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本当にありがとうございました。
なんで? 帰ったんじゃないの? さっきエレベーターの前にいたよね。だからやり過ごしたのに。駅でばったりにならないようワザと時間あけたのに。どうしてここで会うのー!
ピキッと石化している私に気が付いた五十嵐さんは爽やかな笑顔でおっしゃった。
「お疲れ様」
『お願いだから挨拶だけで済ませて、そのまま行って下さい。誰かに見られるとまずいんです!』と、心の中で盛大に叫んだのだが通じなかった(当たり前か)らしく五十嵐さんは私の前で足を止めた。
「今まで残業だったの? もう7時回ってるよ。週末は総務も大変なんだね」
誰の…… 誰のせいだと思ってるんですか。
今日はちゃんこ屋(ここ重要)さんで女子会があるから、私それに間に合うよう朝からチャッチャと仕事して定時に上がれるようにしてたんです。なのに終業間際に仕事を振られて、主任の冷たい視線に晒されながら頑張って仕上げたんです。本当に大変で、本当にお疲れさんなんですよ! マジで身も心もズタボロ状態なんです!!
沸々と怒りがこみ上げてくる。
分かっているよ。五十嵐さんは何も悪くない。
五十嵐さんは、自分が声を掛けたせいで私が残業を押し付けられているなんて、これっぽっちも知らないだろう。そして今現在私に話しかけていることで更に私の立場が悪化するなんて、想像すら出来ないに違いない。
「うちも今忙しくてね。今日はまだ帰れそうにないから買い出しに行って来たところなんだ。はい」
五十嵐さんは手に持っていたコンビニの袋の中からチョコを取り出すと私に手渡してくれた。
「大丈夫? なんだか疲れた顔してる。また倒れたりしないようちゃんと食べてゆっくり休むんだよ」
そう言ってにっこり笑う五十嵐さんは本物の王子様のようだ。
その笑顔に私のやさぐれてた心が癒されていく。イケメンの笑顔ハンパネェ(いや決してチョコを貰ったからじゃないよ)
「それじゃ気を付けて帰ってね」
「ありがとうございます」
私はペコリと頭を下げた。
「あっ、そうだ。今度お昼食べに行こう。誘いに行くよ、じゃあね」
私は頭を下げた状態で再び石化した。
えっ、今、なんつった? この人。
お昼?
食べる? 誰と誰が? えっ、えっ、ええ__
これはまずい。絶対にまずい。
一緒にご飯に行ったら、私、事務所に帰った途端、松木先輩に絞殺される。
いや、殺されはしないだろうが、それに近い制裁が待っているに違いない。
それは何としても避けたい。
これはハッキリお断りしなければ。
「あの、五十嵐さん… って」
いねぇ___っ。どんだけ足速いのよ。それとも私の石化時間が長かったのか? いや、そんなことはどうでもいいよ。それよりも……
ど、ど、ど、ど、どうしよう。
今、私、五十嵐さんに一緒に食事しようって言われたよね。
幻聴じゃないよね。
うん、言った。聞いた。確かにこの耳で聞いた。
「誘いに行くよ」と言ってた。
……総務課に来るんだよね。
総務のみんなの前で誘われたら私……
待て。落ち着け。とにかく冷静になれ。
これはきっと社交辞令だ。そうだ、そうに違いない。
社内イケメントップスリーに数えられるあの五十嵐さんが、本気で私を誘うなんて有り得ない。
そうだよ、ほら、結構みんなその場のノリで言うじゃない「今度一緒に飲みに行きましょう」とか「わあ、楽しそう。次は私にも声をかけてくださいね」とか。そんなこと言ってても結局本当に飲みに行ったり遊びに誘われることなんてなくて、いつの間にか約束したことすら忘れてしまうという。
うん、それだよ。それ、それ。きっとそう。
お願いです。そういう事にしておいて下さい。
チンと音がしてエレベーターの扉が開く。
お そ い ん だ よ
もっと早く。そう五十嵐さんが乗ってたエレベーターよりもほんの数秒でいいから早く来てくれたらよかったのに。
「職務怠慢だぞ」っとなかなか来なかったエレベーターに毒づく。
エレベーターは帰ろうとする各階の人達を拾っていたらしく、中は満員に近かった。というか満員だった。私が乗った途端、ブーっと定員オーバーのブザーが鳴り響いたのだから。
無情にもエレベーターの扉は閉まり。ランプが下へと降りていく。
「階段でいこう」
最初からそうすればよかった。
急がば回れかぁ…… なんてふと思った。