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イケメンはご遠慮いたします。  作者: 紫野 月
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 昨晩いきなり宣戦布告(?)され、『これから一体どうなるんだろうか』と恐る恐る事務所に入ったのですが、どうやら杞憂のようでした。

 奥村さんも鈴木さんもいつも通り接してくれました。取り敢えず一安心です。

 今まで溜まっていた仕事が片付いたとはいえ、月末が近くあとからあとから仕事が湧いて出てます。とても忙しいです。なので勝負とかライバルだとかそんなこと言ってられないのかもしれません。


 総務もそれなりに忙しく活気がありましたが、営業はその比ではありません。営業さんが事務所にいる間は活気というより騒々しいってカンジです。あ、そんな事言っちゃいけませんよね。営業さんが毎日頑張って下さっているから、私はお給料が毎月ちゃんと頂けるのです。誠にありがたいことです。

 そんな営業さんのお手伝いが出来るなんて! とは言っても今の私は奥村さん・鈴木さんの補助(いわゆる雑用)しか出来ません。まだまだ半人前の私(というよりど素人)ですが、一日でも早く皆さんのお役に立つ一人前の営業事務員になるよう頑張る所存であります。



 ということで、気合を入れつつ奥村さんに頼まれた会議用資料30部のコピーをしている時でした、フラッと広田さんがやって来て爽やかスマイルで爆弾を投下してきたのです。

「ねえ千葉さん、俺の事好きなんだって? 嬉しいなぁ。俺、千葉さんのことすっごくタイプなんだ。両思いだね」

「!!??」

「お互いをもっと知りあう為に今度デートしようよ」

「えっ? えっ? えっ?」

「いつがいいかな。今度の土曜なんてどう?」

 ちょっと待って ちょっと待って タンマ タンマ タンマ!

 なんですかこれ?

 いつ私が広田さんのことが好きだと言いました?

 私、そんなこと、これっぽっちも___ とその時です、何故か奥村さんと目が合いました。どうやらこちらを凝視していた模様です。奥村さんはニッコリ笑うとグッドサインをしてきました。

 もしかして奥村さんが広田さんに「千葉さん広田君のこと好きだって言ってたよ」とか言ったんじゃ!?

 瞬間、私の頭にその考えがよぎりました。


 水嶋さん狙いの女子を一人でも減らすために奥村さんがでっち上げを…… それともタイプだと言ったあの言葉を拡大解釈して私の代わりに告白を? 

 ああ、今はそんな事どっちだっていいよ… いや、よくないけど。善意か悪意かおせっかいか。そこはとっても重要。だって私の今後が掛かってる。だけど、とりあえずこの状況をどうするかです。

 あっ、いえ、どうするかは決まっています。『ハッキリキッパリお断りする』です。

 ただ、広田さんの淀みないトークに口が差し挟めません。私さっきから「あの」「いえ」「その」しか言えてません。

 そうこうしているうちに広田さんは話をドンドン進めていきます。

 強引なんですね広田さん。

 私「行く」なんてひとっことも言ってないですよ。お願いですから「私、行きません」と言わせて下さい。それと「俺のこと好き」を訂正させて下さい。


 困りました。このまま話に流されてデートに行くことになったら、あの誓いを僅か数日で破ることになります。

 水嶋さんほどではないでしょうが、広田さんにもファンが大勢いるに違いありません。私の平穏な日常の為にもここはちゃんと言わなくては……  って、人の話を聞いてよ広田さん。私の言葉はスルーですか? 広田さんのトークを止めるには思いっ切り大声で叫ぶしかないのでしょうか?

 でも事務所にはまだ営業さんが何人もいらっしゃいます。パーテーションで区切られた営業二課あっちにも営業三課こっちにも沢山の人がいるに違いありません。朝っぱらから大きな声を出して注目を集めるなんて恥ずかしすぎます。

 ああ、強引なお誘いをスマートにお断りするスキルが欲しい。


 なんて脳内会議をしているうちにアドレス交換まで話が進んでしまいました。広田さんはスマホを片手にスタンバっています。

 どうしましょう。千葉美鈴、ピンチです。

 

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