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イケメンはご遠慮いたします。  作者: 紫野 月
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 その日から私はお昼時間が近付くたびに挙動不審者です。

 人が動くとビクッとし、用もないのに何度も扉をチラ見したり、時計の秒針をじーっと目で追ったり。休憩チャイムと同時に他部署のひとが来ようものなら心臓が壊れそうなくらいドキリとします。

 ああ、私って本当に小心者です。

 五十嵐さんがランチを誘いに来るなんて有り得ないって思っていながら、いやあの優しい五十嵐さんなら本当にくるかも、とか考えたり。そしてもし来た場合どうしたらいいのか本気で悩んでいたりするのです。


 ふう、取りあえず今日も大丈夫のようです。

 12時のチャイムが鳴って数分が経過し事務所にはほとんど人がいなくなりました。

 総務の皆さんは弁当派、食堂派、外食派に別れ、それぞれ連れ立ってランチに行ってしまいました。

 微妙な立場の私は、どなたからも誘われずポツリと取り残されております。まあ、いつものことです。

 なんか課長&主任の視線を感じるような気がします。

『あいつはコミュニケーション能力がない』なんて思われちゃってんのかな。まさかお給料の査定に響いたりしないよね。ホント勘弁して下さい。


 さて、お弁当を持ってほとんど人のいない屋上にGoです。

 お弁当といってもパンと牛乳ですけどね。

 多分五十嵐さんが必要以上に私に気をかけてくれるのは、私の食生活がダメダメだって事を言っちゃったからなんだと思うんです。


 えーとですね、私、彼氏にケッコー貢いでたんです。

 あっ、もちろんお金を渡したことはないですよ。

 ただデートや外食の費用は全額私持ちだったし、彼の誕生日やクリスマスなんかにブランド物のプレゼントしたりしてたんです。

 こう時期が近付くと何気ない風で彼が言うんですよ「あっ、これいいなっ!」ってさ。うん万円もする財布とか服とか……

 お馬鹿なあの頃の私は少ないバイト代をせっせと貯めて、高いプレゼント買ってたんですよ。渡す時の一瞬の笑顔を見るために。

 だから私はいつでも金欠病で。それは仕事をするようになってからも続いてたんだ。

 実は彼の誕生日に十数万の時計をプレゼントする為、飲まず食わずで過ごしてたんです。

 自分の食費を削ってまで貢ぐなんて、都合のいい女って言われても仕方ないですよね。

 あん時の私の食生活はマジでやばかった。朝ヌキ・晩カップメンだったもんね。お昼は会社の人と一緒に社食に行ってたんだけど、いつも一番安い素うどんでさ。

 でも、そこしか削れなかったんだよね。

 家賃や光熱費はどうしようもないし、服だって化粧品だってそれなりにしないといけないし。まさか着古したジャージで出勤するわけにいかないじゃない。

 


 本当、馬鹿だよね……

 そのせいで貧血起こして倒れちゃったんだから。

 それでもってその時五十嵐さんにお世話になったのよね。

 ふらふらしてた私に声を掛けて(他の人は知らんふりだった)忙しいのも構わず医務室まで付き添ってくれた(本当に親切な人だよね)その後も何度か話しかけてくれて(これはちょっと行き過ぎだったけど)その時の会話で私ポロリと言っちゃったわけよ。カップメンしか食べてないってさ……

 なんでそんなこと言っちゃったんだろう。

 だから余計に心配されて、出会うたびに「ちゃんと食べてる?」「カップメンじゃ駄目だよ。栄養のあるものだよ」って声かけられて。ああ、それで松木先輩に疑われちゃったんだよ… ううう、口は禍の元かぁ。


 今はちゃんと食べてますよ。基本朝と晩は手料理してるしね。もちろん栄養バランス考えてます。カップメンは卒業したんです(って時々お世話になってるけどね)。

 お昼をパンにしているのは、もしかしたら「一緒にお昼行こう」って今日は誰かが言ってくれるんじゃないかと期待してるから。パンだったら賞味期限ケッコーあるし。食べ物を粗末にしちゃダメだもんね。


 そろそろ秋風が冷たく感じられる季節だし。

 いつまでも屋上でお昼ってわけにはいかない。

 冬になる前に一緒にお昼食べる人ができるかな。

 なんか、すごく、むなしい。


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