろ耐えられなくなりそうです。


 微妙な立場の時は面倒な書類作成とか、単純だけど時間のかかる検算とかファイリングとか、そんなみんながやりたがらない仕事を押し付けられてましたけど、ある日を境にパタリと仕事を回してもらえなくなったんです。

 ええ、ある日突然です。

 どうしてこうなったか大体の見当は付きましたが、同期の子に頼み込んで教えてもらいました。

 そしたらやっぱり想像どおりだったんです。

 そうです、あの人です。松木先輩が激怒しちゃったんです。

 もちろん、あの方絡みで……

 あれは一週間前のとある昼下がり。

 私は電話番で昼休憩は1時からでした。その日は特に寒かったし休憩時間も1時間ずれてるからいいやと思って、久し振りに食堂でB定食350円也を食べていたらあの方がいらっしゃって、他にも席がいっぱい空いていたにもかかわらず何故か相席でご飯を食べることになっちゃったわけですよ。

 そしてそのことをごてーねーに松木先輩の耳に入れちゃってくれた人がおりましてですね。本当何してくれるんじゃ! ってカンジです。

 私が五十嵐さんと楽しくお話ししながらランチしてたって、仲間内で話しているのを偶々松木先輩が聞いてしまったと彼女は言ってましたが、本当かどうか物凄く怪しいです。もしかしたら態と聞こえるように喋ってたんじゃないかと……


 まっ、そんなことはドーでもいいです。

 問題はこの困った事態をどうするかです。

 仕事をしにきているのに仕事をさせてもらえない。これって結構きついです。

 他のみんなは忙しそうにしてるのに私だけ何にもすることがないって凄くいたたまれません。

 同僚に手伝うと声をかけたんですが無視されてしまいましてね…… それも一人や二人じゃなくです。みんな松木先輩が怖いんですね。分かります!

 ならばと、昨日は思い切って松木先輩に仕事のお手伝いを申し出たのですが「男を落すことにばかり真剣で仕事がうわの空になってる貴女に手伝ってもらって、取り返しがきかないようなミスをされたら困るからいらないわ」とまあ皆に聞こえるように言われたのです。


 総務に配属されて約半年。

 そりゃいろいろありましたよ。

 最初の頃はイージーミスを重ねて諸先輩方に大変ご迷惑をおかけした事もありました。今だってごくたま~にやらかす時があります。

 でも、任された仕事を疎かにした事はありません。

 そりゃまあ集中力が途切れてボケっとしたことはありましたけど、誓って仕事中に男の人の事を考えて手を抜いたなんてしたことありませんよ。

 そう思っても先輩に向かって言い返す勇気が私にはありません。


 なので、昨日は長い勤務時間を電話番とメモ用紙作りと裏封筒作りに費やしました。

 そして今日は書庫に籠って整理整頓をしております。

 明日は何をすればいいのでしょうか。

 なんでこんなこと考えなきゃいけないんでしょう。

 なんでこんな目に合わなければならないんでしょう。

 なんか、すごく、疲れました。


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