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イケメンはご遠慮いたします。  作者: 紫野 月
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「お疲れ様。今、帰り?」

 そう言って私達三人に声を掛けてきたのは営業の広田さんでした。

 そう、総務で噂になっていた明るくて親しみやすいあの広田君です。

 広田さんはレモンとかライムが似合いそうな感じの、そうスポーツならテニスかサッカーをやってますみたいな爽やかタイプのイケメンさんです。

「あっ広田君。お疲れ様」

 奥村さんが代表(?)で返事をし、それに合わせるように鈴木さんが軽く会釈をしたので私も同じように頭を下げた。

「ねえ今、楽しそうな相談してたね。課長への報告パパッと済ませてくるからさ、俺も混ぜてよ。俺、千葉さんともっとお近付きになりたいんだ」

 ピンポイントで私に微笑みかける広田さん。

 ううっ。イケメンの笑顔はすごい武器だ。思わず「喜んで!」って言いそうになっちゃった。

 危ない危ない。あやうくあの誓いを忘れるところだった。イケメンと不用意に関わっちゃダメだった。よかった、ちゃんと思い出したよ。

 えーとこの三人の中で私は一番の若輩者。なので先輩方に判断はお任せです。


「却下!!」

 すかさず鈴木さんが答えた。

「えー、なんでだよ」

「当たり前でしょ。千葉さんがあんたの毒牙に引っかかるのを、黙ってみているわけにはいかないわ」

「毒牙って、それ酷くない」

「酷くない! まったくもう、あんたときたら… 女の子を見たらすぐに口説くクセどうにかしたら」

「可愛い子がいたら声を掛けるのは男の義務でしょう」

「あんたはイタリア人か!」

 どうやら広田さんは生粋のタラシのようです。

 その恵まれた容姿を最大限に活用して広く浅く女の子とお付き合いしている模様です。

 これは推測ですが鈴木さんが『毒牙』って言うからには、口説かれてその気になった女の子達は幸せにはなれなかったのでしょう。


 やっぱりイケメンはダメです。絶対に近付かないようにしよう。うん、関わっちゃいけないイケメンリストNo.2で登録しとこ。

 No.1はもちろんあの人、システム課の五十嵐です。

 あっ、久し振りに思い出しちゃった。

 ここんところ忙しくてあの一件は心の奥底に埋まってたのに。あー嫌な記憶が蘇ってきてしまう。

 思い出すなわたし。忘れろわたし。_____はい、大丈夫。もう、蓋できた。


 鈴木さんと広田さんのやりとりはまだ続いております。

 こう言ってはなんですが、お二人の会話は夫婦漫才のようです。

 突っ込みの鈴木さん、ボケの広田さん。なんだかすごく息がピッタリです。ああ、もう笑いコンビにしか見えません。

 私がそんな事を考えながらニマニマ眺めていると、奥村さんも同じ様な顔をしてた。

 それにしてもこのお笑いライブいつまで続くんでしょう。けど、ずーっと見ていたい気もします。あれかな、オチもちゃんとあるんでしょうか? ふと疑問に思った時です。

「二人は本当に仲良しねぇ。いっそのこと付き合っちゃえば」

 奥村さんの一言で二人の会話がピタリと止まりました。

「「こいつとだけはあり得ません」」

 あっハモった。

「やっぱり仲良しだわね」

 奥村さんがからかうように笑うと鈴木さんと広田さんが顔を見合わせ…た途端そっぽを向きました。

 ぷぷぷ、漫才からコントになっちゃった。


 喧嘩するほど仲がいいとは昔からよく言われてますよね。だとすると鈴木さんと広田さんは本当に仲良しなのかもしれません。

 それにお二人はとてもお似合いです。広田さんは中身はちょっと残念だけど見た目はサッカーボールが似合う爽やかイケメンだし、鈴木さんはチアリーダーをやってる可愛い女の子って感じだ。

 もし二人が高校生だったら校内公認の恋人同士で、ベストカップルなんて噂されてそう。少女漫画にありがちな設定ですけどね。

 あらら、私ったら妄想があらぬ方向へ飛躍してしまいました。


 ちょっと気まずい空気が流れちゃいましたが、奥村さんが広田さんに「今日は女子会だからまた今度の機会にねー」と明るく言ってくれたおかげで、どうにかその場は丸く収まりました。よかった、よかった。

 さあ、今度こそ食事会にGoです。

 

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