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イケメンはご遠慮いたします。  作者: 紫野 月
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 洗面台で手を洗う。鏡に映る私は大変疲れた顔をしている。

 あっ、失恋のせいじゃないよ。

 確かに振られた日はショックで暴れちゃったし、その数日後にあった女子会ではメンバーに迷惑かけちゃうくらい酔っ払っちゃったけどね。あの日は私の部屋で鍋パーティーをしたの。だからかな、思う存分食べて飲んで泣いて、彼の悪口をこれでもかってほど聞いてもらってさ、随分すっきりしたもの。

 まだ少し引き摺ってるけどもう大丈夫。後は時間が癒してくれると思う。

 私の純情可憐(とは言い難いところもあるが)な乙女心を踏みにじった奴なんて、もう過去の事なのよ!


 それより仕事場での人間関係の悩みの方が重大。なんたって死活問題なんだもの。

 今はまだちょっとした意地悪程度だけど、この先酷くなっていく可能性があるじゃない。課のみんなからイジメられて精神的に追い詰められてボロボロになって退社…… なんて絶対にヤダ!!

 せっかく優良企業に社員として入れたんだもの、定年退職するまで勤めたい。

 仕事内容も好きなのよ。

 ごちゃごちゃしている伝票をキレーに仕分けできた時なんて物凄く気持ちがいいし、文書を作成するのも大好き。ワードやエクセルだってお手のもんよ。

 事務は私の天職だと思ってる。


 みんなと元通りになる手っ取り早い方法は、やっぱり松木先輩のご機嫌を直すことだよね。

 私が五十嵐さんにちょっかいをかけたと勘違いしてるんだからそこを正せば万事丸く収まるんだけど、これが難問なのよ。

 初めて五十嵐さんとのことを聞かれた時、ちゃんとありのまま話したんだけど、妙に勘繰られたんだよね。

 ワザと五十嵐さんの前で気分が悪くなったフリをしたんじゃないかってね。そこで私の顔と存在を覚えてもらって、そしてそこから猛烈ラブアタック開始!!

 ……だーっ! もう! 猛烈ラブアタックなんかしてないって見てたら分かるだろう。

 そりゃその後も何回か話したけど、決して私から声を掛けたことなんてないし。それに最近じゃ極力出会わないように地味~な努力をしているくらいだよ。なんで分かってもらえないかなぁー。

 それともアレか。私みたいな一般人は五十嵐さんと口をきいただけでアウトなのか? そうなのか?

「もう二度と五十嵐さんとはお話ししません。見かけたら全力疾走で逃げます。もし偶然出会てしまっても絶対口をききません。誓います。だからどうか許してください。お願いします!」って言っても駄目だろうな。

 いや、それどころかもっとヤヤコシイことになるかも。

 これってつまり『松木先輩は五十嵐さんがらみで私の事イジメてますよね』って言っちゃってるようなもんだよね。

 ソンナコト面と向かって言ったりしたら…… あなおそろしや。


 私はかぶりを振ると女子トイレを後にしエレベーターホールを目指した。

 五十嵐さんに私に会ってももう話しかけないで下さいって言えばいいのかな… でも、そんな変な事言えないし。第一私から話しかけるなんてリスクが大きすぎるよ、うん。

 それなら課長か主任に相談…… する程酷いことされてるわけでもないしなぁ… 今は。

 あーあ、どうしたもんかねぇー。誰かいい知恵を貸してくれ。


 三ヶ月前ならさ「私、彼氏がいるんですよ」て言えたんだけどね。別れちゃったしね。

 新しい恋をする気もまだ起きない。

 ってか相手がさ、いない。

 何処かに私好みのイケメンさんがいないかな。

 もちろん元カレ小林最低男みたいな人じゃなくて、性格も花丸な人がさ。

 その点、五十嵐さんはさ、顔も性格もいい人なんだよね。

 あそこまでイケメンじゃなけりゃ彼のこと好きになってたかも。

 なんていうか、五十嵐さんはさ王子様って感じなんだ。

 そう、白薔薇の王子様(笑)

 ホリの深い綺麗な顔、優雅な佇まい、そして優しい言葉使い。

 私はどちらかというと王子より騎士の方が好き。

 いや私ごときが、イケメン様の容姿についてドーコー言うのは烏滸がましい事だと百も承知しておりますですよ。ええ、もちろん。



 『早く来ないかなぁ』と思いながら段々と降りてくるエレベーターのランプをそれとなく眺めてる。

 まあ、あれだよ。なるようにしかならないんだし、無闇矢鱈に悩んでいてもしょうがない。

 今の私に出来るのは五十嵐さんに遭遇しないよう気を付けることぐらいなんだし、そうしていれば何時か誤解も解けて……

 それにしても、エレベーター遅いなぁ。上で何やってんだよ、各駅停車か? 

 私は早くちゃんこ屋さんに行きたいんだよ。それでなくてもチョット時間をロスしてんだしさ、早く来い。

 こんな時って待ち時間がいやに長く感じるよね。ほら、下の階から上がってくるお隣のエレベーターの方がスムーズに動いてる気がするよ。


 程なくチンと音がして隣のエレベーターの扉が開いた。

 そしてそこから今私が最も会ってはいけない人、五十嵐さんが降りていらっしゃった。

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