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イケメンはご遠慮いたします。  作者: 紫野 月
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 忘れ物をしたというので奥村さんとお店の前で別れることになりました。

 颯爽とピンヒールを響かせて立ち去る奥村さんを、鈴木さんと二人で手を振りながら見送ります。

 奥村さんの姿がビルの陰に隠れた瞬間、鈴木さんの表情が一変しました。私はびっくりして思わず鈴木さんを直視してしまいました。そんなことには構わず鈴木さんは肩をもみながら頭をゆっくり左右に傾げ、そして大きく背伸びをしました。

「ふーやれやれ、お局様の相手は疲れるわ。ねえ千葉さん」

「えっ? え… ええ、はい」

 お、お局様とは奥村さんのことでしょうか… そ、それしかないですよね。


「ふん、何が忘れ物よ。きっとこれからどこかのコンビニに寄ってさ『遅くまでお仕事大変ですね』とか言って差し入れするつもりなのよ。あざといわよね、まったく」

 ええ、それ本当ですか?

 奥村さん私には「正々堂々勝負よ!」とか言ってましたけど、それって抜け駆けなんじゃ…… それともそれくらいは許容範囲なのでしょうか? 

 まっ、どうでもいいですけどね。勝負するつもりはありませんから。

「ねえ、さっき私がトイレに行っていた間、お局様からいろいろ言われたんじゃない?」

 はっはっはっ、よくおわかりで。

「あの人水嶋さん狙いだから。それも結構マジで」

 ああ、やっぱり水嶋さんの方でしたか。 

 そうじゃないかなって気はしていました。

 広田さんだとすると五つばかり年上ですからね。ですが、昨今、年下の男の子というのもはやりですしもしかしたらと思って決めかねていたんです。よかった、これで謎が一つ解決しました。


「ってか、営業のフロアにいる女子社員は全て水嶋さんを狙っていると思ってもらって間違いないし。もちろん、フロア以外にも沢山いるんだろうけど」

 それって鈴木さんも水嶋さんを狙っているってことですか。そうだったんですか。私はてっきり広田さんと……

 あっ、そういえば三大イケメンはみんなフリーで、その彼女の座をめぐって日夜激しいバトルが繰り広げられていると聞いたことがありました。あれはまだ私が総務で楽しくやっていた頃でしたから、もう半年くらい前の情報ですが継続中なんですね。

 そうか、そうか、さすが三大イケメンの一人水嶋さん。フロアの女子全員が夢中とは!

 うーん、三大イケメンの前では広田さんほどのイケメンでも太刀打ちできないんだ。だからあんな風に誰でも彼でも声を掛けているのか。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる的な考えでしょうか。それで私にもお声が掛かったんですね。うん、勘違いしないようにしよう。


「あなたも水嶋さんにアプローチするんなら心しておいた方がいいわよ」

「えっ? いいえ、私は違いますから」

「いいって、いいって、分かってる。みんなそう言うのよ『私と水嶋さんじゃ釣り合いませんから』ってね。でも、心の中じゃあわよくば…って思っているのよ」

 ああ、まあ、確かに。以前の私なら確かにそうです。

 小林モトカレの時がそうでしたね。

 明らかに私と住んでいる世界が違った人気者の小林。私は遠くから見ているだけだったし、それで満足していた。

 そう、満足していたはずだったのに彼から告白してきたとき、あまりの嬉しさに舞い上がっちゃってそのままお花畑の住人になった。

 でもそのせいで私は精神的にも肉体的にもボロボロになった。

 あの日、小林から投げつけられた言葉の数々はいまだに私の心に刺さっている。

 もう二度と同じ轍を踏みたくはないのだ。


「ほとんどの人は控えめなアプローチなんだけど、うちのお局様みたいに熱烈アピ-ルしてる人も結構いるのよ。もう見ていて笑っちゃうくらい」

「ええ、笑っちゃうんですか?」

「うん、だって水嶋さん全然相手にしてないんだもん」

 あっ、そうか。水嶋さんは超クール。モテるからって「うふふ、アハハ」するタイプには見えない。

 この数日間で水嶋さんの姿を見かけたのは数えるほどだったけど、いつも近寄りがたいオーラを出していたっけ。

「それにね、ライバルの足を引っ張って自分を優位にしようって底意地の悪い人もいるから気をつけてね」

 ああ、やっぱりいるんですね、そういう人。

 でも大丈夫。

 私のタイプはnotイケメン。

 水嶋さんの彼女の座争奪戦に参加するつもりはございません。

最後までお読みいただきありがとうございます。

さて、お気付きの方もいらっしゃると思いますが、このお話の舞台は「だけど、やっぱり君が好き」と同じです。前作の登場人物がちょこちょこ出てくる予定ですが、前作を読んでいなくても全然大丈夫です。


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