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フロアが変わってそうそう会う事はないと思っていたのにたった二週間でバッタリなんて…… まっ、同じ社屋にいるんだしこういう事もありますよね。
エセ紳士だと分かっているけど、それでもやっぱり五十嵐さんは素敵です。彼が立っている所だけキラキラ輝いて見えます。これが少女漫画なら背中にバラの花をしょってますね。本当に白バラの王子様みたいです。
そしていつものように王子スマイルを浮かべています。何も知らない時はあの微笑みに心を持っていかれてましたっけ。ですがあのコトを知った今は胡散臭く見えて仕方ありません。
化けの皮が剝がれた彼と同じ空間にいるのは苦痛です。
なのでここはソッコーで立ち去ることにいたしましょう。
「お疲れ様です」
軽く会釈をしながら彼の横を通り過ぎようと思ったのですが、なぜか一瞬で立ち位置が変わっておりました。
前方に五十嵐さん。後方は壁…… なんでこうなった?
「しばらく見かけないと思ったら営業部に応援に行っているんだってね。大変だね」
私はなんで壁際にいるの? 今いったいどういう動きをしたんでしょう、彼は。イリュージョンか?
「でも顔色はいいみたいだし元気そうで安心したよ」
ぎゃあぁぁ こっち来ないで。それ以上近付かないで!
「姿が見えなくなってとても心配してたんだよ。もしかしたらまた体調をくずして休んでいるのかと…」
それ違うよね。賭けの対象者が見えなくなって慌てたってのが正解でしょ。
もう、このまま賭けの期限まで会わずにいたかったのに。こんな所に隠れるんじゃなかった。広田さんのせいだ、馬鹿!(八つ当たり)
「水臭いなぁ。一言言ってくれればそんな心配しなくてもすんだのに」
だ~か~ら~ もうそれ以上近付かないでぇぇぇ
私の心の叫びが通じたのか取り敢えず止まってくれました。
『ああよかった』と思った時、不意に耳元で甘~く囁かれたのです。
「悪い子だね、千葉さんは」
ぞわっ…… と背筋に悪寒が走りました。
彼の上っ面だけの甘い言葉に寒気がします。
てか、本気で鳥肌が立ちました。
「ねえ、前に食事に行く約束をしたの覚えてる?」
してましたっけ? いや違う、あれはお昼ご飯に誘うって一方的にあなたが言っただけで同意した覚えはないですよ。
「今から行こうか。ご馳走するよ」
その言葉でハッと思い出しました。
私、この後鈴木さんと食事に行く約束をしていたんでした。
あまりの衝撃にすっ飛ばしていましたよ。
早くエントランスに行かないと、そろそろ忘れ物を取りに行った鈴木さんが戻ってくるはずです。
「すっ、すみません五十嵐さん。私、これから、同僚の方と食事に行く約束をしていまして、時間が__」
一瞬、五十嵐さんの顔から笑みが消えました。
しかし、すぐに王子スマイルを復活させました。でも私は見逃さなかったわよ。
「そう、残念……」
本当に残念そうな顔してます。今日『落とす』つもりだったのでしょうか? きっとそうですね。予定が狂って残念なんですね。
「はい、もう時間なのでこれで失礼します」
「それなら次の機会にね。約束だよ」
「いえ、それはお構いなく」
「約束したよ」
少し強めに言われ体がビクッとしてしまいました。私のその反応を楽しむように彼が笑った。
「じゃ、またね」
最後まで笑顔を振りまいていく五十嵐さん。彼の背を見ながら私は小さくつぶやいた。「一昨日きやがれ。です」
いったい賭けの期限っていつなんでしょうか?
あの時、期限まで一ヶ月あるって言ってたからあと二週間くらいかな。長いような短いような……




